サキュバス、狙ってる男の妹と同居しました17

 気まずい空気のまま屋上へ到着。沈黙と共に俺達を運ぶエレベーター君はエライ。


「さ、ついたよピカお兄ちゃん。さっそくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!? なにこれ!? なんか楽しそうだよ屋上!」


「なにと言われても……屋上としか……」


「そうじゃなくてさぁ! なんかいっぱいあるじゃん! ワンちゃんいっぱいいるし! なんかテラス? テラスっていうのあれ? なんかそんな感じの椅子とかパラソルがある! なにこれ! すごい! ジャス子になかったこんなの!」



 確かに地元のジャス子はクレープ屋があるくらいだったもんな屋上。ワンちゃんがいたらそりゃテンションも上がるか。山中じゃ猪とかが普通に出るけど、やっぱり家畜と野生じゃ違うよな。



「え~~~なにこれ! これなに!? 遊びたい! ねぇねぇピカお兄ちゃん! これ触っていいやつ!? 触れ合っても問題ないタイプのやつ~~~~~?」


「人が飼ってるやつだから触ったら駄目なタイプなやつだ」


「えぇ~~~~~~いぃなぁ~~~~~~私もワンちゃん欲しい~~~~~~」


「動物を軽々しく欲しいとか言わないように。だいたい、うちにはニクソンがいるだろう」


「? ニクソン?」


「え? お前見てないのニクソン。プランの犬だけど」


「犬……?」


「ほら、庭にいる……」


「庭……え? あの妙な気配持ってるの、ワンちゃんだったの!?」



「なんだ妙な気配って……」


「いやぁ私、気を開放した時、射程距離に入ってればだいたい何があるか分かるんだよね。で、庭に何か変なものいるなぁ~~って。化生の類かなぁ~~~~って思ってたんだけど、そっかぁワンちゃんかぁあれぇ」


「まぁ魔界の犬種だからあながち化生ってのも間違いじゃないんだが……」


「ねぇねぇどんな感じ!? そのワンちゃんどんな感じ!?」



 どんだけ興味津々やねん……こいつこんなに犬好きだったか? 爬虫類飼いたいとかいうより余程健全ではあるとは思うが……ところで、なんで爬虫類飼う女は地雷だって認識が広まったんだろうな。別にいいのにななに飼っても。俺は蛇とかトカゲの類が苦手だから嫌だけれども。



「ねぇねぇ~~~~写真は~~~~? 写真とかないの~~~~~?」


「分かった分かった。少し待ってろ」



 あったかな写真……スマフォタップタップ……お! あったあった! 



「ほらよ」


「わぁありがとう! かわ……いいけど、なにこれ? なんでムー子さんが血まみれで倒れてるの?」


「この時はあれだな。ゴス美に正中線五段突き喰らって叩き出された時の写真だな。綺麗にウルコン決まってたからムービー撮りたかったけどあまりの早さに取り逃したんだよ。いやぁ惜しかった」


「……他にないの?」


「他ぁ? う~~ん……お、あったあった。ほら、これなんてどうだ?」


「……なんでムー子さんが燃え上がってるの?」


「それは小遣い稼ぎのためにマリの下着を付けて動画撮ってのがバレた時の奴だな。マリのアクションアームでキャンプファイヤー状態になってて香ばしかったぞ? 焼けた腕はニクソンが美味しくいただきました」


「……ピカお兄ちゃんさぁ」


「うん?」


「一集回ってムー子さんの事好きなんじゃないの?」


「……は?」


「だって写真も撮ってるし、めちゃくちゃ距離も近いし、ピカお兄ちゃん、ムー子さんだけ対応が違うよ?」


「お前はそれは……」


「それは?」


「……」



 どうしよう。ムー子をぶっ殺すのが楽しくて、あいつが痛い目に遭ってるのが楽しくてついそんな風になってしまっているなんて言ってしまっていいのだろうか。実の妹に異常性癖者扱いされないだろうか……


 じゃなくて! ない! 絶対にない! あいつの事を特別に思っているなんて事がミクロン単位でない! というかあいつがちょっかい出してこなければ俺だって別になにもしないんだよ。そもそも部屋探そうとしてたけどピチウが来て頓挫したんだ。そんな関係だよ俺とあいつは。好きとかそういうんじゃない。それをお前、一周回ってだの、距離が違うだの……勘違い! 肌はだしい勘違いです! おかしいですよカテジナさん! よぉし! この誤解を正そう! 胸を張って!



「それはただの思い違いだ。神に誓って俺はムー子などに特別な感情は抱いていない。ただ、うざい奴が痛い目に遭っているのが楽しいだけだ」



 ほんとそれ。それ以外にまったく理由などない。やめてねよねまったくもう! 困っちゃうわ私!



「ふ~~ん。まぁいいんだけどね」



 なんだその「やれやれ」って態度は。本当になんとも思ってないぞ俺は。本当だぞ!



「ところで、今度ここにニクソンちゃんつれて来ようね?」


「……別にいいけど、まずは仕事だ。ほら、さっさと始めるぞ」


「はいはい……じゃ、"展開”するから、ピカお兄ちゃんアテられないようにね?」


「うん? うん。分かった」



 ちっとも分からない。アテられる? 何にだ。



「……!」



 ……!? 空気がひりついてる! なにこれ! なんか心臓がドクドクする! 具体的にいうと入社一年目にやらかして先方にマジ切れされた時みたいな感じ! あぁ思い出したくない事思い出しちまった! くそやめろよなんだよこれ! あ、もしかしてこれ~~~? これがアテられるってやつ~~~~? ちょ、勘弁してれくよ~~~~


「ピ、ピチウ……」


「どうしたのピカお兄ちゃん……って、あーあ。もう駄目じゃん。気張ってなきゃ。いくら力抑えてるっていっても、この至近距離じゃそれなりに負荷かかるよ?」


「ど、どうやって防ぐんだよこれ……」


「あれ? ピカお兄ちゃん、集気の業やってない感じ?」


「やめてくれないか何一つ分からない単語を浴びせてくるのは」


「も~~~~ピカお兄ちゃん駄目だねぇ。駄目駄目だねぇ……」



 普通の人間はこんなもんだよ! まったく、こんな異常事態今日限りにしてもらいたいもんだ。

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