第53話 宣託の導師(11)

 ザクザクと音を立てて、山道を歩く。積層した落ち葉を踏み抜いて、僕は先生の背中を追って歩き続けている。


「……というわけだ。これが今お前の居るこの国の成り立ちなんだが……聞いてるか?」


 振り返った先生は後で歩く僕の様子をまるで気づいたなかったらしい。ぐったりとした僕を見て肩を落とす。


「なんだ、その様子ではまるで聞いていないな?そう時間もないというのに……」


「いや、先生……歩きながら授業を聞き続けるのは、無理があります……」


 先生は今朝起きてからずっと、ご飯のときも移動のときもずっと口頭だけで授業を続けている。最初はがんばって聞いていたのだが、苦手な歴史の話に入ったのと山道が続いていたのとが重なって今ではまるで耳に入ってこない。

 先生は仕方ない、とため息をついて近場の切り株を見つけると座って休憩をはじめた。


「休憩だ。授業と同じで十分でいいだろう」


「だから学校とは違いますって……」


 今度はこちらが肩を落とす番になった。どうにも先生の体力は僕とは全然違うらしい。


(それは、そうか……)


 先生が大人だから、という話だけではない。昨日聞いた話を思い出す。

 導師。あらゆる物を置き換えることが出来る存在。構成を理解し、物質を変換することが出来る。その範囲も規模も自由自在、大陸を生み出すことも鎮めることも出来る、世界にただ一人の、神の如き存在。

 今朝から聞いた話では、導師とはそも体質によってなれるかどうか決まるらしい。だから体構造や新陳代謝も違うし、もちろん寿命も違うらしい。だから先生はずっと動き続けていても平気だし、寝なくても平気だという。こんなふうに話しながら歩き続けることもできる。


(ほんと、人智を超えた、っていう感じ……)


「十分たったな、いくぞ」


 僕が考え込む間に時間は過ぎていて、先生はさっさと歩き出す。慌てて後を追いながらその姿を見つめた。先生は、先生だ。けどそれは僕の中の話で、実態として先生は僕とは違うのだ。


(折り合いって、簡単じゃないんだな……)


 そんな事を思いながら、重い足は進む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る