第14話 お箸

 その後、俺は館の中を案内された。

 食卓、書斎、風呂場、庭など、さすがは異世界というべきか、俺の常識にはない光景が多く胸が躍った。


 それからしばらく一人での時間を過ごした後、俺は食卓に呼ばれた。


 出迎えてくれたのは、白色の布地を羽織った紫音と千代だった。

 紫音は言う。


「こちらにお座りください」

「ああ……こ、これは」


 そこに並ぶ料理の数々を見て、俺は目を輝かせた。


 つやつやとした真っ白な粒が大量に乗せられた皿に、優しい香りがする茶色いスープ。

 丁寧に焼かれた魚に、見慣れない野菜。


 とても美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。

 思わずわくわくしていると、紫音が笑って言った。


「こちらは白米にお味噌汁、それから焼き魚にお漬物です。アルスくんが何をお好きか分からなかったので、私が得意な和食になってしまったのですが、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない。めちゃくちゃうまそうだ。これを使って食うのか?」


 俺はテーブルに置かれた二本の棒を、両手で掴んだ。


「ち、違いますアルスくん! それは箸と言って片手で持つ物で……配慮が行き届かず申し訳ありません。ど、どうしましょう。千代、スプーンやフォークはありましたか?」

「……この品々で、それらを使って食べるのは難しいでしょう。ですがご安心をお嬢様。この千代、名案がございます」


 千代が紫音の耳元でボソボソと何かを呟く。

 すると、紫音が顔を真っ赤にした。


「な、ななな! 千代、本気で言っているのですか?」

「当然です。ささ、お嬢様。料理が冷めないうちに、ですよ」

「う、ううぅ~」


 紫音は恥ずかしそうな表情で席につき、俺を見た。


「も、申し訳ありません、アルスくん。私のせいでご迷惑をかけることになってしまい……アルスくんさえよかったら、なのですが」


 紫音はそう言いながら、片手で箸と呼ばれる棒を巧みに使い、焼き魚から身をほぐしていく。

 そして――


「わ、私の手で食べさせてあげるというのは――」

「なるほど、そう使うのか」

「――へ?」


 ――学習強化ラーニングが発動した。


 一度扱うところを見てしまえば、後は簡単だ。

 剣や槍などの武器と変わらない。

 俺は紫音と同じように箸を握った。


 そして、焼き魚の身をほぐしていく。


「ほう、なかなか便利だな。ありがとう紫音、助かった」

「ど、どういたしましてです。むぅ」


 なぜか不満げに頬を膨らませる紫音。


「ふむ、不発に終わってしまいましたか」


 その横では、千代が意味深な言葉を零すのだった。


 何でもいいから、早く食おうぜ。

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