第78話 狂気の愛

私の心は歪で、空虚で空っぽ。

渇き切った私の渇望は、今、この心を満たしたいと叫んでいる。



「こんな風に泣くぐらいなら、昨日はディオンを私の元へ寄越さなければ良かったのよ。馬鹿な子ね、コクヨウは。」



コクヨウの涙を拭う。



「っっ、でも、ディア様は、お望みだったのでは?ディオンからの愛情も。」

「えぇ、そう、ね。私には必要だった、ディオンからの愛情も。そして、コクヨウからの愛情もね?」

「なら、後悔はありません。ディア様からの罰は甘んじてお受けします。」



罰、ねぇ。



「罰として私に触れのを禁止にしたら、コクヨウはどうする?」

「っっ、うぇ、!?」

「ん?罰、受けるんでしょう?」



にっこりと笑った。

昨日はさんざんコクヨウにあたふたさせられたんだもん、これぐらいの可愛い意地悪は良いよね?



「・・あの、その、」

「んー、しばらく話すのも罰として禁止にしようかなぁ?」

「っっ、なっ、そんな、ディア様!?」



コクヨウが小さく悲鳴を上げた。

その顔は何故か青い。



「それだけは、どうかお許しを!ディア様ッ!!」

「どうして?罰、甘んじてお受けするってコクヨウが言ったんだよ?」

「っっ、ですが、ディア様に触れられず話せないなんて、この世の終わりです!地獄ですよ!!」

「そんな大げさな。」

「大げさでは無いです、ディア様!」



コクヨウが顔を歪ませた。

泣き顔のコクヨウに、私の中の女の部分が歓喜する。

求められている。

私はコクヨウから強く、深く。



「ふふっ、」



やだ、こうしてコクヨウをあたふたさせるの楽しいかも。

コクヨウの顔を覗き込む。



「ねぇ、コクヨウ、そんなに私に触れたい?」



足りないよ、コクヨウ。

ちっぽけな愛情だけじゃ、この私の渇いた心は満たされないの。



「ーーー・・コクヨウ、私の事が欲しい?」



もっと、欲して?

深く、そして強く、私だけを。

我慢するのは止めた。

あちらの世界の良い子だった#私__弥生__#は、昨日死んでしまったの。



「・・・ディア、様?」



困惑するコクヨウ。

でも、それでも許してやらない。

簡単には、ね?



「だったら、私を強く繋ぎ止めてくれないとダメじゃない。」



我儘になるの。

欲しいものを得る為に。



「コクヨウ、そんなんじゃ、私の中の餓えは満たされないよ?」



可哀想なコクヨウ。

こんな最低な私なんかに囚われてしまうなんて、ね。

でも、もう放してあげない。



「好きだよ、私のコクヨウ。」



貴方は私だけのもの。



「っっ、」



驚愕に目を見開くコクヨウの唇を私は指先でなぞった。



「コクヨウ?」

「っっ、」



ぶるりと、コクヨウが身を震わす。

その瞳に宿る熱。



「ふふふ、もう一度、聞くね?コクヨウ、私が欲しい?」



あぁ、そうよ、コクヨウ。

もっと心の底から強く私だけを愛し、求めて?



「っっ、はい、」

「コクヨウだけじゃ満足しない、そんな最低な女でも?」

「かまいません。僕はディア様が、ディア様だけが欲しいッ!」

「ふふ、」



私の手首を掴んだそのコクヨウの手の熱さに私は微笑んだ。



「ーー・・じゃあ、私にコクヨウの全てを頂戴?」



差し出して?

コクヨウ、貴方の命さえも。



「そうしたら、ご褒美にコクヨウに私をあげる。」



あげるよ。

コクヨウが全てを差し出してくれるなら、私の愛情を貴方へ。



「だから、私を愛して?」



狂おしいほど、強く私を愛して欲しい。

私だけを。



「他の人になんて、絶対にあげない。」



貴方達は、私だけのもの。

誰にも触れさせない。



「貴方達に触れて良いのは私だけ。」



この身体も、声も、目も、髪の毛の先まで私の為にあるの。



「私の愛おしいコクヨウ。」



私だけの貴方達。



「ねぇ、絶対に私を置いて行かないでね?最後の時も。」



置いて行かれるのは、もう嫌。

それなら、私も一緒に連れて行って欲しいと願う。



「私の願い、叶えてくれる?」



多くは望まない。

私だけを愛し、ずっと側にいる事。

それだけで良いの。



「っっ、はい、必ずッ、絶対にディア様の願いは叶えます。死す時も、その後もディア様のお側に!」

「ありがとう、コクヨウ。」



コクヨウの胸に凭れる。



「ディオン、も、ね?私を離さないって誓ってくれたの。」

「そう、でしょうね。ディオンも、ディア様を手離せるとは思えませんし。」

「・・・コクヨウ、も、私を、絶対に離さないでね?」

「例えディア様の命令でも離してやれません。好きです、ディア様。愛してます、貴方だけを。」

「ふふっ、」



あぁ、心地いい。

うっとりと、コクヨウの胸に凭れながら回される力強い腕に包まれて目を瞑る。



「・・・食事、しなくちゃ、ね?」

「アディライトが食事の用意をしていましたから、皆んなディア様を待っていると思います。」

「うーん、分かってるけど、」



離れたくない。

もう少しこのまま、コクヨウの居心地の良い腕の中に。



「食事しないんですか?」

「別にそうじゃない、けど、まだコクヨウに甘えてたいの。」

「っっ、」



跳ねるコクヨウの心音。



「ーー・・あぁ、ディア様。本当に貴方を愛してます。」

「ふふ、」



髪に落ちるコクヨウの唇を私は笑って受け入れた。

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