第253話 閑話:ミンティシア⑧

ミンティシア side




恋い焦がれたのが王太子であるお兄様以外だったなら、お父様もソウル様との結婚をお許しになっただろう。

ソウル様は、Sランク冒険者。

しかも、魔族を倒せる方なのだから。



『私達は、ディアちゃんの幸せを何よりも望んでいるの。』

『もし、この国がディアちゃんの幸せを奪うつもりなら容赦はしない。』



王家としては、ソウル様との繋がりを欲した。

精霊王様達の言う通り、欲の為に。

だからこそ、精霊王様達は私達へ釘を刺したのだ。

そして、ソウル様も。



「ですが、アレン王子殿下?ふふ、こう見えて私は、とても貪欲な女ですの。」



自分の求める愛ではないと、お兄様達を切り捨てた。

ソウル様の瞳が暗く淀む。



「誰か他の者を触れるかもしれない夫で、私は満足が出来る女ではありませんのよ?」



狂気の笑みを、その口元に刻み。



「私以外の者を捨てれない貴方様では、一生、この心を捧げる事はないでしょう。」



お兄様方の恋心を粉々に打ち砕いた。



「ーー・・あぁ、最後に、ご自分の中の優先順位をはっきりと付けておかないと、後で痛い目を見ますよ、王子様方?」



・・・あぁ、ソウル様のこのお姿だ。

私が憧れたのは。



「ミンティシア様の護衛についてのお返事、お待ちしておりますわ、王様。」



綺麗な一礼をして去るソウル様に背中をぼんやりと見送りながら、私はそんな事を思っていた。

あの愚かなお姉様よりも、そして私よりも王族として相応しいと思う。

だって、1番が揺らがない。

ソウル様にとって、王族として何よりも守るべき国が、夫である方々なのだから。



「・・・あの方が、国を治めたら、」



きっと、栄える。

自分の夫を守る為に、その持ち得る力を使って。

見てみたい。

彼女が治める、その国を。



「ーーーお父様、やはり、今回の使者は、このミンティシアにお命じくださいませ。」



なら、私は多くの国と友好を深めよう。

王女には、女の戦い方と言うものがあるのだから。

精霊王様の護衛と言う最高の切り札が効いたのか、お父様は私に使者の役目をお命じくださった。



「ーー王女殿下、御身のご無事のお帰りを、心よりお待ちしております。」



出発当日。

ソウル様が私をお見送りに来てくださった。

嬉しさに、笑みが浮かぶ。



「その姿は見えませんが、かの方々が御身をお守りする為にお側におりますので、どうかご安心を。」



姿は見えなくとも、側にいてくれるのだろう。

有難い事だ。



「ふふ、これ以上ない、心強い護衛ですね。ソウル様の心遣い、誠にありがたいです。」



この世界の中で、一体、誰が精霊王様に勝てると言うのだろうか?

ソウル様が言う通り、最高の護衛である。

私の為に、そんな方を護衛につけてくださったソウル様には感謝の言葉しかない。



「ふふ、では、王様、王女殿下、私はこれで失礼いたします。」



そんなソウル様も、お兄様達には冷たい態度。

期待を持たせる様な事を一切しないソウル様の態度は良いのだが、その後のお兄様達の落ち込みようが酷いのが難点である。



「・・・はぁ、仕方のないお兄様方。」



溜め息を吐いた。



「これから妹の私が大事なお勤めがあると言うのに、お兄様方は気遣ってくださらないのですね?」



私がお兄様達へ愚痴を言ってしまうのも、仕方ない事だ思うの。



「っっ、ごめん、ミンティシア。」

「お前の事を忘れている訳じゃないんだ!」

「大事な妹の見送りなんだから、当たり前じゃないか。」

「・・もう、良いです、お兄様達。ミンティシア、行って参りますわ。」



不貞腐れながら、私は馬車に乗り込む。

慌て出すお兄様達の事なんて、もう知りません。

私を乗せ、走り出す馬車。



「今のお兄様達では、ダメなのですわ。」



ぽつりと呟く。

王族としての枷がある以上、お兄様達のその思いにソウル様が応える事はない。

無謀な恋なのだ。



「もしも、お兄様達が王族ではなかったら、」



未来は変わるのだろうか?

そんな、もしもの未来を私は夢想する。

あり得ない事と思いながら。



「・・いけません、私も気を引き締めなければ。」



お兄様達の事を言えなくなる。

しゃんと、背筋を伸ばして席に座り直す。

まずは、気持ちから。



「ユリーファ王女は、一体、どの様な方かしら?」



期待と不安。

様々な気持ちを抱えた私を乗せた馬車は、進む。

ユリーファ王女が治める、他国を全く受け入れない里、今は国であるティターニア国へ。



「不安の目は、何があっても早急に潰さねばならぬ、な。」



ーーー・・ある国で、蠢く闇も知らず。

使者として進む私達の馬車が襲撃者に襲われるのは、国を離れて数日後の事である。

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