サキュバス、狙ってる男の妹と同居しました7

 もしこの約束を違えたらどうなるんだろう……普段のゴス美であれば許しくてくれるだろうが、あの感じだとマジの激怒で憤死するかもしれん……いや、それよりも、考えられんが、万が一泣いたりされたら……いやいやいや。さすがにそこまで俺に入れ込んではいないだろう。ゴス美にとって俺は、転勤先で精神的に疲れている中出会った、ちょっと話の合う人間なだけだ。交流する事に芽生えた喜びの感情を恋と錯覚しているだけに過ぎん。そんなガチの悲しみなんて、そんなそんな……


 こうして考えてみると俺はもの凄く下品な男な気がするし、下手したらおだってるような感じさえする……なんというか、独りよがりというか、断定的というか、相手の気持ちを推し量らず、自分の想像だけであぁだこうだと困ったように悩んで……あれ? 俺、ちょっと調子乗り過ぎじゃないか? 自惚れが過ぎるんじゃないですか? 恋愛感情や性的欲求がないのをいい事に、自分は無害であると、下心なしに付き合っていると、相手の事を真剣に考えているように振る舞って、善い人と思われたくてあれやこれやと手を回しているみたいな、そんな最低の事をやっている偽善者野郎なんじゃなかろうか? それが事実であればおぉ……なんたるメンヘラ……まさか俺の精神性が斯様に矮小で脆弱だったとは……恥ずかしい……恥ずかしくて死にたい……え、どうしよこれから……ちょっと冷たくする? いやそれは駄目だろ。そんな付け焼刃な対応はゴス美への侮辱ではないか。そもそも、意識しすぎていて気持ち悪いってんだからベクトルが違うだけで同じような事をしてはいかんだろ馬鹿。悪手悪手。そうなると……いつも通り?

 

 ……そうだな。それがいい。結局そうなる。そういう結論に帰結する。そうそう。いいんだそれで。人間関係をあれこれ考えたってしょうがないんだ。感謝しているのは事実だし、いつも通り、「へい課長! 乗ってるかい!? このビックウェーブに!?」てな感じで接すればいいんだ。なんだ簡単じゃん! そうしよそうしよ…… 



「ピカ太さん。お出かけなさらないんですか?」


「うっひゃい!」



 しまった! 突如背後から声を掛けられたために変な叫びが出た! なんだうっひゃいって。気持ち悪。



「……どうかなされたんです?」


「いや……」



 普通! 普通だぞ輝ピカ太! 普通に話すんだ!



「課長、乗ってる? ビックウェーブに?」


「? サーフィンの話ですか? 生憎と陽射しも潮風も苦手でして……」


「そうか。実は俺も海は苦手でな。何しろ内陸生まれだから」


「はぁ……そうですか……」


「お互い、いつか波に乗れたらいいな!」


「……?」


 

 なにを言ってるんだ俺は?



「お兄ちゃ~~~~~ん! まだ~~~~~~~~~!? 遅いよ~~~~~~~~~!」



「おっとすまん。呼ばれている。それでは、良き夢を! アデュー!」


「あ、はい。アデュー……」



 結局わけ分からん事になってしまった。まぁいいや。切り替えていこう。それにしてもアデューとか、ムー子みたいな事口走っちまったな。とんだ失態だ。でも柳生比呂士も言ってるしいっか。そういやあいつ、なんでリョーマの最後で突然ベストフレンドみたいな面して出てきたんだろう。接点なくない? まぁ面白かったからいいけど……そうそう、あの映画そこそこ面白かったんだよな。最初ネタのつもりで観に行ったんだが、いい意味でベタな展開にミュージカル演出がシームレスに入ってきて中々新鮮だった。とういかあのシナリオは肩の力を抜かせるための仕掛けだったのかもしれん。先の読めるストーリーで脳の処理速度や容量に余裕を持たせ、歌とダンスに没入させるという目論見だったのであれば、これは大したもんだよ。多分リピーターも計算に入れてるだろうからその可能性は十分にあるな……うぅん侮れん映画だ。

 リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様! 絶賛ロングラン中! DecideとGlory の二パターンあるから両方観よう! ちなみにプリパラの映画は四パターンあったぞ! こういう商略も内容次第では全然ありだな!




 さ、玄関へ行こう。



 ドタバタ。



「すまん。待たせた」


「遅いよお兄ちゃん! なにやってたの!?」


「いや、立海大付属のジャッカルかっこいいなって考えてた」


「ピカお兄ちゃん、飛影好きだもんね」


「……」



 そうじゃない。そうだけどそうじゃないぞピチウ。



「もぉ! わけ分かんないアニメの話はいいから! 早く行こう!」



 え? どっちが? テニプリ? 幽白? もしかしてどっちも?


「私もマリさんに賛成します。ピカ太様。勝手を申すようで大変恐縮なのですが、私、早くお出かけをしたく……」


「あぁすまん。じゃあ行くか」



 どっちでもいいか……



「よーし! ようやく出発だよ~~~~! プランちゃん! お昼ごはん何食べたい!? 私唐揚げ!」



 お前この前タピオカ屋の跡地に唐揚げ屋ができて悲しんでたじゃねーか。どんな変わり身の早さだよ。それにお前さっき朝食取ったばかりだろ。なんでもう昼の話してんだよ。土山しげるの漫画でも読んだのか?



「お兄ちゃん。唐揚げ屋さんならジャス子にもあるよ?」


「……」



 お前はいい加減ジャス子離れしてくれ。

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