第180話 閑話: 3人の王子と王女(後編)

コクヨウside




兄王子達の行いに恥いる王女様。



「本当にお気になさらず。それにしても、王太子様に正式な婚約者となられる方はいないのですか?」

「実はお兄様の婚約者候補となる方達は何人かいらっしゃるのですが、王太子妃としての資質を選考中なのです。」

「王太子妃の資質、ですか。王太子様の妻となるのも大変なのですね。」

「血筋、教養、そしてお母様の王太子妃教育について来れなければ次代の王妃となれませんから。一時期は、カーシュ公の御息女であるミミリア様が王太子妃の筆頭候補だったのですが…。」

「陛下と王妃様がお認めになりませんでしたか?」

「お恥ずかしい話、そうなのです。」



王女様が扇で口元を隠す。



「ミミリア様はあの御気性ですし、カーシュ公である叔父様が妻にされた方の妹がお父様の第2妃となられ同じ血筋から王妃を出す事も懸念した様ですね。ソウル様にも、姉達がご迷惑をおかけいたしました事、私からも謝罪いたしますわ。」

「それこそ、王女様から謝罪をいただく必要などございませんわ。」

「いいえ、上に立つ者として安易に頭を下げる事はしていけないと分かっておりますが、ミフタリアお姉様とミミリア様がソウル様へ働いた無礼の数々、同じ王家の血を継ぐ者として謝罪するのは当然です。」



真っ直ぐな王女様の瞳がディア様を見上げる。



「私達は国の、民の為に尽くさねばならないのですわ。それが貴族に、王家に生まれた私の成すべき事と自負しております。」

「王女様は聡明ですわね。この国に住む民にとって喜ばしい事ですね。」



楽しげに微笑むディア様。

王女様の事をディア様は気に入った様子。

あの第1王女と比べれば、第2王女は王族としての礼儀を弁え、その年にしてはしっかりとしている。

ディア様が気にいるのも仕方ない。



「王女様、どうか私の事はディアとお呼びくださいませ。」

「よろしいのですか!?」

「もちろんですわ。」

「嬉しいです、ディア様。では、私の事も王女ではなくミンティシアと名前で呼んでください。」

「まぁ、でしたら尊きお名前を呼ばせていただきます、ミンティシア様。よろしくお願いしますね?」

「はい、ディア様、こちらこそ、よしなにお願いしますわ。」



2人は微笑みあった。

この瞬間、ディア様のお気に入りとなった王女様は、最高の後ろ盾を得た事となる。



「ふふ、何かお困りの事がありましたら、私がお力になりますよ、ミンティシア様。」



ディア様と、それに従う者の加護を。

目の前の王女を害する者は、ディア様の玩具となり、貴族だろうとも破滅する事となる運命に決まった。


「あら、この短時間の間に2人ともなんだか仲良くなったようね?」



こちらへ歩み寄る王妃。

その後ろには、王妃と同世代と思われる数人のご婦人が。



「お母様、お父様と挨拶回りは良いの?」

「ふふ、ほとんどの方達に陛下と挨拶はし終わったから、こちらへ来たの。私達はお邪魔だったかしら?」



扇で口元を隠し、王妃がくすくすと笑う。



「王妃様が邪魔など、とんでもございませんわ。ミンティシア様は聡明で話しに夢中になっておりました。」

「ですって、ミンティシア。良かったわね?」

「はい、お母様。ディア様、お褒めいただき、ありがとうございます。」



ディア様に褒められて頬を染める王女。

初々しい王女にディア様と王妃様の笑みが深まる。



「ディアさん、こちらのご婦人達をご紹介したいのだけど、良いかしら?」

「私に、ですか?」

「もちろん、皆、ディアさんがアイデアを出して売りに出された商品の愛用者なの。ディアさんの事を紹介してくれと頼まれてしまったわ。」

「まぁ、」



驚き喜びに顔を綻ばせるディア様へ王妃様がご婦人達の名を告げていく。

当然、皆が高位貴族の夫人達。



「ディアさん、あの商品で普段は帰りの遅い主人が早く帰宅する様になったの。」

「本当、ディアさんのおかげで夫婦関係の新しい刺激になったわ。ありがとう。」

「コルセットが辛かったの。あれはとても楽よね?」



弾むディア様と夫人達の会話。

会話に耳を傾けている僕の隣に王妃様が静かに、不自然にならないぐらいの自然さで寄り添う様に並ぶ。



「王子達が迷惑をかけました。」



扇の向こう。

ディア様と王女様へ視線を向けたまま王妃様が僕達へ囁く。



「貴方方の最愛を奪う様な事は王妃として王子達にさせません。安心なさい。」

「恐れ入ります、王妃様。」



長年、貴族達と渡り合ってきた王妃様には、僕の内心は隠し通せなかったらしい。

僕の隣でディオンとアディライトの2人も苦笑いを浮かべている。

この王妃様と王女様がいれば、この国も安泰だろう。



「あの、ディア様。よろしければ、ディア様にお手紙を書いてもよろしいでしょうか?」

「まぁ、もちろんですわ。ミンティシア様からのお手紙、楽しみにしております。」



ディア様と王女様の会話に満足そうに微笑む王妃様の表情を見て、そう思った。

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