サキュバス、この戦争を終わらせに来ました12

「この短時間で気の使い方を覚えたか。やるではないか。だが……!」


「ぐおぉぉぉぉぉ!」



 ガードの上から吹っ飛ばされた! 幸いにしてダメージはないがやはり地力が違う! それにあいつ本気じゃねぇ! 親父の奴、わざと怪我しないレベルで蹴り抜きやがった!



「そんなものじゃあまだまだ遊びのレベルだぞ。ほら、もっと頑張れ。俺と死合うんだろう?」



 畜生余裕綽綽な台詞吐きやがって! いいだろう! コツは掴んだ! セル編での悟飯並のスーパーパワーを見せてやろうじゃねぇか!



「そんなに俺の全力が見たいのなら望み通りしてやるぜ! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 全力全開フルパワーだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……あれ?」



 なんかしっくりこねぇな。超サイヤ人2みたいなスパークでも出ると思ったが……



「……お前、おちょくってんのか?」


「馬鹿を言うな! 真剣だっての!」


「そうか、なら、もう少し真面目にやってみろ」


 !


 おわ! なんだ今の!? 指弾!? 


「今のままではつまらんからな。少し鍛えてやる。ほら、避け続けているだけじゃジリ貧だぞ。なんとかしてみせろ」


 !



 あっぶ! っていうか壁に穴! おいおいライフルか? 勘弁してくれ。当たったら痛いじゃすまんぞ。畜生、さっきは上手くいたのに何で力が出ないんだ。せっかくムー子の名前なんかを叫んだってのに。あぁなんかムカムカしてきた。あいつ絶対ぶっ殺してやるあの野郎! 恥かかせやがって! っと! 危なねぇ!


 !


  お? なんだ? 弾き返せたぞ? 知らぬ間にコツをつかんだか? よし、この調子なら……



 !



「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 穴! 肩に穴が空いた! か、回復回復……くそ! めっちゃダメージくらうやんけ! なんやったんやさっき弾いたのは! まぐれか!?



「おい。遊んでんのか?」


「なわけあるか! ちょっと待ってろ! すぐ使えるようにしてやるから!」




 課長! 課長!


 なんでしょうか。


 全然パワーが出力されねぇぞ! スーパーカーのエンジン詰んだ軽自動車で思いっきりふかすしるような感覚がある! クソダサい! どうすりゃいいんだ!


 ……孔を広げるためにはスイッチが必要です。


 スイッチ? さっきムー子の名前叫んだだじぇねぁか。


 あれは最初の一歩です。本来の力を発揮するには、そこから更に奥へと踏み込まなければなりません。


 更に奥?


 ……これはあまり伝えたくなかったのですが、私、確信いたしました。ピカ太さんの力の引き出し方を。


 お? なんだよそれ。そんなもの分かったのならさっさと教えてくれよ。


 ……


 ……


 ……


 ……はぁ。


 おい。なんだよ露骨に溜息なんてついて。お前、俺のためになんでも協力するつったじゃねぇかよ。頼むよ課長。


 頼っていただけるのは大変嬉しいのですけれどもね……


 なんだよ。


 ……はぁ。


 おい! いい加減にしてくれよ! 時間がないんだよ時間が! 課長だってさっきそう言ってただろ!


 ……分かりましたよ。お教えいたしますよ。不本意ですが。


 なんだよさっきから。なんか変だぞ。


 そりゃ変にもなりますよ。ピカ太さんだって、私の気持ちを知ったらきっと発狂手前までいくに違いないんですから。あぁヤダヤダ。どうしてこなっちゃうんでしょう。本当に因果なものですよ、えぇ。


 何の話だ。


 じゃあもうはっきり言いますけれど、ピカ太さん。貴方、ムー子の事を考えると孔が開くんです。


 ……は?


 ですから、ムー子の事を考えるとピカ太さんの体中にある孔が一気に開くんですよ。


 ……なんで?


 自分で考えてください。


 は? え? 怒ってんの課長。


 怒ってないとお思いなら、余程空気の読めないダメ男ですねピカ太さんは。


 なんなんだよ……


 いいから、とりあえずムー子の事を考えていてください。そうすれば力を発揮できますから。それじゃ。


 あ、おい! 課長! 課長! 

 ……無視だよ。なんだよいったい。まさかムー子に嫉妬してんのか? あのムー子に? まさか? いやいや、だってムー子だぜ? そんなわけあるはずねぇじゃん。だってお前、俺あいつの事嫌いだし。嫌いだからこそ何度もぶっ殺そうとしてるわけだし、現にぶっ殺してるし。俺があいつに対して抱く想いなんて殺意だけじゃん。それをどうして……



 ……





『「俺にとっては誰かを殺す事が愛そのものなんだよ。だが同時に、愛するが故に殺したくないという矛盾を抱えている。だからこそ俺は、あえて偽造の人格を受け入れた。そうして自己矛盾から逃避して、ずっと心の中に籠っていたんだ」』






 ……


 ……


 ……いやぁ、ね?

 

 俺がもう一人の俺に言ったセリフがブーメランのように飛んでくるとは思いもよらなんだ。 愛しているから殺したい。それは、もう一人の俺の人格の影響を受けている俺にも同じ事がいえてしまう。という事は、俺は……




 ……いや、それはない。ない。断じてない。俺がムー子を愛しているなどあってはならない事だ。そんな事が許されるわけがない。そうだ。そんなはずがないんだ。そう、そんなはずは……



 しかし、この身体を駆け巡る、燃えるような熱は……紛れもなく……

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