サキュバス、狙ってる男の妹と同居しました32

「おや? 輝さんに、宙さんの所の……」


「どうも……」


「お久しぶりです……」



 挨拶したものの、やだなぁ苦手なんだよなぁこいつ。なんかヤバイ薬キメてないのに頭がイッっちゃってる感じがしてどうも……ムー子とは別の意味で近づきたくないタイプなんだよなぁ。



「お二人が除霊なされたんですか?」


「えぇ、まぁ……」


「ピカお兄ちゃん……じゃなかった。兄が始末をつけてくれまして」


「おや? お二人は兄妹でいらっしゃるので?」


「えぇ……まぁ一応……」


「そうですか! それはよかった!」


 

 何がよかったのかさっぱり分からんが、それよりも……



「(ヒソヒソ)お前、あの人知ってんの」


「(ヒソヒソ)うん……何回か家に来た事あるよ……まぁ狭い業界だから、だいたいの人の顔は知ってるんだけど」


「(ヒソヒソ)ふぅん……」



 そりゃあガチの霊関係の仕事やってる奴なんて稀だろうしな……しかしあのバイトだと思っていた女が資格持ちの鑑定士だったとは。人は見かけによらんもんだなぁ。

 ……月に幾ら持ってんだろ。



「では、こちらのお店に住み着いた霊が消えたかどうかをお調べいたしますね?」


「あ、はいよろしくお願い致します」


「お二人も、大丈夫でしょうか?」


「えぇ……まぁ……」


「問題ないです~」


「はい。じゃあ早速……え~い」



 なんか気の抜ける掛け声だな……うっ!



「ぐ……苦しい……」


「ピカお兄ちゃん! お守り! お守り握って!」


「も、持ってるだけで効くんじゃないのあれ?」


「波動が強すぎる場合はこっちからも信号送らないと!」



 なんだその設定……それより、そんなに強いのかあの女の霊的パワー……間抜けた顔して存外やるもんだな……今度から不用意に近づかないでおこう……うん?



「……」


「……」



 ……見てる。こっちを見ている。正確には、俺がぶら下げている杉太郎をじっと……

 やっべ、こいつ気が付いたか? いや、十中八九勘付いた。だってそういう目してるもん。「私、看破いたしましたが?」って感じでずっと視線送ってくるんだもん。これあれかな。もしここで「まだいまぁす! 除霊できてませぇん!」ってバラされたらドラクエⅤのカボチ村みたいになるのかな? やだなぁリアルで「あんた化け物とグルだったとはな」なんて言われるの。メンタル持たないよ。まぁその時はその時でピチウにオカマを払ってもらうとしよう。できるかどうかは分からんが。



「……あの、鑑定士さん? どうでしょうか」



 丸め、痺れを切らしたな? さて、どうなるか……



「……ご安心を。ここに住み着いていたという幽霊は、痕跡も残らず消え失せたようです。今後、霊障などは起きないでしょう」



 え? 見逃し? まさか察知していない? いやそんな事なわ。だってまだ、ずっとこっち見続けてるんだもん。スゲー微笑み送ってくるんだもん。怖いわ。怖すぎるわ。



「ほ、本当ですか!? 本当にもういないんですね!?」


「はい。新たにやって来たりしない限りは……」


「ふ、不吉な事を言わないでくださいよ」


「いえ。割と頻繁に発生しますよ? もしご要望なら有料で結界をお張りいたしますが……」


「……お願いします」



 てめぇ丸! 俺達にはケチったクセにこの女には払うんかい! 気に入らん! 

 ……よし。そっちがその気なら是非もない。こうなりゃ恩情はなしだ! 遠慮なく銭闘を始めさせてもらうぞ!



「ピチウ。スマフォに送ったメッセは見たな?」


「え? あぁうん。でも、いいのかな……」


「なに、構わんさ。これくらい貰わんと割に合わん」



 そうとも。俺達は命を張って戦ったのだ。正当な報酬をいただいて然るべきなのである。



「丸さん。報酬の件だが……」


「あ、えぇはい。すみません。長らくお待たせいたしました。お約束通り、当店にて販売している家具、どれでも好きなものを好きなだけお選びいただければと……」


「そうか。ところで今回、計らずとも俺やそこの子供二人まで除霊に参加する事になったのだが、その分もいただけるという認識でよろしいか?」


「それはもう……当然の権利でございますから……なんなりと……」


「そうか。では差し当たって、俺はこれをいただこうかな」



 スマフォタップ。ブラウザ起動。はい! どうぞ!



「えぇ!? こ、これは……」



「北欧フェアで販売されているスイスの机と椅子を貰おう。いやぁ、丁度欲しかったんだよねぇガンプラ作る用のデスクが! 最近ガタついてきてて!」


「え、あ、いや、これは……」


「いいですよねぇ? 丸さん? 好きなものを好きなだけ。ですから」


「だ、駄目! これは駄目! こんなもの持っていかれたらウチは大赤字ですよ! これはいけない!」


「しかしあんた、妹に言ったんですよね? この店に売ってる家具、なんでも好きなものを選んでいいと」


「た、確かにそう述べましたが……それは……」


「それとも、こっちが命がけで除霊したのに!? 今も身体がバキバキなのに!? 妹も怪我したってのに!? 約定を反故にすると!? そう仰るわけでございますか!?」


「な、何もそんな事は……ただ、認識として……」


「それはそっちの都合でしょ~~~~~~? こっちはこっちで、なんでもOKという認識で仕事させてもらったんですが~~~~~~? そうじゃなかったら断っていたんですが~~~~~~~? その点はいかがか~~~~~~?」


「そう言われましても……無理なものは……」


「あ、さいですか~~~~では、こちらにも考えがございますが~~~~~よろしいですか~~~~~?」


「か、考えとは……」


「なぁに。ちょっと友達の幽霊を呼んで、ここに住んでもらうだけです。さて、百鬼夜行が犇めきだしたら。この百貨店はどうなってしまいますかねぇ……見もの見もの」


「きょ、脅迫! 脅迫ですよそれは!」


「脅迫ねぇ……確かに成り立つかもしれませんねぇ。幽霊の存在を立証できればですが」


「ぐ……!」


「丸さぁん。こちらは何も理不尽な要求をしているんじゃないんですよ? 仕事に見合っ対価をくれと、そういってるんです。よく考えてください。お値段以上の商品で命を張れますか? 高品質低プライスな報酬で納得できますか? できませ~~~~~ん! こっちも仕事をしっかりやったんです! 貰うもん貰わないと! ね?」



「……」


「丸さん! どうですか!? 納得していただけますか!?」


「……や、やはりこれは……」


「お~いピチウ~~~あれやってやって~~~~? 九尾の狐がくるやつ~~~~」


「わ! 分かりました! すみません! なんでも! なんでも差し上げます! ですから物騒な事は!」


「ありがとうございます! では、遠慮なく!」



 まったく、最初から素直にそう言ってくれればいんだ。それにしても、最後まで食い下がられなくてよかった。さすがのピチウも殺生石なんぞ持ってないだろうからな……

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