サキュバス、大型スーパーマーケットで休日を過ごす事に情緒を感じ始めました15

「三十八分! なんとか間に合いましたよピカ太さん!」


「凄いな。電車調べたら三分オーバーする見込みだったのに」


「それはもう! タクシーに万札渡して”いいから急いでくれ!”って伝えましたから!」



 無茶するなこいつ。ちゃんと法定速度を守ったのか気になるところだが、聞かない方がいいだろう。犯罪の首謀者などという負い目を感じたくはないからな。



「ところでピカ太さん。三分オーバーの見込みとの事でしたが、私の指折る前提で呼び出したんです?」


「それはそう」


「それはそう!? はぁ~~~~~~~? 悪鬼悪霊の類~~~~~~~~? ガチめのサイコパス返答はちょっとドン引きなんですけど~~~~~~~~~~~?」


「まぁ結果間に合ったからいいだろう。それより頼みたい事があるんだ。手伝え」


「そして命令口調~~~~~~~~~自分が思っているように事が進むと思い込んでいる人間特有の言動~~~~~~~~~ステレオタイプなクズ男~~~~~~~~~~~世界共通認識で女の敵認定~~~~~~~~~~~~~~いいですか~~~~~~~~ピカ太さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん~~~~~~~~~~~~? 私はフェミニスト代表として貴方を断固として許さない~~~~~~~~~例え何があろうと徹底的に争う姿勢を示し最終的に勝利してみせる~~~~~~~~~~~それは勿論暴力ではなく司法の場での事~~~~~~~~~日本は法治国家だから~~~~~~~~~~~法の下による平等が保障されているから~~~~~~~~~~~~というわけでピカ太さん! 法廷で会おう!」



 悪魔に人権があるのだろうかと悩むところだがこいつの言う事にも一理ある。確かに暴力は良くない。それに、無理やりいう事をきかせても後で裏切られる可能性も十分にあるわけだがら、平和的解決の方向に舵を切っていきたいと思う。この場で脳天を砕き全身の骨をバキボキにできるのにも関わらず交渉を選択するあたり、俺の慈悲深さが伺えるな。さて、では……



「ムー子。お前先々週の火曜日、ニクソンの餌やりと散歩係だったが、覚えているか?」


「え?」


「覚えてるよなぁ? だってお前カレンダー見て”やっべ忘れてたけど誰かがやってくれてる! ラッキー!”つってガッツポーズしてたもんなぁ」


「き、記憶にございませんが……」


「そうか。じゃ、このスマフォに記録されている動画を見てくれ」



『やっべ忘れてたけど誰かがやってくれてる! ラッキー! いぇーい二度寝二度寝!』



「……」


「” いぇーい二度寝二度寝!” か。羨ましいなぁゆっくり眠れて。俺はこの日、徹夜明けにもかかわらずニクソンを散歩に連れて行って餌をやり、そして出勤したんだよなぁ。クソ忙しい中、僅かな時間を縫って帰宅して、束の間の睡眠を取ろうとしていた時だったなぁ」


「……」


「これ、課長に知られたら大変な事になるなぁ。あいつ動物の世話にはうるさいからなぁ。”ペットは生き物。命があります。大切にしましょうね”なんて、マリに言って聞かせていたなぁ」


「お、脅す気ですかピカ太さん……」


「脅すだなんてとんでもない。俺はただ事実を言っているだけに過ぎんよ」


「い、いいですよ! 言ったらいいじゃないですか! 結果としてニクソンの散歩も餌も解決したんですから半殺し程度で済みますよこの案件は! そもそも過去の事だし!」


「ふぅん」


「私は身体の痛みよりも尊厳を選びます! それこそが気高き魂! 高貴なる輝き! 人間的な! あまりに人間的な! それが私! 島ムー子です! 残念ですがこの誇りは誰にも……」


「それと、先々週の金曜日」


「え?」


「お前、ゴミ当番の日だったんだけどなぁ。これもすっかり忘れてみたいだが、俺が捨ててきたんだよ。ゴス美が知ったら怒るだろうなぁ。普段から”ゴミを溜め込むのは堕落の証。見つけ次第適切に処理します”なんていってるからなぁ。もしバレてしまったら、お前がゴミとして捨てられるかもしれんなぁ……」


「……」


「これでツーアウト。全殺しはほぼ確定だな。そして更に更に……」


「わ! 分かりました! やります! 手伝います! なんでもします! ですから! ですからこれ以上私を弄ぶのはやめてください! 死んでしまいます!」


「あ? そう? 悪いねなんか。無理やりやらせちゃうみたいな風になっちゃって」


「い、いえ! 全然! お役に立てて光栄です!」


「そうか。ならよかった」



 いやぁやっぱり話し合いって大事だよな。暴力じゃどうしようもない事も、対話を続ければいつかきっと解決するんだ。美しき人間社会。手と手を取り合えばみんな友達だよ。



「ではさっそくなんだが、ピチウを探してもらいたい」


「え? ピチウちゃん?」


「そうだ。実は今はぐれてしまっているんだが、諸々あって向こうが探知能力を使って俺を避けているんだ。これをなんとかしたい」


「え? うぅん……そうですかぁ……」


「なんだぁテメェ? 嫌なのかぁ?」


「え? いや、そうじゃないんですが……」


「じゃあなんだよその歯切れの悪い態度は。はっきりしろよ」


「……じゃあ、はっきり言いますけど」


「あぁ」


「そこにいますよ。ピチウちゃん」


「え?」


「……」


「……」



 いたわ。

 振り向けばいたわピチウ。全然気づかんかったわ。


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