28話:もうすぐクリスマス(side:未来)
文化祭が終わって、季節は冬に近づく。街はもうすっかりクリスマスムードだ。この間までハロウィン一色だったのに。
あと数週間で今年が終わる。私があの学校に通うのはあと僅かだ。彼女と登校する日々が終わりに近づいていく。寂しい。だけど、関係は続く。だから平気。そう自分に言い聞かせていると「おはよう」と彼女の声が聞こえた。
「おはよう咲ちゃ……」
その姿を見て、思わず言葉を失う。
「寒いので。今日からはズボンです」
「そ、そうなんだ……似合うね。……カッコいい」
青商の制服はジェンダーフリーだ。男子制服、女子制服という概念がなく、ブレザーとワイシャツに、ネクタイかリボン、ズボンかスカートを好きなように組み合わせることができる。ズボンとリボンでも良いし、スカートとネクタイでも良い。
咲ちゃんはいつもはスカートとリボンなのだけど、今日はズボンとネクタイの組み合わせ。このように、日によって変えるのもありだ。背が高くてスタイルが良いからよく似合っている。カッコいい。
「そう?へへ……ありがとう」
褒められて、いつもの人懐っこい笑顔を浮かべる彼女。可愛い。カッコいい。
「……クリスマス、咲ちゃんは何か予定ある?」
「未来さんとデートする予定が入ってます」
「私はまだ何も言ってないのに確定なのか……」
「しないんですか?クリスマスデート」
もちろんしますよね?と言わんばかりに彼女は笑う。デートの誘いは大体彼女からだから、クリスマスくらいは私から誘おうと思ったのに先手を打たれてしまった。ちょっとだけ悔しい。
「クリスマスはちゃんと空けてあるよ」
「逆にバイト入れてるとか言ったら私、悲しいです」
去年も一昨年もクリスマスはバイトだった。バイト帰りに一人でイルミネーションを見て、いつかこの景色を誰かと見る日が来るのかななんて、ちょっと妄想してみたりして。その妄想の相手は男の人だったけれど、今年のクリスマスに一緒にイルミネーションを見るのは背が高くてカッコいい私のことが大好きな女の子。大型犬みたいに人懐っこくて可愛い年下の女の子。女の子だけど、私の大切な恋人。大好きな恋人。
「……咲ちゃん」
「はい?」
「クリスマス、楽しみだね」
「うん」
初めての恋人と過ごす、初めてのクリスマス。プレゼントは何が良いのだろう。
咲ちゃんと教室の前で別れて、由舞ちゃんに相談する。
「恋人へのクリスマスプレゼント?そりゃアレしかないでしょ」
「アレとはなんでしょうか」
「わ・た・し♡」
「……たわし?」
「私だよ!未来ちゃん自身がプレゼントになるの!」
「……由舞ちゃん、私、真面目に相談してる」
「えー……
「……由舞ちゃんは恋人に自分をプレゼントするの?」
「いや、私はちょっと……付き合って半年にも満たないですし。ハードル高いっす」
無理無理と両手と首を横に振る由舞ちゃん。
「人にやらせようとしておきながら……」
「なははー。すまんすまん」
ため息を吐く。彼女に相談したのは間違いだったかもしれない。
「他のカップルに聞いてみたらどうだね?王子ちゃん達とか。最近仲良いだろ?まぁ、あの二人はちょっと……先に行き過ぎてて参考にならない気もするけど」
確かにあの二人は熟年夫婦のような雰囲気がある。しかし、付き合い始めた時期は私達とさほど変わらない。小桜さんは中学生の頃に別の人と付き合っていたと聞いている。私達はお互いが初めての恋人。そこの違いだろうか。どちらかと言えば小桜さんよりも鈴木さんの方が恋愛慣れしているように見えるけど、彼女の方は小桜さんが初めての恋人らしい。とてもそうは思えない。
「由舞ちゃんは何をあげるの?」
「私?手編みのマフラー」
「…………そっかぁ」
「な、何!?その間!」
「……成長したなぁって」
彼女は裁縫が苦手で、家庭科の実習では毎回居残りしていた。それを克服するために裁縫部に入った。入った頃の作品を部活紹介の時にも見せていたが、悲惨なものだった。
「でも、マフラーか……良いかもしれないね」
「パクる気か?」
「うーん……ぬいぐるみにしようかな」
「マフラーじゃないんかい」
「咲ちゃんマフラー使わなさそうだし……」
「あー……冬でも半袖で居そうなタイプだもんな」
「流石にそこまでではないと思うけど、暑がりだから。それに……マフラーは冬しか使えないけど、ぬいぐるみならいつでもそばに置いてもらえるから」
「これを私だと思ってって?」
「……ちょっと重いかな」
「いいと思うよ」
「じゃあ……そうする」
というわけで、その日からクリスマスプレゼントとして渡すぬいぐるみ作りを始めた。
モチーフはカピバラと犬。カピバラは以前咲ちゃんが私に似ていると言っていたから。犬は咲ちゃんに似ているから。犬種はシベリアンハスキー。
「咲ちゃん、喜ぶかな」
初めての恋人と過ごす初めてのクリスマスまで後二週間。彼女は何をくれるのだろう。ぬいぐるみ、喜んでくれるだろうか。楽しみだ。
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