第64話 再会の従者(10)
部屋全体を包んだ煙の中、響いた衝撃と大声で全員の動きがシン、と止まる。
「……王都騎士が、なんの用だ」
口を開いたのはガンドルマイファ。構えた銃の照準はラングへピタリと合わせたまま、視線はヒルグラムへ向ける。対するヒルグラムは背後にラングを庇いながら兜の奥から睨み返す。
「この船に拐われた人間が居ると通報があった。加えて不審な動きもあったので確かめに来た。まさか拐われたのがこいつとは思わなかったがな」
「知り合いか。なら言い逃れもできんな」
そう答えながら、ガンドルマイファは一瞬視線を逸らす。その動きに、ヒルグラムも釣られて視線を逃した。
ガン!
瞬間、銃声が響く。放たれた鉛玉は吸い込まれるようにヒルグラムの兜へ突き進み。
バンッ!
兜に当たった瞬間、弾け飛んだ。目にも止まらぬ速さで引き抜かれ投擲された小刀が、ガンドルマイファの左肩を深く突き刺す。
「不意打ちか。せめて相手の力を測ってするべきだな」
「ク…ッ…ソ、
ヒルグラムは冷たく言い放つと周囲を囲む海賊を一睨みする。
「お前らのボスはあのザマだ。全員まとめて王城にしょっぴくから覚悟しとけ」
ヒルグラムの言葉に海賊たちは悔しそうに顔を歪めるが手を上げる者は居なかった。振り返ったヒルグラムはラングの頭を不器用にグシャグシャかき回す。
「とりあえず無事で何よりだ、詳しい話は後で、な?」
動けなくなっていたラングはその言葉を聞いてようやく、深く息を吐いた。
*
「ヒルグラムさん!」
ブラックサンライズへ王都騎士団が到着し取り調べが始まって、ようやく船を出られた僕たちのもとに、白いローブを着た少女が駆けてくる。ヒルグラムさんの知り合いのようだった。
「よう、アナイ。ようやっと終わったぜ」
僕の後で手を振るヒルグラムさんが兜を脱ぐ。アナイと呼ばれた少女はヒルグラムさんのもとに駆け寄ると泣きそうな顔で食って掛かる。
「遅いですよ!日も暮れちゃったし中の様子はわからないし銃声はするし……私心配で……!」
「ああ、悪い悪い。一発撃たれたからな。でもお前さんのかけてくれた魔術のおかげで怪我せず済んだぜ。ありがとな」
「う、撃たれたって!私の魔術で防げなかったらどうするつもりだったんですか!もう!」
半べそをかいてる少女はどうも魔術師でヒルグラムさんを手助けしていたらしい。
「悪かったって。それよりほら、こいつが拐われたヤツだ。俺の知り合いでな、ラングっていう」
「あ、ええと。ラングです。おかげで助かりました」
ヒルグラムさんに紹介されて慌てて頭を下げる。アナイさんは言われてはじめて僕が居たのに気づいたらしく、顔を真っ赤にしてすごい勢いで頭を下げる。
「ああああ、すいませんすいません!はじめての人の前でこんな姿を……!あ、あの、アナイです……!ヒルグラムさんとは仕事の知り合いでその……」
「落ち着け落ち着け。とりあえず見回りの仕事は引き継いできたから、今日はゆっくり飯でも食ってーー」
苦笑するヒルグラムさんの言葉はしかし、途中で止まる。背後を振り返ったヒルグラムさんの視線の先には、いくつもの人影があった。
「とんでもないことをしてくれたな、ヒルグラム」
人影の先頭に立っていた男が口を開く。
「よう、騎士団がなんで俺を囲む?」
「必要があるからだよヒルグラム。お前のやらかしたことで王はお怒りだ。お前たちを、王城に連行する」
いつの間にか囲まれた僕たちは、手足を縛られなす術なく騎士団に捕まることとなった。
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