ホラーのオチだけ置いていく

春海水亭

井田羽 美心 享年10歳

テーブルに置かれた誕生日ケーキの上には十本の蝋燭が円を描くように並んでいた。

電気の消えたリビングを十本の蝋燭の明かりだけが照らしている。

井田羽美心、中年男女二名はケーキを囲むように座っている。


「ハッピーバースデーミコ、ハッピーバースデーミコ」

井田羽美心の誕生日を祝福する中年男女二名の歌声が室内に響き渡った。

満面の笑みを浮かべて井田羽美心はそれを聞いている。


「さぁ、ミコ。ロウソクの火を消そうか」

「はーい」

男性の促す声に、井田羽美心が蝋燭の火に向けて息を吹きかけた。

一度の息で蝋燭の火は全て消え、それを見た中年男女二名が拍手を送る。

光源が消え、室内の光景は不明瞭。


「よーし、じゃあ次はどうかな?」

液体を床に撒く音。

チッチッというライターの点火音。

黒煙を上げて床一面が燃えている。


「がんばれーミコ、がんばれーミコ」

中年男女二名が笑顔を浮かべ、井田羽美心に声をかけている。

二名は炎の直ぐ側に直立している。

井田羽美心は這いつくばって、炎に向かって息を吹きかけている。


炎が勢いを増していく。

それらを一切意に介すること無く、井田羽美心は炎に向けて息を吹き続けている。


以上が発見されたビデオカメラの映像である。

井田羽家の焼け跡から見つかった遺体は井田羽美心のものだけで、

中年男女二名、及びこの映像の撮影者の詳細はいまだに不明である。


井田羽 幸次郎、井田羽 明美、井田羽 晴彦の行方は現在も分かっていない。

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