第39話 鬼ヶ岳登山、「鬼が居るのか? 山頂には何が有る??」編

 清流学園山楽部の中で隠密に結成された[清流学園コスプレ部]として、LOVEフェスタ東海大会のコスプレイベントに出場を果たした穂乃花、友香里、華菜。

 そのビックイベントでのコスプレライブで友香里と華菜の強力なサポートを得た穂乃花は、見事に1位の座に就きLOVEキングの称号を手に入れたのだった。その興奮覚め止まぬ翌日の放課後の部室内では、昨日のコスプレイベントを振り返って居る4人の姿があったのだ。


「昨日は本当に素晴らしいライブを見させて頂きましたよ。ステージ上の3人は光り輝いてましたからね。1位の座を射止めたのも頷けますよ。とにかく皆さん、お疲れ様でした! この調子で全国大会も制覇する勢いで、頑張って行きましょうよ!」


「あら~隼人ったら、まるで貴方がステージ上で活躍していたかの様なノリに成っているわね。まあ、あたし達がライブの本番で本領を発揮出来たのも、応援してくれて居る人からパワーを貰えたからと言う事も有るから、良しとしますか」


「そうね、確かに応援してくれている人のパワーを貰ったから、気持ちが高ぶって私達が全力を出し切って歌とダンスを披露する事が出来たのよ。とにかく昨日は応援有難うね、隼人!」

 昨日の熱心な応援を褒められた隼人は、顔を赤くして照れながら口を開く。


「いや~どう致しまして。和也と一緒に成って気持ちを奮い立たせて応援しましたよ。僕達の気持ちの込めた応援が、皆さんに届いた様で良かったです。この勢いで、全国大会の制覇も夢ではないですね。ところで如月さん。全国大会って何時どこで行われるんですか?」


「昨日は熱心な応援を、わたくし達に届けてくれて有難う、隼人さん。一緒に応援して居た岸本さんにも後日にお礼を言っておきますわ。お陰様で1位の座を射止めて、LOVEキングの称号を手に入れる事が出来ましたの。

 ん~と、全国大会の日程を言うとね、期間が3か月ほど空いて開催は10月に成りますの。場所は東京のお台場に有るビックリメッセで行われますのよ」


「そうなんだ〜全国大会は、あのビックリメッセで行われるんだね。10月だから、まだ先の事に成るけど、全国の予選を勝ち抜いた強者共が集結して競い合うんだね。

 これは今から、楽しみに成って来ましたよ。当日は更にパワーアップして応援する様にしますからね。……あっ! そうそう、全国大会の応援の時も友人の岸本さんを呼んでも良いですか、如月さん!」


 全国大会の詳しい事を聞いた隼人は、更に熱心な応援をする事を誓う。すると隼人は穂乃花の顔を見つめながら、さり気なく岸本和也も応援参加をして良いか、穂乃花に問い質した。


「あ〜岸本さんなら、また呼んでも良いですわよ。あの方は凄く熱心に、わたくしの事を応援してくれるから、凄く心強いですわ。また、隼人さんから声を掛けておいてくださいね」


(おお〜和也の事をさり気なく如月さんに聞いてみたけど、すんなり自然に次の全国大会の応援もオッケーしてくれたよ。これは、和也の事は満更でもなさそうだな。明日に会ったら和也に知らせてあげよう。きっと喜ぶぞ〜)


「そうですか、岸本さんの応援参加を歓迎してくれるのですね。全国大会の応援参加がオッケーだと言う事を彼にも伝えておきますよ!」


 隼人は、穂乃花が和也の応援参加を快く快諾してくれた事に自分の事の様に喜び、肩を撫で下ろして居た。すると、その時! 部室のドアが開き山岸先生が現れた。


「待たせたね、諸君! ……てっ、如何したのだね、キョトンとした顔をして。もしかすると私に内緒で、何か話しをして居たのかね?」

 部室に入ってくるや否や、部員達の怪しい雰囲気に感ずき問い質す先生。


(まあ、あれだな。大方、昨日のコスプレイベントにの事でも話してたんだろう。無理も無い、如月は1位の座を射止めたんだからな。何しろ、私もあの場に居て最後のアンコールライブまで見届けて来たんだ。本当は、あの場所に君達と一緒に居た! と声を大にして言いたいところなのだが)


「あっ、先生! お待ちしておりましたの。何の話をしてたのか気に成るんですか? 別に内緒話をしてた訳ではないですわ。今週末に控えている山行きは何処の山に行くのかな~と、話して居たところなんです。そうですよね、皆さん!」


「そ、そうよ! 今週末に控えている山行きの事を先生から、ちっとも聞かされてないから如何したんだろう? と、皆んなで話して居たのよ」


「先生が未だ、登る山の名前さえ言ってくれないから、一体如何した事なのかと心配してたのよね。それか、今月の山行き行事を中止にする気なのかな? とも話してたところなのよ」


(女子達は凄いな! 先生にコスプレイベントに出ていた事を悟られない様に、咄嗟にその場で言い訳を取り繕って、さも山の話をしてたかの様に語ってるよ。僕だったら、咄嗟に言い訳を考え付かないもんな。まあ女子達は、先生が実際はあの場に居た事は知らないから、悟られない様にするのも無理は無いかな)


 先生に、自分達がコスプレイベントに出て居た事を悟られまいと、自然に嘘の言い訳を考え付く女子を見て居た隼人は、恐れ入りましたと心の中で思うのだった。


「そ、そうなのか、今週末の山行き行事の心配をして居たと言う事なのだね。いや~すまんすまん、何処の山に行くか決めるのに時間が掛ってしまったものでね。悩んだ挙句、ようやく決まったんだ。

 今日から夏休みに入る事も有り、夏休み中の山楽部の活動予定の発表も兼ねて君達に伝えるから、席に付いてくれたまえ!」


 自分が、あの場所に居た事を知らない女子達から、取り繕った嘘を語られた先生は一瞬、戸惑った表情を見せた。だが先生は、その言葉を真摯に受け止めた後、夏休みの部活動の日程を伝えるべく席に着く様に促すのだった。





「はい、皆さん席に着きましたね。では、これより夏休みの山楽部活動予定をお伝えします。まづは皆さんに、夏休みの活動予定のプリントを渡します」


 先生は、皆んなが着席したのを確認すると、用意して来た活動予定のプリントを一人一人に手渡して行く。そのプリントに、まじまじと見入って行くメンバー達。


「では、手渡したプリントを見ながら聞いて居てください。まづは最初に、今月末の31日に開催する山行き行事で登る山は、山梨県の河口湖町にある山[鬼ヶ岳]に決定しました。中級レベル5、標高1738m、西湖畔と富士山を目前に眺められる展望の素晴らしい山と成ります」


「えっ!今週末の山行き行事で行く山は、鬼ヶ岳と言うんですか? そんな奇抜な名前の山が有るんですね。僕は、驚きましたよ!」


「私は、鬼ヶ岳と言う山の名前は初めて知りました。鬼と言う字が名前に入っているからには、この名前が付いた由来が有るのですよね、先生!」


「もしかして、山頂に鬼が住んで居たから、この名前が付いたんですか? あたし、そんな鬼が居た様な山なら怖くて登れそうにないわ」


「もし本当に、鬼が住んで居たから付いた名前なら、怖そうな山と言う感じがして登るのを遠慮したく成りますの」


 先生から、今週末に登りに行く山の名前がメンバー達に告げられた。その山は゛鬼゛の文字が入る[鬼ヶ岳 ]と言う山であった。その、山の名前としては奇抜過ぎる山名に驚き慌てふためきながら、先生に問い掛けるメンバー達。


「そうだな、鬼の名前が入っているからには何か訳が有ると言う事だよ。まあ、この理由を今ここで教えても良いのだが、それは登ってみてのお楽しみと言う事にさせてくれないかな。勿論、鬼が山に住んで居たからと言う事ではないから、安心してくれたまえ」


「そうなんですか、鬼が居たから付いた名前ではないんですね。とりあえずは、一安心しましたよ。それなら登っても良いかな~」


「鬼が山頂に居たから名前が付いた訳ではないんですのね。ああ~良かった! もし、本当に鬼が居たりしたら如何しようかと思いましたわ」


 鬼が付く山名を聞いた事でビビりまくって居た華菜と穂乃花だったが、鬼が山に居たから付いた山名では無い事を先生から聞かされて、ホッと肩をなでおろす。


「杉咲さんと如月さんは、鬼が居る事を信じていたのかい? 鬼は想像上の怪物だから現実の世界には存在してる訳ではないからね。だから、そんなにビクビクしない様にしなさい」

 すると、先生に鬼の事で諭されている2人を見ていた隼人と友香里が話し出した。


「先生! 鬼が居たから山名が付けられた訳では無い事は分かりました。そうすると、先ほど先生は【登ってみてのお楽しみ】と言っていた事に山名由来のヒントが隠されているんですか?」


「そうそう、山頂に行けば鬼の名前が付けられた意味が分かるって言う事ですよね。勿体ぶっていないで、山頂には何が有るのか教えてくれませんか?」


「んん~そうだなあ、ここで教えても良いかなとも思うのだが、それでは面白くはないだろう。ここは、期待に胸を膨らませて山頂を目指して行った方が良いと思うんだ。だから、当日のお楽しみと言う事にさせてくれたまえ!」


「もう! 先生ったら意地悪なんだから。良いわよ、その通りにして上げますよ。一体、どんな山頂なのか楽しみにして居る様にするわ」


「先生の物言いからすると、山頂には何か鬼に関する物が有ると言う事ですね。まあ先生の言う通り、当日のお楽しみと言う事にしておきましょう、皆さん!」


「そうね、当日のお楽しみと言う事に、あたしも賛成するわね」

「わたくしも賛成しますの。当日の登山が楽しみに成って来ましたわ」


 先生が勿体ぶって山名の由来を言おうとしない事に不満を持ちながらも、メンバー達は当日のお楽しみと考えて行こうとするのだった。


「うん、分かれば宜しい! 当日の登山で謎が解明されるから、楽しみにしていなさい。それでは話しは代わりますが、次の予定を伝えますから再度、プリントを見てください。8月に移りますと、行事が盛りだくさんに成ります。

 8月7日と8日に1泊2日で海での親睦会。8月21日に中級レベル6の山行き行事。そして最後の週の27日~29日の2泊3日で夏合宿の鳳凰三山の山行き行事と成ります。とにか8月は、我が山楽部にとって凄く内容の濃い行事が多いので、楽しく頑張って部活動を行って行きましょう!」


 先生から、引き続き8月の山楽部の行動予定が伝えられた。月末の夏合宿の鳳凰三山以外にも2回の山行き行事と、何故か1泊2日で海での親睦会が有る様で、盛り沢山の活動内容であった。


「先生! 8月は活動予定が多くて、盛り沢山な内容ですね。だけど、1つ気に成る事が有ります。8月7日と8日に海での親睦会と有りますが、僕達は山を楽しむ部活なのに、何で山とは関係の無い海での泊まり親睦会が有るんですか?」


「そうですよ、私もその点が気に成りました。山登りに行く為の行事なら分かるんですけど何故、海でのお泊まり会が有るんですか?」

 8月の行事予定に山とは関係の無い゛海でのお泊まり親睦会゛が有る事に疑問を投げ掛ける隼人と友香里。


「いや〜やはり、その点が気に成るんだね。まあ単刀直入に言うと、書いてある通りの、海でのお泊まり親睦会と言う事だよ。たまには山から離れて、海水浴をしたりバーベキューをしたりして、山楽部内の親睦を深めて楽しくバカンスを過ごしたらどうかと思って考えたんだよ。

 未だ何処に宿泊するか決めていないんだが、さしずめ伊豆方面の海岸沿いに有る民宿か、清流学園が提携している保養所にしようと思っています」


「そう言う事ですか。まあ、先生の言う通り、たまには山から離れてみるのも良いですね。皆さんで親睦を深めると言う意味では面白そうだから、企画したらどうですか」


「んん~先生の言う通り、たまには山から離れてみるのも良さそうね。だけど、未だ宿泊する場所も決まっていないのに、日程だけは先に決めていると言う事なんですね。単に親睦会を企画しようと考えたと言う事ですが、焦って企画を考え過ぎじゃないですか、先生!」


「いや~参ったな。沢井さんの言う通り、親睦会を焦って決めようとしてた事は事実なんだけどね。だから、開催がもう半月後に迫っていると言うのに、未だ宿泊場所の確保が出来て無いんだ。何とか今週中には泊まる場所を決めておかなければと考えてるんだよ」


 この3人の、話のやり取りを静観して聞いて居た華菜と穂乃花であったが、余りにも無計画ぶりをさらけ出して居る山岸先生に対して、呆れた顔を見せながら口を開いた。


「もう~先生ったら! 友香里の言う通り、焦って企画を考え過ぎですよ。泊りでの部活の親睦会を計画するは良いけど、ちゃんと宿泊する場所が決まってから部員達に発表する様にして欲しいわ」


「わたくしも、先生の無計画ぶりには驚きましたの。杉咲さんの言う通り、泊りでの親睦会を開催するなら宿泊場所の確保をしてから伝えて欲しかったですわ。

 ……それで、泊まる宿の確保の見通しは立っているのですか? 流石に夏休みの時期では込んでいるでしょうから、こんなに直前では予約を取るのが難しいのではないですか?」


 華菜と穂乃花から睨む様にして、自分の無計画ぶりを指摘された先生は、図星だと言わんばかりに冷や汗をかきながら、だんまりを決め込んでしまう。そして暫くの間、沈黙の時間が流れていたが、ようやく先生は話し出した。


「あ~そのう、あれだな、君達に言われた通り確かに私は無計画にも程が有るよな。だがな良く言うだろう、カッコから先に入るとも言うじゃないか。だから、その言葉通りの、まづは思い付いたら行動に移そうと思ってな。

 先に企画を発表して、後で宿の確保に奔走すれば良いと考えた訳なんだよ。今、宿を探して居るところなんだが、なかなか見つからなくてね。今現状は難儀しているんだよ」


「先生ったら、無計画ぶりを認めてしまうなんて困ったものね。あたしも、親睦会のを開催するのは良いと思うのだけど、僅か2週間後に控えている日程にも関わらづ、宿泊場所も決まっていないなんて。開催するんだったら一刻も早く泊まる場所の確保をしましょうよ、先生!」


「わたくしも、お泊り親睦会を開催するのは賛成ですが、何より泊まる場所の確保が出来て無いのが気に成りますね。先生の意気込みは分かりますが、そこのところをしっかりと決めてから皆さんに発表したら良かったと思いますの。何とか近日中に、宿の確保が出来ると良いのですが」


「いや~すまないな、心配を掛けてしまって。君達の言う通り、しっかりと宿の確保が出来てから知らせるべきだったよ。だが、乗り出した船だ。公表してしまったからには、何とか宿を押さえたいと思うんだ。だから申し訳ないのだが、君達の協力をお願いしたいんだよ。

 君達にインターネットの予約サイトの検索を手伝って貰うとか、もしくは君達の知っている人に宿泊施設を経営している人が居たら口を利いて貰うとか、お願いする事は出来ないだろうか?」


 華菜と穂乃花から親睦会を開催するのなら、宿の確保を急ぐ様にと声が掛けられた。その事を聞いた先生は何と! メンバー達に宿探しの協力を求めて来たのだ。大胆な要請に戸惑いの表情を見せるメンバー達。


「宿探しの手伝いをしてくれとは、それはまた大胆な要請をして来ますね。そう言う事は、顧問で在る先生が決めなきゃ成らないと思うのですが」


「そうですよ隼人の言う通り、先生が決める事だと思うわ。だけど、親睦お泊り会を開催するには、急いで泊まる場所を決めなきゃ成らないわね。こうなったら皆んなで手分けして、あらゆる予約サイトを探してみましょうか」


「そうね、あたしも先生が決めて行く事だと思うのだけど、今回は緊急を要する事だから、皆んなで手分けして探してましょうか。それか、誰か知り合いの人に宿泊施設を経営してる人が居たりすると良いのだけど。残念ながら、あたしの方は知ってる人は居ないわ」


「華菜の言う様に、知り合いの人に宿泊施設を経営してる知り合いが居ると良いですよね。僕の両親の知り合いには、その様な人は居ないかなあ。……ん~と、沢井さんは如何ですか。ご両親に知り合いは居ませんか?」


「あ~残念だけど、その様な知り合いは居ないわよ。宿を経営してる知り合いが居る家は、なかなか無いんじゃないかしら。先生も、そんな感じって事ですよね」


「うん、そうなんだよ。私の知り合いにも、残念ながら宿泊施設を経営してる人は居ないんだよ。……そうすると、後は如月さんだけだな。如何だろう、君の知り合いには居たりしないだろうか?」


 宿泊施設を経営してる知り合いが居ないか話が上がったが、先生と隼人、友香里、華菜には知り合いが居ない様で有る。そうすると残る望みは穂乃花だけと成り、知り合いが居ないかと白羽の矢が立ったのだ。そう先生から問い質された穂乃花は暫くの間、考え込んで居たが口を開いて話し出した。


「ん~と、わたくしの知り合いにも、あいにく宿泊施設を経営してる知り合いは居ませんわ。だけど……お父様が所有している別荘なら有りますわ。もし、皆さんが良ければ、お父様に頼んで別荘を使わせて貰う事を聞いてみますが、如何でしょうか?」


「な、何々? 君のお父さんは別荘をお持ちに成っていると! それは嬉しい知らせではないか。それなら、宿泊施設を探すより好都合だよ。是非とも、そうさせてはくれないかな」


「えっ! 如月さんのお父さんは、別荘を持っているんですね。それは、ビックニュースですよ」

「流石は、如月さんのお父さんだけの事は有るわね。これはもう、別荘に泊まるしか無いんじゃないかしら」


「別荘って、あの保養を目的として所有している住宅の事でしょ。こ、これは、もしかしてバカンスに行くって事よね。如月さんの別荘に是非とも泊まりたいわ」


「そんなに喜んで貰えるなんて嬉しいですの。良いですわよ、皆さんのお役に立てればと思うので、そうさせて貰いますわ。今日に家に帰宅しましたら早速、お父様に聞いてみますの」


 先生からの問い掛けに、自分の父の持つ別荘を使う事を提案する穂乃花。流石は如月不動産の社長令嬢のだけの事は有る。その嬉しい提案に、驚いた表情を見せて興奮しながら歓迎の言葉を述べる先生とメンバー達。





「別荘をお借りする事を、お父さんに聞いてみてくれるのだね。有難う、如月! それで、その別荘は何処に有るのだね。伊豆半島なのかな? それとも神奈川の湘南なのかな? 教えて貰いたいのだが」


「はい、何処に別荘が有るのか教えても良いですわよ。お父様が所有する別荘は3つ有るのです。1つ目は長野県の軽井沢、2つ目は神奈川県の箱根、そして3つ目は~何処かな~と言うと、、」


〚何処かな~と言うと? 教えて、如月さん!〛

 3つ目の別荘が何処なのか勿体ぶる穂乃花に、痺れを切らして口を揃えて問い掛ける先生と隼人、友香里、華菜。


「その3つ目の別荘は、静岡県に有る~」

〚何々、静岡県? それは海、山、何方に有る別荘なの?〛


 3つ目の別荘が自分達の住む県、静岡県だと分かり、興奮しながら穂乃花の顔を見つめる山楽部の面々。


「その別荘は静岡県の駿河湾沖に有る、トライアングル諸島の最大の島[宮池島]に有りますのよ~!」

〚えー! 別荘はトライアングル諸島の宮池島に有るんだー!!〛


 穂乃花から飛び出した別荘の有る場所を聞いた山楽部の面々は声を大にして叫んだ。驚くのも無理も無い、それは静岡県の駿河湾から100kmの沖合に有るリゾートアイランドの宮池島であるのだ。


〔トライアングル諸島、宮池島。静岡県の駿河湾の100沖合に浮かぶリゾートアイランドである。トライアングル諸島は宮池島、来女島、伊景島の3島から形成され、その3島はそれぞれ橋が建設されて結ばれており、車で行き来が出来る様に成っている。

 上空から見ると、橋で結ばれた島同士が見事な正三角形の形状に成って見える事から゛トライアングル諸島゛と名前が付けられたのだ。最大の宮池島には標高520mの尖った円錐形の山、野元岳が有り島のシンボルとして聳え立っている。

 3島の海岸線は綺麗な白砂の砂浜が多く点在していて゛東洋一美しい砂浜゛と言われる海岸を持つ。近年、本州からの大勢の人達が休暇を過ごしに観光客が訪れている〕


 ※注:静岡県の駿河湾沖にはトライアングル諸島は実際には実在しません。勿論、地図上にも書かれていません。清流学園山楽部の物語の中で登場して来る架空の島々で有るのです。←作者談


「おいおい、あのリゾートアイランドの宮池島に別荘が有るなんて驚いたよ。如月のお父さんは、何て素敵な場所に別荘をお持ちなんだ。これはもう、宮池島の親睦会を開催出来る様に如月さんに願いを託すしかないな!」


「宮池島って近年、凄く人気が有って沢山の観光客が訪れている島でしょ。あたし一度、行ってみたかったのよね」


「流石は如月不動産のお嬢様、如月さんね。そんな、素敵な島にお父さんが別荘を持ってるなんて、私は驚いたわ。なんだか、もう宮地島に気持ちが飛んでしまっているわ~」


「東洋一の砂浜を持つと言われているトライアングル諸島に別荘を持ってるなんて、凄い事ですよね。まさか、僕達がそんな人気の観光地でお泊り親睦会を開催出来るなんて、本当に嬉しいですよ。

 ところで、その宮池島にはどの様な交通機関で行くのですか。飛行機? それとも高速船? 何方で行く様に成るんでしょうかね」


「おお~そうだな。星野さんの言う通り、島への交通手段を如何するかが気に成るよな。飛行機で行くにも、沼津から静岡空港に行かねば成らない事も考えると、かえって時間が掛ってしまうよな。

 他には、沼津港から出ている高速船に乗船するのがベターだろうな。でも、そうすると乗船代金も高いから、皆には交通費の負担を多く考えて貰わなければならないよ!」


 穂乃花の父親が所有する別荘がトライアングル諸島の宮池島と分かり、一斉に歓迎の言葉を述べる山楽部の面々。

 未だ宮池島の別荘に泊まれる事が決まった訳でも無いのに、交通手段は如何やって行くの? 各自の交通費の負担が多く成るよ! と言う話も出て、すっかり皆んなは旅行気分で気持ちが高ぶって居る。その様子を見て居た穂乃花は、クスクスと笑いながら話し出した。


「皆さん、もう宮池島の別荘に泊まって居る様な気分に成っていますね。期待に答えられる様に、お父様にお願いをしておきますわ。それと宮池島に移動する手段は、お父様が所有するクルーザー船に成りますの。その場合、わたくしの父母が一緒に行動を共にすると思いますから、皆さん宜しくお願いしますね」


「何ですと! 別荘に泊まらせて貰う上に、クルーザー船に乗せて行って貰えるのだね。それは嬉しい知らせだ。いや~至れり尽くせりで申し訳ない位だよ。山楽部の皆んながお世話に成るんだから如月さんのご両親の同行を勿論、歓迎しますよ」


「クルーザー船に乗せて行って貰えるなんて、それはビックニュースですね。そんな嬉しい事を聞かされたら、如月さんのご両親の同行は大歓迎ですよ」


「まさか、クルーザー船をお持ちに成っているなんて、流石は如月さんのご両親だわ。これは、来月の親睦お泊り会が楽しみに成って来たわ~」


「良かった~まさか別荘にも泊まれて、クルーザー船にも乗れる事に成るなんて、神様、仏様、如月様よね! あっ、未だ宮池島行きが決まった訳では無いのに浮かれ過ぎちゃったわ。まずは、ご両親に聞いて貰う事をお願いしなきゃね。改めて皆んなで、如月さんにお願いしましょうよ」


「おお~沢井さんの言う通りだな。未だ、宮池島に行けると決まった訳では無いんだ。皆んで、ご両親に口利きをして貰える様に、如月さんに心を込めてお願いするんだ。では如月さん、宮池島の別荘をお借りする件とクルーザー船への乗船の件、宜しくご両親に聞いてください!」


〚如月さん! ご両親に聞いてくださるのを、宜しくお願いします!!〛


 リゾートアイランドの宮池島に思いを馳せる4人は、もう穂乃花が女神様の様な存在状態なのだろう。頭を下げながら丁寧な言葉でお願いをする先生と隼人、友香里、華菜。


「皆さん、そんなに丁寧にお願いなさらないでください。山楽部の一員として、皆さんのお役に立てればと思ってますから、当然の事をしたまでです。きっと両親から良い返事を貰って来ますから、楽しみに待って居てくださいね。

 ……それはそうと大分、ミーティングの時間が長く成っていますわ。そろそろ終わりにして山道トレーニングに行きませんか、先生!」


「あっ! もう、こんな時間に成っているじゃないか。親睦お泊り会の事で話しが盛り上がり過ぎてしまったな。如月さんに指摘されなかったら未だ、のんびりと話して居たところだったよ。

 では諸君! 8月の部活の行事予定は以上の通りだ。夏休み期間中は行事が目白押しだから、健康管理に気を付けながら部活動を熟して行ってください。それでは、山道トレーニングに向かいましょう!」


「そうですね、親睦お泊り会の事で話しが弾み過ぎてしまいましたね。気分を切り替えて山道トレーニングに出発しましょう、皆さん!」


「うん、山道トレーニング、今日も頑張らなきゃね! でも、今日は親睦お泊り会の事で盛り上がったわね。別荘に泊まれる事を祈っているわ」


「そうそう、やっぱり別荘に泊まりたいわね。如月さんからの吉報がもたらされるのを、心待ちにしているわね!」


「はい、分かりましたわ。必ずや、皆さんに良い知らせを届けられる様に致しますので、お待ちに成っていてくださいね。それでは、山道トレーニングを頑張りましょう~!」


 穂乃花から指摘を受け、ようやくミーティングを終わりにして部室を出て山道トレーニングに向かって行く山楽部の面々。山岸先生が計画しようとしている゙親睦お泊り会゙の事で話が盛り上がってしまい、穂乃花の両親の別荘に泊まる事の計画が進行される事と成ったのだ。

 山に行く事よりも、リゾートアイランドに行く事に胸を躍らせて居る山楽部の面々。こんな調子で、8月末に控えている鳳凰三山の夏合宿に臨めるのか一抹の不安を抱いてしまう。だが、山以外の行事で気分転換して英気を養う事も大事なのは事実である。そんな意味を込めて先生は親睦お泊り会を考えたのではなかろうか。

 穂乃花から宮池島の別荘行きの吉報がもたらせるのを待ち望みながら、山道トレーニングに向かう山楽部の面々の足取りは軽い様だ。果たして親睦お泊り会が実現されるのか、今後の動向が楽しみなところである。





 そして時は流れて、7月31日土曜日。鬼ヶ岳の山行き行事の日がやって来た。いつも通りのピックアップ地である沼津駅と原駅でメンバー達を乗せた山岸先生のホップワゴンは、富士五湖の西湖畔にある登山口を目指していた。

 車は国道1号線を通り国道139号線に入ると北上して走行し、本栖湖を過ぎて青木ヶ原樹海を横切る道路に差し掛かっていた。


「さあ、今から青木ヶ原樹海を横切る道路を通るよ。ここを過ぎれば西湖畔にある登山口までは、あと15分も有れば到着するからね」


「ああ~もうそんなに近くまで車が来ていたんですか。先月の笠取山の時と比べたら、あっと言う間に登山口に着いてしまいますね。何だか車に乗り足りないくらいですよ」


「でも、車に乗っている時間が短い方が良いんじゃないかしら。私は早く着いて、鬼ヶ岳を登り出したしたいわ」

「友香里は、やる気満々ですのね。山を登りたいと言う前向きな気持ちは大事だわ。わたくしも見習う様にして行くわね」


「友香里と穂乃花は、既にやる気満々で居るのね。あたしは、山に登りたい! と言うやる気の前に、この青木ヶ原樹海を横切っている今が、何だかとても怖い雰囲気がして背筋がゾクゾクっとするのよ」


「そうか、杉咲は登山に向かう気持ちが昂るよりも、この青木ヶ原樹海が気に成って居るんだね。ここの原生林は広大な広さで、中に入るとコンパスも効かなくて方向が分からなくなり、出られなくなってしまうそうだ。

 その神秘な森の中に入って亡くなってしまう人が居ると言う都市伝説が有るからね。もしかして、その霊が漂っているからゾクゾクするんじゃないかな~?」


 青木ヶ原樹海を車が横切っている時、一人背筋がゾクゾクとすると言う華菜に先生は、樹海で亡くなっている人達の霊がイタズラをしてるのでは? と、華菜を脅かす様な口調で呟く。その話を聞いた臆病な華菜は、血相を変えて席に座りながら蹲ってしまう。すると、その時!


「ギャアアアアー! 何々、止めて止めて、あたしの背筋を何かが触ってるわーー!!」


 と、いきなり大声を上げて華菜が叫んだ。その叫び声を聞いた先生は、驚いてハンドルを握りながら後ろの席を見てしまった為、車は左側に大きくよろけてしまう。


「ああー! 先生!! 前を前を、見ながら運転してください。ぶつかっちゃうよ~」

 助手席の隼人に、前を見て運転する様に! と大きな声で注意を促されて、前を向きハンドルを握り締めて車を立て直して行く先生。


「おおーとっととと!! 危うく、左の路肩に突っ込む所だったよ。杉咲の叫び声で、驚いてしまったぞ。大丈夫かね?」


「ああ~大きな声を出してすいません。さっき、背筋を何かが触って居た感触が有ったものですから……うえーー!! 何々? また、あたしの背筋を何かが触ったわーーー!!!」


 先生に諭された華菜だったが、またも唸り声を上げて叫んでしまう。その声に驚く先生と隼人だったが、何故か後ろの席に座る友香里と穂乃花は涼しい顔をして居る。それは何故だろう? と思われるのだが、その理由が明らかに成る。


『ほらほらほら~私の指が悪さをしてゾクゾクとするでしょ。もっと、寒気がする様に触るか触らないかの感じで、そ~と指先で触って上げるわよ~』


 そう、華菜の背筋をゾクゾクっとさせている原因は、友香里の指先が背筋を微妙に触っているからだった。小声で囁きながら、ニヤケタ顔で華菜にイタズラをする姿は何とも言えない光景である。


(友香里ったら、凄く自然な感じで華菜にイタズラをしてるわ。本当に、どうゆう行動に出るか予測が出来ない人ね。でも流石に華菜も、友香里の仕業だと分かって来るハズだわ。そうなったら、また2人のケンカが始まって胸ぐらの掴み合いが始まるのかしら?)


 隣りに居た穂乃花は友香里のイタズラを横目で見ていて、そろそろ華菜が気づいて怒り出してケンカが始まるのではないかとヒヤヒヤして居た。そして、とうとう華菜が友香里の方を見て声を上げた。


「ちょっと、何をやってるのよ友香里! 背筋がゾクゾクしてたのは、貴女の仕業だったのね。まったくこの人は、何をやらかすか分かったもんじゃないわ。いいがげんにしないと、怒るわよ!」


 友香里の仕業だと感ずいた華菜は憤激して、すかさず胸ぐらを掴むのだった。


(不味いは〜ついに華菜が気づいて、胸ぐらを掴んで怒り出してしまったわ。この前の様に、2人で掴み合いが始まって、女の戦いが始まるんじゃないかしら。どうしよう、車の中でケンカが始まったら、わたくしにも何らかの被害が来るんじゃないかしら?)


 以前、目撃した友香里と華菜の女同士のケンカが回想されてしまい、車の中でケンカが始まり出してしまうのでは? と戸惑う穂乃花。その心配を他所に友香里は涼しい顔を見せながら、胸ぐらを掴む華菜の手を振り払うと口を開いた。


「もう〜興奮しないでよ、華菜! まったくもう、気が短いんだから。見た感じは威勢が良さそうなのに霊がらみの事に成ると、からきし弱いんだから。その方面で免疫が付いて欲しいから、貴女を鍛えて上げようとしてやってた事なのよ~」


「しょうがないの! あたしは昔から霊がらみの事は苦手なのよ。だからって、ビビらす様な事はしない様にしてよね。今度、脅かす様な事をしたら、ただじゃおかないからね!」


「分かった、分かったわよ。なるべく華菜の事を驚かさない様にするから、落ち着いてね。……ほら、窓の外を見てみなさい。樹海を通り過ぎて西湖の入り口看板が見える所まで、車は移動してるわ。良かったわね、霊感ゾーンをいつの間にか通り抜けているから、これで一安心ね」


「分かれば宜しい。今後は、あたしを驚かさない様にしてね。それはそうと友香里の言う通り、車は樹海を通り過ぎて西湖に向かう道路に入ろうとしてるわ。いつの間にか、登山口の直ぐ近くまで来ていたのね。もうじき西湖が見えて来るんじゃないのかな?」


(ふう~先生と隼人が居る車の中だから2人共、自重してくれたのかしら。友香里が穏やかな口調だったから、華菜が怒り出さなくて済んで良かったわ。わたくしの方が一安心しましたの)


 一触即発の雰囲気に成り、女同士の喧嘩が勃発か? と思われたのだが、友香里の落ち着いた物言いが功を奏したのか華菜もそれ以上興奮する事が無く、事無きを得る。その落ち着いた様子を見た穂乃花は、ホッと一息ついて肩を撫で下ろすのだった。


「君達、沢井と杉咲の話のやり取りを聞いて居たら、ケンカが始まってしまう様な感じがしてハラハラしてしまったぞ。今後の道中も、二人仲良く行動して行く様にな。

 それでは、次の信号を左に曲がって車は西湖に向かう道路に入って行く。あと5分も走行すれば、西湖が見えて来て登山口駐車場に到着するからね」


「何はともあれ、車の中でケンカが始まらなくて良かったです。部員同士、仲良くして行きましょう。……あっ、ここの信号を左に曲がるのですね。皆さん、もう登山口は目と鼻の先ですよ!」


 先生と隼人も、友香里と華菜がケンカをし出すのではないかとドキドキの様だったが、大事には至らずホッとした様である。そして車は、国道から西湖に向かう県道へと入り登山口を目指して走って行く。

 すると、5分ほど走行して行くと道路沿いに民家が見え始めて、眼前に水面が煌めく西湖が見えて来た。その西湖の西側の湖畔沿いに有る登山口の駐車場へと車は到着をしたのだった。


「さあ皆んな、駐車場に着いたよ。車を降りて速やかに登山装備を装着して出発準備を整えてくれたまえ!」


 先生から号令が掛かり車を降りたメンバー達は、登山装備をトランクから取り出すと素早く装着して行き、準備を完了させて先生の前へと整列する。





「隊長! 星野隼人以下、3名の女性陣の登山装備の装着が完了して、出発準備が整いました事を報告します」


 何故か軍隊式の口調で敬礼をしながら報告をする隼人。その報告を聞いた先生は、整列しているメンバー達を誇らしげに見つめた後、口を開いた。


「はい皆さん、速やかに、そして確実に登山装備を装着しましたね。素早い行動が出来ていて、皆さん優秀ですよ。山楽部を取り仕切る顧問として、君達を誇りに思います。では、これより鬼ヶ岳の登山を始めましょう。先ずは、いつも通り登山計画書を出してください」


 山楽部の隊長、山岸先生の命により登山計画書を取り出して見入って行くメンバー達。


「はい、では登山計画書を見ながら、今日の登山行程を確認して行きましょう。まず魚眠荘前の登山口を出発後、林道を北に進み東入川堰堤広場を目指します。そこから登山道に入り、ブナの原生林が生い茂る中を通り、雪頭ヶ岳を目指します。

 その後、北側に有る鬼ヶ岳へと移動して山頂での展望を楽しんだ後、昼食を取ります。帰路は、鍵掛峠へと向かう稜線を歩きます。そして峠の分岐点から登山道を降りて行き、いやしの里と言う施設へと下山します。そこからは車道を歩いて、魚眠荘前の登山口へと戻って来る周回コースです。

 コースタイムは6.5H、中級レベル5の登山と成り、コースタイムも長めで登山道も岩場を歩くゾーンが多く有りレベルはそれなりに高いので、皆さん心して登山に臨んでください!」


 先生から、メンバー達に今日の登山行程の説明が成された。今日の鬼ヶ岳登山は、コースタイムも長めで岩場の登山道を歩く、それなりの高い難易度の様である。その事を聞いたメンバー達は一様に緊張感を漲らせて居る。すると部長の隼人が、手を挙げて先生に質問を投げかける。


「隊長! 質問が有ります。今日の登山コースでは岩場を歩くゾーンが多いとの事ですが、先月の笠取山登山の時に経験した岩場の登山道よりも、距離も長く難度も高いと言う認識で宜しいのでしょうか?」


「そうだな星野が口にした通り、笠取山の登山の時より岩場の有る箇所と距離も長く難度も上だ。梯子の設置個所やロープの箇所も多々あります。それと、鬼が岳~鍵掛峠間の稜線では見晴らしの良い断崖絶壁の岩場も有ったりして、スリル満点の稜線歩きを楽しめるんだよ」


「えっ! 断崖絶壁のスリル満点の岩場が有るんですか? それはまた興味深いですね。僕は今から、その岩場のゾーンを通るのが楽しみに成って来ましたよ」


「ちょっと、隼人! 先月の笠取山の登山では、山頂付近の稜線の岩場を歩く時はビビりまくって無かった? なのに今回の鬼ヶ岳登山は、怖そうな岩場を歩くのが楽しみな様じゃない。如何言う心境の変化なのよ~」


 先生から、岩場の断崖絶壁のゾーンを歩く事が伝えられた。その事を聞いた隼人は、前回の笠取山の岩場歩きの時に見せた様な、恐れおののくヘタレの隼人とは違い、岩場の稜線歩き大歓迎! の浮かれた笑顔を見せて居る。その様子を見た華菜は、隼人の心境の変化に戸惑って居るのだった。


「いや~前回の笠取山では岩場の稜線歩きを怖がってましたけど、今後に臨むレベルの高い山々では難度の高い岩場が多く有りそうじゃないですか。だから僕は、そんな事じゃダメだと考えたんです。

 むしろ、難度の高い岩場に挑戦して克服して行き、自分のスキルを上げて行かなければと。恐れる事無く、岩場を歩く事を楽しんで行こうと決めたんですよ!」


「偉い! 頼もしい言葉を言ってくれるじゃないかね、星野。そう、難度の高い岩場歩きは、気持ちが臆病に成ってしまっていては克服は出来ないんだ。その大事な部分に気づいてくれて先生は嬉しいよ。この調子で、これから臨む鬼ヶ岳の岩場歩きに挑戦して行って欲しいと思う!」


 隼人の口から飛び出した、臆する事無く難度の高い岩場に挑戦して行く宣言に、先生はこれから始まる鬼ヶ岳登山に向けて確かな手ごたえを感じ取った様だ。


「まさか隼人の口から、登山に対する強気で頼もしい意気込みが聞けると思わなかったわ。でも、部長の隼人が戦闘意欲満々の姿勢を見せてくれれば、部員達の士気も上がるって事よね。だから、部員一丸となって今日の鬼ヶ岳にも臨み、今後の難易度の高い山々にも挑戦して行きましょうね」


「わたくしも、隼人の前向きな姿勢を見て居たら、気持ちと身体にヤル気がみなぎって来ましたの。今日の鬼ヶ岳登山、急な登りや崖斜面の岩場が有っても臆する事なく乗り切って見せますわ」


「やはり部長で有る隼人が、率先してヤル気満々の姿勢を見せてくれれば、私達部員も闘志に火が点いて、何度の高い山々にも挑戦して行けるって事よね。それじゃあ皆さん、そろそろ登山口を出発して鬼ヶ岳に向けて出発しましょう!」


「おお〜やはり星野の前向きな姿勢が、女子達の気持ちにヤル気のスイッチを入れてしまった様だな。この戦闘意欲が漲る皆んななら、今日の鬼ヶ岳登山にも難無く挑戦して、やり遂げる事が出来るだろう。

 では、これより鬼ヶ岳に向けて出発をします。出発の音頭を取るのは勿論、ヤル気漲る姿勢を示して山楽部の士気を高めてくれた、星野にお願いするとしよう。では星野部長、頼んだぞ!」


 隼人の前向きでヤル気の有る姿勢が女子達にも波及して、山楽部全体の士気が高まった事に先生は嬉しく思って居るのだった。そして、その士気が高まった勢いで鬼ヶ岳を目指すべく出発の音頭を隼人に促した。


「はい、指名を受けて光栄です。では、久びさに僕が出発の音頭を取らさせて貰います。皆様、宜しいでしょうか?」

「もしかして隼人お得意の、出発進行〜が聞けるのかしら? 久びさに皆んなの前で見せてくださいな!」


 出発の音頭を取る隼人に対して、華菜はニヤけた顔を見せながら十八番の、出発進行~! を催促する素振りを見せる。その催促を受けた隼人はコクリと頷いて一歩前に出ると、鬼ヶ岳の有る北方向に顔を向けて口を開いた。


「では皆さん、今日の登山の目的地である鬼ヶ岳に向けて~出発進行します~!! 次の目的地は~東入川堰堤前、東入川堰堤前、まずはそこまで頑張って歩きましょう~」


〚鬼ヶ岳に向けて~出発進行~~おおーーう!!〛

 電車オタク隼人の、出発進行~! の合図と共に大きな掛け声を上げて登山口を出発して行く山楽部の面々。


「やはり出発する時は、出発進行~! と掛け声を上げると、元気良く出発が出来るよな。星野は、また最後尾を歩くのを頼んだぞ。では、鬼ヶ岳を目指して登って行こうじゃないか、諸君!」


 先生を先頭に歩き始め、後に華菜が付き、その後ろには穂乃花、友香里と続き、最後尾を隼人が歩く。いよいよ始まった鬼ヶ岳登山。一体、この山に゛鬼゙と名前が付けられたのは何故なのか、岩場の稜線歩きはどんな難所が有るのか興味が注がれる。

 そして、山頂ではどんな展望が眺められるのか楽しみなところである。そんな期待と不安が入り混じりながら、力強く歩き出した山楽部御一行の動向を見守って行きましょう~!!

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