第58話 再会の従者(4)
飲食店での作戦会議が続けられなくなった僕たちは店を出て、大通りで立ち往生するわけにもいかずとりあえず歩きながら話をすることにした。王都のことを知らない僕にヒルグラムさんがあれこれと説明もしてくれる。
「今来てんのが城下町の大通り、キングスロードな。王都騎士の凱旋とか王のパレードとかにも使われる。普段は乗り物とかも通るしこのまま下れば町の外までも一直線だ。でかい店とかもだいたい全部ここにある」
説明を聞きながら左右を見回す。外観を気にして白塗りの壁に統一された建物には飲食店や装具屋、宿や雑貨店はもちろん動物を扱う店や魔術専門店などマウリアでは見ないような看板がいくつもあった。中には外国の文字もあって、改めて王都の人の多さを感じる。
「んで王都はわかりやすく大通りを挟んで海側のブロックと山側のブロックに別れてる。山側のブロックには貴族とかもともとここに住んでた人間とかが集まる居住区と、魔術工房。海側ブロックは国外から来た奴らと機械工場がある」
そう言ってヒルグラムさんはそれぞれの方へ指を差す。王城のある山側と、大通りを下った先の海側。言われて見比べてみるとなるほど、海側ブロックと山側ブロックでは外観的にも差が歴然としていた。白塗りの壁に統一され美観を意識されている山側に比べ、海側は建物の作りや色もばらばらで、統一感はない。
「王都にはとにかく人が多いからな、みんないっぺんに集めると色々問題も起きるってんで王都が立てられてすぐに分けられたって話だ。難しいことは俺にはよくわからんがな」
ヒルグラムさんはそう言うと肩を竦めてみせた。わからない、と話しながらもその顔はどこか寂しそうで、彼の中で引っかかるものがあるのは見て取れた。
「さて、色々回りたいところだがあいにく俺はまだ仕事があってな。放り出すわけにもいかんから一旦ここで別れよう。宿舎の人間にはお前のことは言ってあるから、こいつ持っていけば入れるはずだ」
「あ、はい。色々ありがとうございますヒルグラムさん」
渡された木製の札を受け取って頭を下げると、また髪をわしゃわしゃかき乱される。
「礼なんかいいんだよ。それより先生を何とかする方法をとっとと考えねえとな」
ヒルグラムさんはいつものように笑ってそう言うと踵を返す。大通りを城の方に歩いていくヒルグラムさんを見送って、僕も海側の方に足を向ける。
特に宛があるわけでもないが、山側ブロックには入るのに多分色々制限がある。海側ならうろついても怪しまれないだろうと思ったのだ。日が傾いてきて海に反射するのを見ながら大通りを下っていく。
(思ったより、おおきいな……)
海を見るのははじめてだから、自然とそっちに引っ張られたのもあるかもしれない。
オレンジ色に光る水面の手前には港があって、いくつもの船が見える。大きいもの小さいもの、様々な種類の船が並んでいる姿は壮観で、今の状況を忘れさせてくれそうな気持ちになる。
(いやいや、忘れちゃダメだって……)
首を振って思い直す。気を取り直して港へ近づいていくと、停泊している船の一つに目が止まった。
「あれって……!」
それに気づいて、僕は急いでその船の元へと向かう。黒塗りの外装と突き出したマスト、威圧的な雰囲気のその外観はいくつも並ぶ船の中でも健在で、故に見間違うはずもなかった。
「ブラックリベリオン……」
王都の港へ寄港していたその船は、魔術師アルシファードの持ち物である帆船、ブラックリベリオンであった。
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