サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした8

 それ! 影に追い抜かれぬように! けれど決して焦って転ばぬように急いでゆっくり気を付けて歩け! 徒歩! 徒歩! とほほほほほほほほ! 到着! エビフライ専門店! リターントゥエビフリャーショップ!



 ウィーン



「いらっしゃいませー一名様でしょうか」


「いや、中に連れがいるんですが。子供二人の」


「あ、はい! お伺いしておりますのでご案内いたします! お連れ様いらっしゃいましたー! いらっしゃいませー!」



 イラッシャイマセー!




 うん、気持ちのいい案内だ。嬉しいね。

 こういう店だと自然心豊かになるし、また来ようって気持ちになる。日本の飲食店は過剰接客だというが、それでお互い幸せになれるのであればいいのではないかと俺は思うよ。糞クレーム出すような迷惑客ならともかく、普通に利用する人なら礼には礼を尽くすだろうしな。そして、「来てくれてありがとう」と「来させてもらってありがとう」の二つの感謝が良質なサービスとバリューを生み出すのだ。日本式のおもてなしは最高だぜ!



「こちらでございます」


「あ、どうも」




 案内を終えてさっさと引っ込んでいく奥ゆかしさも良いね。さてマリプラン。ちゃんとお行儀よくしていたかな? こんないい店なんだから迷惑をかけちゃ駄目だぞ?



「お兄ちゃん早かったね。もう注文してあるからね」


「これから混み合う時間帯になってきますので、僭越ながら、三人とも同じメニューをお願いいたしました」


「あ、そう」



 う~ん……本当は自分で決めたかったが、まぁ抜け出した俺が悪いし、プランが言うようにこれから混んで時くるというのも確かである。



「ご新規三名様いらっしゃいましたー!」



 イラッシャイマセー!



「ご新規五名様いらっしゃいましたー!」



 イラッシャイマセー!



 いったそばから、同時多発的に団体客がお目見えだ。この優良店にあまり負担をかけたくないし、満席御礼新規ご来店様さようならなんて恥はかかせたくない。そうだな。ここはマリ達の考えが最善。店のためにもなる。然らば、一秒でも素早く完食し、バッシングから卓セットまで火急的速やかに対応していただけるよう、こちらも努力しようではないか。いい店ではいいお客として立ち振る舞うのが大人の嗜み! みんな知ってるね! てなわけで、料理が運ばれてくるまで待つとしようか。ま。その間に一応何を頼んだか聞くくらいはしてもいいな。



「それで、何を頼んでくれたんだ?」



「ダブルビックエビフライ&ハンバーグ定食。クリームスパゲティとウィンナーを添えて」


「……なに?」


「ダブルビックエビフライ&ハンバーグ定食。クリームスパゲティとウィンナーを添えて」


「……うん、聞き間違えじゃなかったね。え? なに? ビックエビフライに? ハンバーグ? それにクリームスパゲティとウィンナー?」


「エビフライじゃないよお兄ちゃん。ダブルビックエビフライだよ?」


「ダブル……そっか、ダブルか……」


「そうだよ! こんな大きなエビフライがね!? 二つ付いてくるの! 凄いでしょ!?」


「……うん。そうだね。凄いね」




 ……


 ……侮っていた! 子供の大人に対する認識力の甘さを!

 そりゃ君たちは食べられると思うよ! 子供が好きなもの勢揃いだもん! ゲッティもナポリタンとかじゃなくてクリームソースなのが最先端だね! でもねチクショウ! 食えねぇよ大人は! ダブルでビックなエビフライとハンバーグとクリームスパゲティとウィンナーのセットなんて! もう食の総戦力じゃねぇか! 洋食メニューが大攻勢で押し寄せてくるよ! おいおいアムリッツァ会戦かぁ!? 同盟軍に分けてやってくれよその食糧! 並の定食くらいならなんとかなりそうな体調だったがこんなもんお前どうやって胃に入れればいいんだよ! 最近無駄に腹は出てきたけどこれは脂肪がついてきただけであって食は細くなっていく一方なんだからな! そら君達お子様にとっては全然いける容量かもしれんがもう俺には食べられないよ! なんならエビフライのタルタルとハンバーグのデミグラスソースだけでいい感じに過ごせちゃうよ! 



「楽しみだねプランちゃん」


「そうですね。もしお店がそれほど困らないようでしたらデザートもいただきましょうか」


「そうだね! 私アイスがいいな!」


「私はブリュレをいただきたいです」




 デザートぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? この子らデザートまで食べられるのぉ!? そのちっちゃなお腹のどこに入んねん! フードファイターかぁ!? というかお前ら洋食そんな気乗りしてなかったのにめっちゃ楽しんでんじゃねーか! これだからお子様は現金でいけねぇ!




「お待たせしましたー。ダブルビックエビフライ&ハンバーグ定食。クリームスパゲティとウィンナーを添えてでございいまーす」


「わーい!」


「うふふ」




 来てしまった! もう後戻りはできんぞ! こうなればワンチャン材料高騰につき一部商品のサイズが小さくなっております申し訳ございませんみたいなのを期待するしか……


 ……嘘やろ!? なんやこの量! 伊勢海老みたいなエビフライ二つにげんこつ大のハンバーグ! スパゲティもそこそこあるうえウィンナーが三本も! これに加えてライスとスープがついてきてこれは……し、死ぬ……!







「こちら、以上でお揃いでしょうかー?」


「はーい!」


「はい、ではこちら伝票失礼いたします。それではごゆっくりー」


「ありがとうございまーす! 美味しそうだね! プランちゃん!」


「そうですね~それに、沢山あります~」


「うん! 凄いね! 写真よりずっと凄いよ! それじゃ食べよ! いただきますしよ! お兄ちゃんも一緒に!」


「……」


「お兄ちゃん?」


「……」


「お兄ちゃん!」


「……っは!? な、なんだマリ」


「いただきますしよ!」


「あ、あぁ……そうだな……それでは、合掌……」



 パン。



「……いただきます」


「いただきます!」


「いただきます!」



 ……始まってしまった地獄の昼食……しかし、いただく以上は食わねばならぬ……えぇいままよ! どうにでもなれぇ!

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