母の故郷にはネコがいる
入江弥彦
さようなら、また会う日まで
ニャアと鳴いたのはなぜだろう。
本物の猫とは程遠い、甘ったるい声。私を呼ぶように手招きして見せたキョウコさんは、元から猫みたいな吊り目をさらに細くしてもう一度ニャアといった。
「どうしたんですか?」
立ち上がってキョウコさんの座っているソファーに向かうと、彼女は私のスペースを埋めるように体を横たえる。
「それじゃ座れませんよ」
「座らなければいいじゃない」
「人間の言葉、喋れるようになりましたか」
キョウコさんの顔の前にしゃがんでそう言うと、彼女は先ほどまでの遊びを思い出したのか小さく舌を出した。
「スミちゃんには猫語じゃ伝わらないみたいだから。人間に進化したのよ」
「猫からですか?」
「うーん、退化かもね」
そう言ってケラケラと音がしそうな笑顔を浮かべたキョウコさんが私の首に手を回す。
「学校、やめてここに住めばいいじゃない」
「そういうわけにはいきません」
「わかってるわよう」
キョウコさんは子供のようにグズグズと駄々をこねて言葉を続ける。
「でもスミちゃん、明日帰っちゃうんでしょう?」
いいえ、帰りません。
そう言ってしたり顔をすれば彼女はいつもの余裕そうな笑みを少しは崩してくれるだろうか。
「ええ、朝一の船で」
私の首に顔を埋める彼女の表情は見えない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます