サキュバス、白球を追いました8

 プレイボール!


「プレイボールです。ブルードラゴンズの先攻。一番バッターは三田サンダ選手。右バッターながら先頭打者を任されております。打率、四割五分。出塁率はなんと六割。安打率は勿論、驚異の健脚と選球眼でチームを牽引します三田選手。五十メートルの記録は五秒九と六秒を切っております。以前、どうしてそんなに早く走れるの。と、クラスメイトに聞かれた際、毎日お母さんが美味しい料理を作ってくれるからと元気に答えた三田選手の一打席目です」


「ほのぼのしますねぇ」


「さぁマウンドの島選手。第一球、振りかぶって、投げました」



 デッボール!



「デッドボール。デッドボールです。島選手、三連戦第一試合、初登板、一球目でよもやのデッドボール。これはちょっと類を見ない記録です。おっと、帽子を取って謝る素振りを見せていますね」





「ゴメンチ」






「誠意ゼロの謝罪です。謝ったからいいだろうとでも言いた気な太々しい笑顔です。いやぁ世の中こんな人いるんですねぇ。ヒールですよヒール」


「奴には後でよく言って聞かせます」


「拳を握りしめいったいどのように聞かせるのか。それは当人間の問題であって私には関係のない事なのでノータッチでいきたいと思います。さ、ランナー一塁ノーアウト。ピッチャーセットポジションから、投げました……その間一塁ランナー走る!」


 ットラーイ!


 セッフ!


「セーフ! セーフです! 三田君、悠々と二塁を踏みセーフ。いやぁさすがの健脚ぶりです」


「ゲッターライガーを彷彿とさせますね」


「ゲッターライガーとはなんでしょうかグレート」


「そこは掘り下げなくていいです。それより試合を見ていきましょう」


「そうですねぇ……おや? 島選手が何かやってますね」





「遊びはここまでよ。我が三大魔球が一つ。ここで使ってやろう。打てるものなら打ってみるがいい!」





「魔球宣言です。黙って投げればいいところを、堂々と宣言しての投球。まるでバラエティー番組のノリです。ある意味エンターテインメントではございますが、真剣に取り組んでいる選手に対しての侮辱ともとれる行為といえます」


「いけませんねぇ。真面目にやってる中茶化すのは。一番面白くないパターンです」


「私もグレートに全面同意です。しかし、まだその魔球を見るまでは島選手を信じたいという気持ちもございます。高らかに宣言した魔球とは果たしてどのようなものなのか。さぁ振りかぶって……振りかぶるんかい! さっきセットアップだったのに!」






「くらえ! 第一の魔球! ドスケベエロチック!」



 ボォル。






「ボールです。グレート。今の一球、いかがですか?」


「あとであいつしばく」


「物騒な物言いですが、是非ともお願いしたいという気持ちでいっぱいです。なんだあの投球フォームふざけてんのか。下手したらスポンサーが下りる事案。カメラさんの咄嗟の判断でなんとか助かりました」


「もう退場でいいだろあいつ」


「残念ながらルールブックには反してはおりません。さぁ気を取り直して第三球……おっと、これはまた何からやろうとしていますね」




「今のはほんのお遊び。第二の魔球。打てるかな!?」





「立て続けです。島選手、おふざけに余念がありません。さぁやはり振りかぶります。振りかぶって……




「第二の魔球! デカメロンアウトサイダー!」





「あ、駄目ですねこれは」



 ボォク!



「ボークです。ランナー進んで三塁。ノーアウト三塁。バットに一度も当てる事なく、ブルードラゴンズは先制のチャンスです。一方島選手にとってはピンチの場面ですが、まったく緊張感が見られません。むしろやたら凛々しい面構えです。どういった心理状況なのでしょうか。まるで読めません」


「普段から人生舐めてますからね。学生諸君にはいい反面教師になるんじゃないでしょうか」


「なるほど。確かにベンチからも、あぁはなりたくないなという視線が向けられています島選手。プロフィールによると三十代と記載されておりましたが、これまでの人生、いったい何をやって過ごしてきたのか気になるところではございます……さぁ四球目。あぁまただよ。何か、また、しでかそうとしています島選手。マウンドで何かやっています」


「いやぁ本当にもう、今から駆けつけて引きづり下ろしたいですね」


「先日、校庭で発生した不審者撃退の雄姿をもう一度見たいと思わなくはないですが、島選手は選手であり、選手として、マウンドに上がっております。ゲームが成立している以上、乱入による中断は許されないのが野球でございます。グレート、ここは堪えていただきたい。さぁ島選手。今度はどのようなおふざけをするのか」







「ここまでは遊びのサービスタイム。今こそ真の力を見せよう……第三の魔球! アバンスライダー!」






「ん? なんでしょうかこれは? フォームが変わり、サイドスロー……!? え? なにこれ凄い!」 





 ットラーイ!






「おぉ! なんですかあれ! スライダー? スライダーあれ? エグイ曲がり方しましたよ! 打者の手元で一気に変化しました! なんでしょうか! ここにきてまっとうな魔球です! 何故だ! 何故それを最初から投げない!」


「こういう事されるとムカつきますよねぇ、舐めプかって思いますよ」


「確かにその通りですが、いやぁ凄い球をみました! 私はそれだけで感激です どのような人間であれ、一角ひとかどがあれば輝ける。それが野球です。いやぁいい物が見れました。この際、島選手の人格などはどうでもよいでしょう。一野球プレイヤーとしてこの試合注目したいと思います」




 ダークサイドに堕ちそうなメンタルしてんなこいつ。




 ットラーイ! バァアーウ!



「三振に切って取られ。三番バッター毒田ブスタ君。打率二割八分とそこそこの打率ですが、架空の毒物を記したノートが両親に見つかって以来めっきり低迷しております。頑張れ毒田君」


「世界に中継してる中でそういう事言うのはやめましょう」



 なんか壊れてきたな都仁須君。大丈夫か?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る