サキュバス、合コンって言葉が死語になりつつあるって事に時代の流れを感じざるを得ませんでした12

 よーし俺も参加しちゃお! もう女の事なんて知ったこっちゃないっしょ! だってよ……アーサーなんだぜ?



 ガシ!



 手首が強く掴まれた! いったい何が!



「……輝さん」


「あ、伊佐さん。どういたしましたか?」


「いえね? まさかそんな事ないとは思うんですが、よもや、あそこの輪に入り込もうなんて気じゃないですよね?」


「え? 駄目なんですか?」


「輝さん」


「はい」


「読みましょうよ。空気」


「……はい」



 消沈し着席。

 怖えーよ伊佐さんの目。マジでキレてる奴の色してたよ。よく漫画である、笑いながらプレッシャーかけてくるキャラクターのそれだったよ。蔵馬とか不二周助とか温和なキャラクターが本気出した時に見せる時のやつ。でも最近だとそういうキャラ付しないのか全然みないな。俺が漫画読む暇なくなったってのもあるんだけど。おかしいよなぁ。昔、あんだけ楽しみにしてたジャンプが今じゃ出勤の際に見かける背景みたいになっちゃってんだもん。表紙眺めてわくわくしてた少年時代も終わり、今や死んだ目をしながらヤフーコメントを調査したりする毎日。夢も希望もねぇ。そんな大人がジャンプなんか手に取っちゃ駄目だな。二十五超えたら漫画ゴラク! ごめんやっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! げぇ! 萬田はん!?



 とはいえ俺あんまり読んだことないんだよなゴラク。どっか遠出して帰ってくる時、スマフォの電池がなくなりそうだからって電車の中の暇つぶし用に買ったくらいだ。まぁ面白かったけど、未だに白竜とかやっててびっくりしたよ。だってあれジャンプでいうところのワンピみたいなもんだろ? スゲーよな。




「というわけで、集客には感動エクスペリエンスが必要なわけでありまして、それは往々にしてwebだと得られなかったりするんですよね」


「えぇ~~~~めっちゃ分かる~~~~確かに綺麗な背景とか宝石とか~~~~~~実物で見てみたいなぁ~~~~~~って思う~~~~~~」



 ……引き留められ残ってはいるが、これ俺いるか? 空気読めつってたけど別にええやろ。お前ら楽しそうだし。

 そうだよ。お前らは楽しいからいいよ。俺だって楽しみたいんだよ? シャアとアムロがダカール演説後に乾杯したシーンを再現したいんだよ? なのになんだこれは。完全に孤独! あるかぁこんな寂しいことぉ!? 確かに、これでゆっくり酒が飲めるぜぇ! って思ったよ!? でも考えてみたらみんながガヤガヤしてる中一人バカスカ酒飲んでたら絶対イラつくやつじゃん! 一人ハブにされてるみたいで不愉快極まりないよぉ! 殺す! やはり、抜け出して三人でガンダム談義を……



 チョンチョン。



 ん? なんだ? 二の腕に指突されたような感覚が……

 ……あ、お前は。



「あ、九雲さん。どうも」


「どうもぉ」



 びっくりした。いつの間にか隣にラグがいる。

 お前いつ現れたの? 隠密の出? 日向は木の葉にて最強な感じ? 分かる分かる。ネジかっこいいよね! この台詞言ったのヒアシだけど!



「なんだかあぶれちゃったねぇ」


「え? えぇ。そうですね。みんな楽しんでいるようで、なによりです」


「嘘だぁ。凄い退屈そうな顔してたよぉ? ピカ太さぁん」


「そうですかね?」


「そうですよぉ」



 いきなり下の名前で呼ぶとは馴れ馴れしい奴。だがまぁいいだろう。どうせ貴様との付き合いも今日に限った話。いちいち「気安いぞ!」などと文句をつけてもしょうがない。寛大な心で許してやる。



「ピカ太さんってぇ、こういう飲み会苦手な感じぃ?」


「えぇ。まぁ得意ではないですね。そもそも大勢でいる事が好きじゃないんで」


「正直ぃ。でもよかったぁ。私も苦手なんだぁ。こういう空気ぃ。なんか、話さなきゃって感じになるしぃ」


「あぁ、なんとなく分かります。ムカつきますよね同調圧力。イラっとしたら”おいおい空気読めよノリ悪いよぉ!?”ってな感じでヤジられるし。野球部じゃないんだから止めてほしい」


「分かるそれぇ。私もよく身長の事とか弄られるんだぁ。” 小さくて見えんかったわ”っとかいわれてぇ。思わず”切符買ったのかぁ? 地獄行きのなぁ?”なんて事言ったりぃ。向いてないのよねぇ」



 ナチュラルに宮城リョータの台詞を仕込んでくるとかこいつ、かなりの手練れと見た。中々おもろい奴やんけ。あ、違うわ。この場合、「おもしれー女」っていうのが正解なんだよね? え? 違う? 



「まぁでもこうして会ったのも何かの縁ですから、どうです? 再度乾杯でも。嫌な記憶は酒と一緒に飲んで忘れてしまいましょう」


「……輝さぁん、結構面白いねぇ」


「そうでしょうか?」


「うん。絶対女の子からモテるでしょぉ? 慣れてる感じするしぃ」


「生憎と女性とは縁がなく……」



 そもそも嫌いだ。という事は伏せる。さすがに女相手に明け透けに言うのは失礼過ぎるからな。害がない人間に対してはこちらも最低限の礼儀を弁えたい。



「ふぅん……ならぁ、私ぃ、彼女にしてもらおっかなぁ」


「ははは」



 そういうのはいい。マジでやめてほしい。想像しただけでゲンナリとする。マジ勘弁。



「あぁ。愛想笑ぃ。酷いんだぁ」


「すみません、性分なもので」



 絡むなぁこいつ。面白いと思ったけどちょっと厳しいかなぁ。でも袖にしてもなんか悪い気がするし怠いなぁ。いっそ一気でもして潰れたふりでもするかぁ。



 ……



 ……ん?

 なんだ? 急に寒気が……



「ひ……」



 お? どうしたラグ。小さな悲鳴なんぞ上げて。虫でも出たか?



「ピカちゃん」



 ふいに聞こえる声。

 それが誰のものであるかは考えるまでもない。



「……どうも」



 振り返れば奴がいる。

 阿賀ヘル。お前いつの間に俺の背後に? というか、店長と不破付さんは?



「やっぱターンエーは最高ですなぁ。月の繭がねぇ。いいんすよ」


「分かる分かる。あの詩は凡人には書けねぇよ」


「……」



 マグが一人置き去りにされてる……

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