初恋づくし 〜俺の周りは初恋だらけ〜
しょぼん(´・ω・`)
プロローグ
プロローグ:またかと思い、まさかと思う
三月の終業式。
それだけのはず……だったのだが。
世の中それほど、甘くはなかった。
彼──
ややぼさっとした黒髪に、優しげな雰囲気を感じる柔らかな顔立ち。
決してイケメンというわけでもなく、とはいえ不細工なわけでもない、平凡そうな男子学生である。
そして。
その向かい側には、同じくブレザー姿の二人の美少女が立っていた。
一人は金髪の長髪に褐色の肌。スカートも短めに履いた、スタイルの良いギャル風の女子。
一人はやや藍色がかった暗めの長い髪を背中まで伸ばした、清楚感のある女子。
諒は相反しそうなこの二人の少女を知っている。
ギャル風の女子は
そして清楚そうな女子は
どちらも同じクラスのクラスメイトであり、どちらも学年でも人気の美少女だ。
萌絵は彼の前で俯き、もじもじと人差し指を重ね恥ずかしがり。
諒の目の前にいるはずのない珍しい二人。しかし、彼にとってある意味見慣れた……いや。見飽きた光景を見つめながら。
──はぁ。またか……。
諒はほんの一瞬だけ、疲れた顔をした。
彼の十六年という決して長くない人生の中で、こうやって女子と直接顔を合わせる事は多かった。
特に中学に入って以降、その機会は激増するばかり。
これがもし、自分に向けられた好意でもあれば違うのだろうが。誠に残念だが、彼がこのシチュエーションで告白された経験は一度もない。
そう。人生でたった一度も。
彼女達がこうやってもじもじと話しにくそうにする理由を、諒は経験から知っている。
だからこそ。
面倒くさいと思いつつも、無碍にしないように返す言葉を心で用意し、萌絵の言葉をじっと待つ。
「あ、あの。私、ね……」
ふと。
とてもか細い声が耳に届いた気がした。
が、あまりに小さい声に、聞き逃しそうになる。
一瞬諒が首を傾げたせいだろう。
「萌絵~。そんなんじゃ伝わらないって~」
大きくため息をついた
だが。
「だ、だって……」
ちらちらと横目で彼女を見ながら、萌絵は恥ずかしそうに、ただただ困った顔をするだけ。
ここに来て既に十分程。
埒のあかないこんな時間だけが、ただ無意味に過ぎていた。
諒もこの手の経験は慣れたもの。
とはいえ、無意識に顔に出ていたのだろう。
「ほら~。彼だって困ってるじゃん。折角来てもらったんだからさ。さらっと話してすっきりさっぱりしよ?」
学校でも人気の女子がこうやって目の前にいれば、心のひとつもときめく。それが男心かもしれない。だが、今の諒にはそんな気持ちはまったく沸かなかった。
ちらちらと上目遣いで彼の姿を伺っていた萌絵だったが、ついに意を決したのか。
目をぎゅっと閉じ、両手を胸の前で重ねると。
「あ、あの! 私! ア、アオイ君の事が、好きなんです!」
はっきりと澄んだ声で、彼女はそう強く言葉にした。
告白。
瞬間。
彼女にあるのは強い期待感ばかり溢れ出る、わくわくした表情。
……だが。
彼はまるでどこ吹く風と言わんばかりの、真逆さを感じる
「そっか。じゃあ
用意していた定型文を、予定通り彼女に返していた。
諒が口にした
その名を
諒と同い年で同じ学年。そして小学校時代からの幼馴染であり、親友である。
さらさらっとした茶髪。
精悍で線の細い顔。
身長は百七十センチの諒より遙かに高い百八十センチ。
細身ですらりとした体型も相成り、これほどまでにイケメンという言葉が似合う男もそういないだろう。
しかも。人に優しく、気遣いもでき、人当たりもよい。
彼は、同性であれば誰もが
そう。
そんな幼馴染を持つからこそ。諒はこんな告白の仲介役を山程経験していたのだ。
──あいつも、とっとと彼女を作ればいいのに……。
そう心で皮肉りながらも、同時に萌絵が
美男美女。
流石の
二人が揃えば、それはもう絵に描いたような、理想的なカップルの出来上がり。
正直、自分を挟んで会話せずとも良いんじゃないかと、少しだけ愚痴りたくなる。
だがそれも、親友の
そう思って言葉を呑んだ。
「それじゃあ、俺はここで」
最後の大仕事を終えた気持ちで、内心ほっとしながら二人にそう告げた時。諒はふと、彼女達の表情に違和感を覚えた。
何故なら、萌絵と
──ちょっと、言い方が悪かったか?
少しだけ反省するも。残念ながらそれ以上掛ける言葉も浮かばない。
だからこそ彼は、迷わず踵を返し、屋上の出口へと歩き去ろうとしたのだが……。
「ち、違うんです!!」
背後から、必死に引き止めようとする萌絵の叫びが届いた。
「え?」
思わず足を止め、肩越しに彼女を見ると。
彼女は泣きそうな顔をしながら。
「わ、私は! 青井……諒君が、好き、なんです……」
何とか絞り出すように、そう、言葉を紡いだ。
──……へ?
あり得ない相手から、人生で初めての言葉を耳にして。
瞬間。
諒の時間が。思考が。止まった。
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