第4話 大国主大神 八上姫の求婚
「私、姫様のところに報告に行ってきますね。ヒロ様、帰ってきたら一緒に楽しみましょうね」
兎は家の中から消え去った。物騒なことを言い残して。
「あの子はねえ、あの”飛ぶ”力があるので、姫様に重宝されているのですよ」
ハヤタが言う。妹があんなことを言ったのに冷静だ。
「なるほどね、”飛んで逃げた”って言っていたけどそういうことだったのか。あの力があれば、間者としても優秀だよね」
カイは聞かなかったかのように話をしてくる。
どうやら、この国の女性は貞操観念というものがあやしいようだ。この村にたどり着くまで、あからさまに兎はヒロを誘ってきた。大陸では一夫一婦制が普及し始めていたのだが、この国はそうでもないようだ。
ヒロは一人頭を抱えていた。
1時間ほどして兎は帰って来た。トボトボと歩いて入ってくる。
「あの・・ヒロ様・カイ様・・・。姫様が今すぐ会いたいとおっしゃっているんです・・」
心底、嫌そうに話してくる。
「え?僕たちに何の用?」
「その・・。会ってみたらわかると思います・・」
ヒロとカイは、ひときわ大きな竪穴式住居に案内された。
建物の中。高い台の上に若い女性がいた。
その女性の前に座らさせられる。
「私が八上姫です。そなたたち、海を渡ってやって来たというのは本当か?」
「ええ、西の大陸から参りました」
ヒロはおとなしく応対した。
「大陸では、非常に文明が進んでおるという。例えば青銅などが普通に武器になっているとか?」
「今は鉄というもっと固い金属が使われています」
「青銅より硬いとは誠か?それは驚いた・・」
八上姫はヒロのことを頭のてっぺんから足の先まで、じーっと観察する。
ヒロはこの国の人間にしてみるとかなり大柄である。その当時の日本人は身長は160cmも無いのが普通である。対してヒロは180cm。大男と言っていい。
しかも、上質な木綿の服を着ている。
すると、八上姫は開口一番に言った。
「決めた!」
ヒロは首を傾げる。
「はい?」
「私、あなたと結婚します」
ヒロとカイは同時に叫んだ。
「「はぁ?」」
その時、地面を真っ黒な影がすさまじい勢いで滑って来た。
まるで蛇のような黒い帯。
その真っ黒な帯が、ヒロとカイに巻き付いた。
まるで拘束するように全身を黒い帯が巻き付いていく。
顔にまで、刺青のように帯が染みついていく。
”これは、拘束の魔法・・村人は刺青をしていたのではなく、この魔法で拘束されていたのか”
「これは、どういうことなのか教えてもらってもいいかな?」
体を・・精神を拘束されていくのを感じながらヒロは聞いた。
「私に従順になってもらわないといけないのですから」
八上姫は答える。横で兎が不安そうに見ている。
黒い帯は、さらにギリギリと・・・肌を侵食していく。
「ヒロ、何とかしてよ」
カイがめんどくさそうに言った。
ヒロは、ニッと笑った。
次の瞬間、黒い影にひびが入り灰のように崩れてサラサラと剝がれていく。
「おぉ・・・」
八上姫の驚きの声を上げ、台から駆け下りヒロたちの前に平伏した。
困惑するヒロとカイ。
「やはり、そなたたちはお告げの合った通りの者たちであったか・・」
「お告げ?」
「試すようなことをして、誠に申し訳ない。旦那様」
・・・旦那様?
「お告げがあったのです・・・力ある者たちが西より来てこの国を救うと」
涙を流しながら、八上姫がヒロにしがみついて来た。
「お願いです、この国を助けて下さい。
蛟を従え水を操る、タケハヤを倒してください。」
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