サキュバス、親父にもぶたれた事ありませんでした6
「あぁ思い出しました思い出しました。それじゃあ、いきますね。ハイ」
「……何も効果がないようだが」
「ちょっとネガティブな事考えてみてください」
「そうはいってもなぁ……」
「さっきまで散々仕事について負の側面を並べていたじゃないですか」
「そうだけども、なんかやれっていわれると出てこないもんなんだよ。給料とか残業とか、その辺りも”まぁしゃあないか”みたいな感じで割り切っちゃってるし。そりゃ新卒なんかだったら辛いと思うけど、能力が高いわけでも特殊な資格持ってるわけでもない人間からしたらこれが普通といえば普通かなという発想に行きつく」
「うぅん。所謂社畜マインドというやつですね。不当な扱いを自身の中で正当化しメンタルを維持するという自己保身行動。奴隷の鎖自慢的不健全な精神性ですね」
「ほっとけ。いいんだよ。給料も休みもあるんだから。でももう少し残業時間は減らしてもらいたいもんだな。現状だと平均四四時間三十分。六回の四十五時間超過許容回数すべて使わないと回らない中でどうやってプロジェクトを進めるか考えなきゃいけないからしんどいんだよ。社泊の日もあるし」
「なるほど。ちなみにそれらを改善するにはどうすればいいでしょうか」
「退職するのは手っ取り早いが、次に入ってくる人間のためにある程度の整備はしておきたいな。さっきも言ったように慣れてる奴は”こんなもんだろう”で片付くが、新卒なんかは大変苦しみ、そしてグレーな社風に染まり切って大切な人生の時間を労働なんかに費やしてしまうだろう。負の連鎖は経たねばならない。よって、改革が必要だ」
「ほぉ。どのような」
「そうだな……在宅勤務で出退勤のコストを削るという方法などはベターだな。電車に乗っている時間を残業に変換すればその分拘束時間は抑えられるだろう。しかし、日本のウサギ小屋みたいな部屋では仕事もままならない事もある。月六万のワンルームで環境を整えるのは多くの人間にとって至難。よって。基本的には出勤してもらう方向で考えていく。とすると、ポイントは業務内容だ。できる仕事をできる量だけ行うというのが理想だが、中々そう上手くはいかない。ビジネスである以上多少の無理をしなければ金が得られないという事もあるだろう。そこで、少なくとも量をどうにかできるようにしておきたいところ」
「どのように?」
「人員を増加させる」
「それができないから回っていないのでは?」
「そうだ。ではどうして人を雇えないのか。理由は諸々あるが、まぁ大きく分けて二つ。コストと人数。人を雇えば金がかかる。契約内容や案件の数が増えない以上、支払われる金は常に一定であるわけだから、人を雇えば雇うだけ利益は減少。仕事の意味が薄くなっていく。また、人数に関しては募集をかけても応募がない状態、あるいは、クソみたいな奴しか応募してこないという事がままある。人が集まらないといつまでも求人媒体に広告載せなきゃいけないからこれもコストがかかって大変。で、ようやく応募があっても、お前うち情報系の企業やぞ? なんで履歴書が手書きやねんアホか。あと志望動機に”近いから”とか、流川じゃねーんだぞ。みたいなクソ怠事案が多発する事もしばしば。はっきりいって確認作業やらなんやらで無駄な時間を取るだけになってしまっている場合も多い」
「あぁ、よくありますね。人材が採れない事。妙な方が応募してくるのもあるあるです」
「その両方を一発で解決する方法がある」
「それは伺いたいですね」
「学生アルバイトを採用するんだよ」
「学生アルバイト?」
「そうだとも。昨今の大学生はまったく学力がなく使えないなんて叫ばれているが、実はそうでもない。ちゃんと勉強したちゃんとした学生は、時に社会人以上に有能だったりする。そういう人材を大量採用してしまえばいいのだ。時短で雇って賃金はバイト並だからコストもフルタイムでやるより抑えられるし、見どころのある奴は囲い込んで将来的に社員にしてしまう事もできる。彼らに雑務や業務を対応しつつ、通常社員はマネジメントに勤しむという手。これで合理的に作業がサクサク進むというわけだ」
「なるほど。幾つか懸念や問題点もありますが、確かにいい案かもしれませんね」
「そうだろう。よーし、出勤したらさっそく取り掛かるぞ! まずは資料作成とデータ集め……その後総務と人事に掛け合いつつ、上長に独自で対応できないか相談……許可がおりたら大学求人掲載のお願いをしつつマニュアルを用意して……うぉーーーーなんて有意義な時間なんだーーー! 労働ばんざーい! 俺はやるぞーーーーーーーーーーー! ……はっ!?」
「……と、いうように、ポジティブな思想を持って問題にアプローチできるようになるのです」
「なんて恐ろしい術なんだ……これを使えば労働奴隷がすぐにでもできてしまうのではないか……」
「最初にも申しましたがこれは自己肯定感を高める術なので、ブラックな環境下では仕事を辞めるようマインドが働くと思いますね」
「なるほど……」
そりゃ自己肯定高くなればクソみたいなところからは逃げ出すわな。
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