第24話 町へと
紫音の命を狙っていた者たちの処分が終わったとのことで、紫音たちは実家に戻るように告げられた。
しかし、紫音はすぐには首を縦には振らなかった。
「千代、お父様にこう伝えてくれませんか? もう少しだけ、この別宅で過ごすことを許してほしいと」
「……かしこまりました。理由はどういたしましょう?」
「アルスくんを、ここに一人で置いていくわけにもいきませんから。それに……」
「?」
紫音は少しだけ頬を赤く染めて俺を見る。
その様子を見た千代は一瞬だけ驚いたような表情を見せた後、こくりと頷いた。
「かしこまりました。ただし、そこまで長い期間は許可が下りないかと思われます。一ノ瀬家の一員として、溜まっている公務がありますので」
「それはもちろん分かっています」
「では、そのように伝えさせていただきます」
千代は頭を下げると、その旨を伝えるということで館を離れていった。
行ったり来たり、色々と忙しそうだ。
俺は紫音に問いかける。
「よかったのか? 家に戻らないで」
「……アルスくんは、一人でこの館に住む方がよかったでしょうか?」
「いや、すまない。そういうつもりで言ったんじゃない。もちろん、俺は紫音がいてくれた方が嬉しいよ」
「――――ッ」
紫音は俺から顔を背けると、きゅぅ~っと身を縮める。
何かあったのかと心配していると、すぐにいつもの冷静な表情を浮かべたまま俺の方を見る。
そして、数秒の時間を空けた後、言った。
「そ、その、アルスくん。一つだけご提案があるのですが……」
「なんだ?」
「実家にはまだ帰らないといいましたが、これでわたくしたちも自由に出歩けるようになりました。それで、アルスくんさえ良かったらなのですが……」
ぎゅっと、胸の前で両手を握り締める紫音。
そして彼女は言った。
「わたくしと一緒に、町まで遊びに出かけませんか?」
「……え?」
俺の喉から、少し間抜けな声が漏れた。
◇◆◇
「……すごいな」
翌日。
紫音と一緒に町まで下りてきた俺は、眼前に広がる光景に目を奪われていた。
これまでは森の中にいたため気付けなかったが、人や建物が想像していたものと全く違っていた。
元の世界の常識からはかけ離れた光景がそこにはあった。
本ではある程度学んでいたが、実物はやっぱりまったく違う。
「やっぱり、アルスくんの目には新鮮に映りますか?」
「ああ。早くいこう!」
「アルスくん!?」
俺は紫音の手を握り、早足で歩いていく。
そして、長い長い一日が幕を開けるのだった。
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