第182話 閑話:失落

カーシュ公side




私の計画は上手くいくはずだった。

娘のミミリアを利用し、あのディアレンシア・ソウルを孤立させて私が救い出す予定だったのだ。

優しくされた小娘が感謝して、自ら私の元へ来る様に仕向ける。



『でも、下賤に身であるお前でも理解ができたでしょう?分ったなら、この場に相応しくないお前は、ちゃんとミフタリア様へ頭を下げてから帰りなさい?』

『ふふ、帰るならその妖精族の事は置いていってね?私の愛玩物にしてあげるから。』

『あら、ミフタリア様はその妖精族の事が気に入りましたの?』

『えぇ、とっても綺麗なんだもの。』



その計画は、娘ミミリアと姪であるミフタリアの2人の予定外な言動によって壊されたる事になった。

王命により処罰を受けた2人。

あの娘を手に入れられなかったが、次の機会がある。

そう思っていた。



「ーー以上が、今分かっているカーシュ公による悪事の全てです。」



まるで悪夢を見ている様。

そう、悪い夢を。

ーーー・・どうか、ただ悪夢を見ているだけなら早く覚めてくれ。



「しょ、証拠はあるのか!?私がしたと言う証拠が!!?」

「証拠?」



読み上げていた紙から宰相が顔を上げる。

今まで王の次に、この目の前の宰相の事が憎かった。

私を敬わない宰相の事が。



「貴方が言う証拠なら、こちらに。」

「なっ、何故これが!?」



宰相から見せられる、私が机の引き出しに細工して隠しておいた悪事の詳細を記した書類達。

額に汗が滲む。



「で、カーシュ公、これらの事に対して何か反論はありますか?」

「っっ、」



なのに、その宰相に何も反論が出来ない。

なぜ、バレた?

上手く隠せていたはずだった。



「ーーーー兄上、反論1つ貴方は出来ないのですね。」



落ちる失望。

それは、一番憎い弟からだった。



「罪を犯した兄上は、この国の法で裁きます。」



裁かれる?

この私が弟の手によって?


 

「っっ、なぜ、」



この国で貴い血筋を持つ私が、こんな薄暗い地下牢へ入れられるのか。

自分の頭を掻きむしる。



「・・私は悪くない。何一つ、私は悪くなどっっ、」



では、一体、誰が悪かった?



「ーーーー叔父様。」



静かな地下牢に涼やかな声が落ちる。



「ミフタリア、様・・?」



それは、この場に似合わない第一王女の声だった。

ぼんやりと、自分の姪であるミフタリアの事を見上げる。



「なぜ、ここへ?」

「っっ、お父様の付けられた監視の目を何とか交わして、どうにか叔父様へ会いに来たのです!あぁ、なんてお労しいお姿。」



さめざめとミフタリアが涙を流す。



「きっと、お父様は可笑しくなってしまったのです!実の兄である叔父様をこの様な場所へ閉じ込めるなど、どうかしていますわ!」



じわりと、私の頭の中にミフタリアからの毒が染み渡る。

自分の都合のいい様に。



「そう、そうだ!兄である私をこの様な場所に閉じ込めるなど、ミハエルの奴は正気ではない!」

「そうです、叔父様。今のお父様は正気ではないのでしょう。」

「だが、なぜ急に?」

「あの者の策略では?」

「あの者?」

「冒険者の、あの女です、叔父様。」



ちらつく、白銀の髪。

新しくSランク冒険者になった女。



「・・あの女が?」

「きっと、そう違いありません。恐ろしい事にお父様は、あの者に洗脳されているのでしょう。」



ミフタリアが身体を震わせる。



「叔父様、あの者は今、この王宮へ来ているのです。」

「何!?」

「王妃様が呼んだとか。」



来ている。

あの女が、この王宮へ。



「あの者はお父様とまで会っているのだとか。叔父様、私は恐ろしいです。」



ミフタリアが拳を握り締める。



「もしや、あの者はこの国を乗っ取ろうとしているのではありませんか?」

「なっ、!?」



この国を乗っ取ろうとしているだと!?

ならばーー



「ーー・・ミフタリア様、お願いがございます。」

「なんでしょう、叔父様?」

「この牢の鍵をどうにかできませんか?」

「もちろんです、叔父様。必要かと思って鍵を見つけて来ました。」



笑顔のミフタリアが牢の鍵を開ける。



「さぁ、叔父様。これで貴方は自由の身ですわ。」

「ありがとうございます、ミフタリア様。」



よく出来た姪だ。

自分の娘よりも使えるではないか。



「叔父様、あの者は庭園にお父様達といるのだとか。必ず、この国に仇なす者を討ち滅ぼして下さいませ!」

「えぇ、必ずや。」



あの者の屍で私の王位への道を築こう。

のっそりと歩き出す。



「・・・ふふ、扱いやすいバカな男。」



背後で笑う声を聞く事なく。

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