清流学園山楽部 目指せ!南アルプス鳳凰三山
天童晴太
第31話 笠取山登山、「笠取小屋の朝は騒がしい!」編
朝5時、小鳥の鳴き声が響き渡り、段々と辺りが明るく成り太陽が顔を出して笠取山に朝日が差して来た。夜が明けて1日が始まるのである。笠取小屋の周辺も明るく成り、テント場では起床して朝食を済ませる者、中には身支度を済ませて日の出と同時に早々とテント場を出発する者も居るのだ。
そう、日の出と共に行動を起こして、次なる目的地に向けて歩き始める登山者は多く居るのである。その中に有りながら、山楽部の起床時間の6時と言うのは遅い方なのである。その山楽部の中で1番早く起床した人物はと言うと、やはり登山家の山岸先生であった。
先生は朝5時の日の出と一緒に目が覚めて、まだヒンヤリとした空気が漂う中、テーブルベンチに座って1人モーニングコーヒーを飲んで居たのだ。
「ふあ〜!いつもながら山の朝は本当に清々しいな〜この澄んだ空気の中で朝日を浴びながらのモーニングコーヒーは最高に美味いよな〜!」
先生は山の澄んだ空気を、大あくびをしながら気持ち良さそうに吸って、気分爽快に成りながらコーヒーを味わって居る。実際、澄んだ空気の標高の高い山で飲むコーヒーは、身体も暖められて、平地で飲むコーヒーよりも数段旨く感じながら飲む事が出来るのだ。
そのコーヒーを飲みながら寛いで居る先生の元へ近寄って来る人物が。そう、昨日から山楽部と一緒に行動を共にしてい東郷春海であった。
「先生〜おっはようございます〜! やはり先生は、集合時間より早く起きて居ましたね。わたしも明るく成ったら目が覚めてしまいました。これも、登山好きの宿命なんでしょうかね。泊まり登山の時は、特に早く起きてしまうんですよ〜」
「あ〜おはようございます、春海さん。やはり、貴女も早く起きましたね。私も同じで泊まり登山の時は、辺りが明るくなると自動的に起きてしまうんですよ。泊まりの縦走登山の時だと今頃は、もう歩いて居る所でしょう。それに比べたら、今日は起きるのが遅い方ですね。山の朝は早いと言う事ですよ。
あっ、春海さんもコーヒーをいかがですか?ドリップ式のコーヒーなので香りも抜群で、凄く身体も暖まりますよ!」
「うわ〜良い匂いが漂って来るわ。ドリップ式のコーヒーを持って来て有ったんですね。是非とも頂きます〜!」
メンバー達よりも一足早く起きた先生と春海は、清々しい山の空気を吸いながら挨拶を交わす。そして、コーヒータイムのお誘いを受けた春海は、その良い匂いを漂わせて居るコーヒーを飲ませて貰う為、ベンチへと座るのだった。
先生は、もう一杯ドリップすると、出来上がったコーヒー入りカップを春海の前に差し出して行く。
「ありがとうございます、先生! では、コーヒーを頂きますね。……あ〜何て良い香りのするコーヒーなのかしら。本当に山の上で飲むコーヒーは、平地で飲みより格段に美味しいわ〜」
「そうですな〜山で飲むコーヒーは格別の旨さが有りますね。きっと、山の大自然の澄んだ空気からパワーを貰って、良い方に味覚が変化するんじゃないんですか。んん〜それにしても旨いコーヒーだな」
「大自然から貰ったパワーが、味覚を変化させてくれるなんて、上手い事を言うわね先生! そんな美味しいコーヒーを味わえるなんて、登山を行って来た甲斐が有ると言うものね〜!」
大自然の山の中で飲むコーヒーは、味覚も変化させてくれるのだろうか、その美味しさに舌ずつみを打ちながら、コーヒーを飲み干して行く2人。すると、コーヒーを飲み終えた春海が徐ろに話し出した。
「はあ〜本当に美味しいコーヒーを有難うございます。ご馳走様でした! ……ところで、先生に聞きたい事が有るんだけど、これから夏の山シーズンが開幕するじゃない。
山楽部としては夏の山シーズンに向けて、泊まりでアルプスの山に登るとか、避暑地の高原に有る山に行くとか、何か大きな山イベントを計画しているのかしら?」
「春海さんは、夏山シーズンに行われる山楽部の山イベントが何を計画しているのか、気に成るのですな。良いですよ、お答え致しましょう。8月に夏合宿を開催します。場所は南アルプスの鳳凰三山に行くんですよ」
「へえ〜鳳凰三山に登るんですね。わたしは一度、行った経験が有るんですけど、その時はあいにくの雨で地蔵岳のオベリスクを見る事が出来なかったし、登る事も出来なかったんです。
あの巨石柱にお目にかかれなくて、本当に悔しい思いをしましたよ。まあ、天気の事だけは神のみぞ知ると言う事だから仕方がないんだけど、、」
「そうでしたか、春海さんは一度、鳳凰三山に行っていたのですな。天気はその時の情勢で変わりますから、晴れの時に登れるとは限りませんからね。そう言う時は、こう思う様にしたら如何でしょうか。曇りや雨で周りの展望や山容が見えないのも、また山の顔の1つだと。
雲に覆われた山も見方を変えれば、普段は見る事が出来なかった山の景色なんだと。そして次に来た時は、晴れの姿の山を見られる事が出来るだろう! と、言う様に考えるのですよ」
「まあ~先生ったら、良い事を言うじゃない! 確かにその通りかも知れないわね。雨や曇りの時は、普段に見られない景色を見る事が出来たと思えば、もう1つの山の顔を知れる事が出来たと言う事ですね。でも~やはり天気の良い時の山の姿も見たいわ。
そうすると鳳凰三山にリベンジ登山をして、山頂から臨む景色と、巨石柱のオベリスクにご対面してみたいわね。……そうだ! わたしからお願いが有るのよ。聞いてくださいますか、先生!」
春海は一度、鳳凰三山に登った事が有る様だが雨の為、惜しくも山頂からの景色や巨石柱オベリスクを見る事が出来ず、悔しい思いをしていた様で有る。そのリベンジ登山を果たす為に何か思いついた様で、両手をパンっ! と叩くとニッコリと微笑みながら先生に問い掛けるのだった。
「な、何でしょうか春海さん。お願いが有るとは? 私が、お力添えが出来る事であればお聞きしますが」
「有難う先生、そう言ってくれて! あの~実はですね、わたしは鳳凰三山にリベンジ登山をしようと考えて居た所なんです。山楽部は夏合宿で鳳凰三山に行くんですよね。だとしたら、わたしも一緒に鳳凰三山の夏合宿に参加させては貰えないでしょうか?」
「へえっ? 何ですと! 夏合宿の鳳凰三山に参加したいのですか。それはまた、驚きましたな。んん~夏合宿は学校の部活の行事の一貫ですから、他の大人の方が一緒に同行して良いものかどうか、悩みますな~」
春海から、夏合宿の鳳凰三山に参加をしたいと言う声が掛けられる。その事を聞いた先生は、部活の行事で計画している夏合宿に同行させて良い物かどうか、首を捻って考え込んで居るのだった。その様子を見守って居た春海は、なかなか口を開かない先生に痺れを切らした様で再び問い掛ける。
「もう~先生ったら、そんなに堅苦しく考えない様にして欲しいわ! 今だって一緒に山楽部と行動を共にしているじゃない。それじゃあ、こうしましょう。最初から皆さんと行動を共にしないで、今回の様に途中から皆さんと合流する様にすれば良いじゃない。
登山口で落ち合って、たまたま偶然に会ったかの如く合流したって感じにしましょうよ~」
「はあ~たまたま偶然に登山口で会ったと言う様にするのですか。何だかそれでは、やらせの様な事を行ってしまってる様な感じに成りますな。それなら登山口で落ち合う約束をハッキリと交わしておいて、そこから一緒に行動を共にすると良いでしょう。
部員達にも、その旨を伝えて了解を取っておいた方が良いですな。起きて来たら聞いてみましょう!」
「あ~有難うございます、先生! その様にしてくれると嬉しいです。部員さん達も、わたしを受け入れてくれるハズだわ。この後に起きて来たら早速、聞いてみてくださいね~」
先生から、夏合宿には登山口から合流して参加を認めよう! と言う言葉を聞いた春海は、満面の笑みを浮かべながら喜んで居るのであった。その、嬉しそうな春海の顔を目の当たりにした先生は、ニッコリと笑顔を見せながら口を開く。
「そんなに嬉しそうな顔をして貰えると嬉しく成りますよ。我が山楽部の山行き行事に同行したいと言う、春海さんの意気込みに答えなければですね。……時刻は5時50分に成りますな。部員達もそろそろ起きて来る時間ですな。それまで、もう一杯コーヒーを飲みながら寛いで居ましょう~」
「あっ、はい! もう一杯コーヒーを頂きます。部員さん達も、次期に起きて来ますね。それまでコーヒーを飲みながら、まったりと過ごしましょう、先生!」
先生から、もう一杯のコーヒーを貰った春海は、夏合宿の同行許可を貰えた嬉しさも有り、ベンチに座りながら上機嫌で飲んで居るのだった。そして暫しの間、温かいコーヒーを飲みながらホッコリとしている2人の、のんびりとした空間が出来上がっていたのであった。
すると、のんびりムードの先生と春海の所へ来る人物達が! そう、起床時間の6時に成り起きて来た隼人と友香里、華菜、穂乃花の姿が有ったのだ。
「皆さん、おはようございます! 昨日は良く眠れたかな? 今日も楽しい山の1日を過ごして行きましょう」
「あ〜おはようございます、山楽部の皆様! 今日も1日宜しくお願いしますね〜!」
メンバー達の姿に気付いた先生と春海は、コーヒーカップを持ちながら大きな声で挨拶をするのだった。
「隊長、春海さん、おはようございま〜す! 流石に昨日は疲れてたので、良く眠れましたよ。でも、ぐっすりと寝れたおかげで、今日の朝は清々しく起きる事が出来ました」
「わたくしも、ぐっすりと眠れたので疲れが取れていて、気持ち良く起きれましたわ。おはようございます! 今日も1日、宜しくお願いしますの〜」
「おはようございます! 山の朝は、流石にヒンヤリとして肌寒い位で、僕の肌は鳥肌が立っていますよ。先生達は、早く起きてコーヒーを飲んで居たんですね。それにしても、良い匂いが漂って来ますよ〜」
「おはようございま〜す。既に、コーヒーを飲んで寛いで居るなんて一体、先生達は何時に起きてたんですか? あ〜身体が温まりそうで、私も飲みたく成ってしまいますよ」
メンバー達も、爽やかな朝の挨拶を大きな声で返すのであった。どうやら、ぐっすりと眠れた様で、昨日の登山の疲れが癒えた様である。
「あら、やはりコーヒーの匂いが漂って居るようね。先生がドリップコーヒーを作ってくれたのよ。本当に山の中で、飲むコーヒーは格別に美味しいわ!」
「そうなんですか、隊長が持って来て居たコーヒーなんですね。こんなに良い匂いが漂っていると、僕達も飲みたく成ってしまいますよ〜」
「この良い匂いを嗅いでしまったら、必然的に飲みたく成ってしまうわよね。そうだ! 私達の分も作ってくれないかしら? 隊長~お願いします~!」
「流石はドリップコーヒーですよね。この美味しそうな匂いが堪らないわ。是非とも飲ませてください、隊長!」
「わたくしも、飲みたく成って来ましたの。煎れたてのコーヒーを飲んで身体をホッコリとさせたいですわ~」
美味しそうなコーヒーの匂いが気に成ったのか、自分達も飲みたく成ってしまった為、先生に懇願するメンバー達。その事を聞いた先生は、ニッコっと微笑むと話し出した。
「おお~そうか! この私が入れたコーヒーの匂いの良さに刺激を受けた様だね。良いだろう君達の分のコーヒーは、この後の朝食時に煎れて上げるよ。では、全員が起きて来た事だし、私は朝食の準備に入るとしょう。君達は、小屋に戻ってコップと食器類を持って来てくれたまえ!」
「コーヒーを煎れてくれるそうで有難うございます。この後は朝食の準備に入るのですね。僕達は、小屋に戻ってコップと食器類を持って来ます!」
「朝食時に飲むコーヒーを楽しみにしてますね、隊長! それじゃあ、皆んなで小屋に戻って準備をして来ましょう~」
「そうしましょう~この後の朝食とコーヒーが楽しみですの!」
「朝食は何が食べれるのかしら? この後が楽しみに成ってきたわ~」
コーヒーを煎れてくれるとの言葉を先生から貰ったメンバー達は、朝食に備える為、上機嫌な表情を見せながら小屋へと颯爽と戻って行くのであった。
「さてと、私はザックから食材をだして朝食を作り始めるとしようか!」
小屋に戻って行くメンバー達を見送った先生は早速、朝食作りを始めようとザックから食材を取り出すのだった。その様子を見て居た春海が先生に話し掛ける。
「先生! 食材の量からすると、全員の分の朝食を作るのですね。朝食は何を作られるのですか?」
「はい、朝食は自分が全員の分を作るのですよ。もっとも、簡単なメニューですがね。今日の朝食は[ウインナーポテトドック]と、お湯を注げば出来る[フリーズドライ卵スープ]なんです」
「そうなんですか、先生は朝から簡単なメニューとは言え、ちゃんと作るんですね。わたしなんて、いつも山の朝はお湯を注げば出来るフリーズドライ雑炊とスープ類の、超簡単メニューなんですよ。ん~と、わたしも何かお手伝いしますよ。ウインナーを焼きましょうか?」
「あっ、はい! 手伝って貰えると助かります。そうですな~ウインナーをフライパンで焼いて貰えると嬉しいです」
「分かりましたわ、ウインナーを焼く係を引き受けましたよ。バーナーとフライパンをお借りしますね」
「はい、ウインナーを焼くのを宜しくお願いします。私はマッシュポテトを作りますので」
どうやら先生は、全員の分の朝食を作ろうとして居る様である。作り始めた先生の姿を見た春海は、調理の手伝いをする事を進言してウインナーを焼く事にするのだった。すると、2人が調理作業に入って居る時、宿泊小屋の方からコップと食器を持ったメンバー達が駆け付けて来た。
「わあ〜2人で朝食の調理に入っているんですね。ウインナーとマッシュポテトとドックパンが有るって事はウインナードックを作るのかな? 私達も見て居るだけでは手持ち無沙汰なので、何か手伝わせてください!」
「そうですね、友香里の言う通り何か協力をしたいので、僕達にも何か手伝わせてください、隊長!」
「おお〜そうだな、君達にも何か朝食準備の手伝いをして貰おうか。それでは、ドックパンにマーガリンを塗る係、コップにドリップコーヒーを煎れる係、お湯を沸かす係、フリーズドライ卵スープを作る係、とに別れて手伝いを行ってくれたまえ!」
「分かりました隊長! 皆んなで分担して調理の手伝いに入りますね。では、僕はバーナーを持って来てお湯を沸かす係を行います」
「わたくしは、ドックパンにマーガリンを塗る係にしますわ〜」
「私は、フリーズドライ卵スープを作る係を行います!」
「あたしは、ドリップコーヒーを煎れる係にします。とにかく、お湯が無いと始まらないから、速やかにお湯を沸かしてね隼人!」
「そうですね、お湯が無ければコーヒーとスープは作れないから、早くバーナーをセッティングして沸かしますよ!」
調理の手伝いの分担が決まったメンバー達は、手分けして作業に入って行く。隼人は、持って居たバーナーをテーブルに置いてセッティングを終えると、鍋に水を入れて沸かして行く。
穂乃花はドックパンにナイフで切れ目を入れたてマーガリンを塗る作業を、友香里は食器にフリーズドライ卵スープを入れる作業を、華菜はコップにドリップコーヒーをセッティングする作業を行うのだった。
各々が作業を進めて行くのだが、友香里と華菜は商品の袋を破って食器とコップに入れるだけなのですぐ作業が終わってしまう。後はお湯が沸くのを待つばかりなのだ。そのお湯が早く沸かないかと、隼人のバーナーを凝視し出す友香里と華菜。
「あ~早くお湯が沸かないかしら? お湯が沸かないと、あたし達の出番が来ないのよね。んん~、、少しでも早くお湯を沸かす方法ってな何かないかしら!」
「そうよね、1秒でも早くお湯が沸く様にしたいわね。……そうだ! バーナーの火に息を拭き返れば、炎の勢いが増すんじゃないかしら~?」
「あっ! それは良い考えね。早速、行ってみましょう。名付けて、息を吹きかけて炎を強くさせる作戦! を実行に移すのよ。~~スウー、ふう~~!!!」
「私も吹きかけるわ! 炎よ強く成れー!! ~~~ススウーー、ふふう~~!!!」
何とビックリ! 友香里と華菜は、息を吹きかければ炎が強く成ると思い、バーナーの炎に向かって全力で息を吹きかけてしまう。この行動を目の当たりにした、隼人は唖然とした表情を見せながら、2人に向かって叫ぶのだった。
「ちょっと、お2 人さん! そんな事をしても炎が強く成る訳は無いですよ!! 息を吹きかけたら、逆に炎が消えてしまいますよ。そんな事は止めてください!!」
その様子を見て居た先生と春海も驚いた様で、友香里と華菜に注意を促す。
「こらこら! 星野の言う通り、息を吹きかければ炎が強く成る訳ではないぞ。逆に風の勢いで炎が消えてしまう事も有るから、その様な行為はしてはダメだよ!」
「そうよ、バーナーの炎に息を吹き掛けるなんて事をしてはダメよ! 炭の火力を強くする時は、空気を循環させて酸素を多く送る必要があるわ。だから、うちわを使って風を送ったりする事は有るわ。
だけど、今はガスを使ったバーナーの炎だから、安易に風を送っては炎が安定しなく成ってしまい返って逆効果になるわ!」
「あっ、そうなんですか、バーナーの炎に風を送ったからと言って、火力が強く成る訳ではないのですね。すいません、間違った事をしてしまって、、」
「そうか〜バーナーの炎が安定しなく成ってしまうから、返って逆効果なんだ。単純に風を送れば火力が強く成るものだと思っていた事は、間違いだったのね。無知ほど怖いものは無いわ。だとしたら、どうしたら強く成るのかしら?」
バーナーの炎に風を無闇に送っても炎が安定せず、最悪は炎が消えてしまう事も有る事を聞かされた友香里と華菜は、自分達の行って居た行為が間違っていた事に肩を落とすのだった。すると、2人のションボリとした姿を見た先生は、マッシュポテトを作りながら2人に話し掛けて来た。
「バーナーの炎を強くするには、ガス缶を温めれば良いんだよ。君達、ガス缶を両手の平で包み込む様にして暖めてごらん。人肌でガス缶を暖めるんだよ!」
「えっ、ガス缶を手で温めるんですか? それだけで火力が強く成るなんて、信じられないわ」
「私もイマイチ信じられないんだけど、本当かどうか、とにかく手でガス缶を温めて実行に移してみましょう!」
先生から、バーナーの炎を強くするには、ガス缶を手で暖める事だ! と聞いた友香里と華菜は半信半疑のまま、ガス缶を両手の平で包み込む様にして人肌で温めて行く。
すると、暖め出してからほんの1~2分位であろうか、バーナーの炎に勢いが増して火力が強く成って来るのがハッキリと目に取れて来たのだ。
「あら〜手で暖め出してから数分しか立っていないのに、本当に火力が強く成って来たわ。どうしよう、手の温もりだけで炎が強く成るなんて、あたしの手に何か魔力が有るんじゃないかしら! よ~し、こうなったら最大限の魔力を送ってあげるわよ~」
「隊長の言った通り人肌で温めただけで、炎の勢いが強く成って来てるわ。これって、私の手に何かパワーが有るから? もしかしたら私が超能力だから? なのかも知れないわ。もしかしたら念を送れば、もっともっと火力が増すんじゃないかしら~!」
「燃えろ燃えろ炎よ~燃えろー! あたしの火の属性の魔力を送ってあげるわ~~!!」
「ふお~!! 私のハンドパワーを注いであげるわ。炎よ強く成れ、強く成れーー!! ハンドパワーー!!!」
バーナーの炎が更に強く成ったのは、自分達に魔力と超能力が有ったからだと思い込み、ガス缶を手で押さえながら大きな声で念じてしまうのであった。その様子を見て居た、先生、春海、隼人、穂乃花は、冷ややかな目線を送って見つめるのだった。
(もう~友香里と華菜ったら如何いった行動に出るのか、まったく予測がつかない人達よね。自分に魔力や超能力が有ると思い込んでしまって、更に念を送る行動に出るなんて。いつもいつも突拍子の無い行動に出るのが凄いと思いますの~)
(友香里と華菜のコンビって、予想だにしない行動をする事が有るから、本当に驚かされる事が多いよな。幼馴染って言ってたから、妙に波長が合うんだろうな。それにしても、真剣に息を吹きかけてる表情が可笑しくて、僕は顔がニヤケテしまうよ~)
(この子達は、自分の魔力や超能力によって炎が強く成っていると思ってる様ね。でも、実際は山の上での気温の低さによりガス缶の温度が下がっしまい、燃焼力が弱く成っているのよ。
その火力を上げる為には、ガス缶を温める様にするとガスの燃焼力が上がる様に成るの。だから、この子達の特別な能力で火力が上がっている訳ではないわ)
(まったく、沢井と杉咲は何をやらかすかと思えば、ガスの炎に向かって息を吹き掛けるなんて考えられない行動に出るから驚かされるよ。ガス缶を人肌で温めれば火力が増す様に成るから、2人に特別な能力が有る訳では無く、誰にでも出来る事なんだ。
それにしても、余りにマジな顔をして行って居るから、これはこれで見て居て面白い感じがしてしまうんだよな。まあ、一生懸命頑張って居るから、お湯が沸くまでさせておく様にして上げよう!)
※登山でよく使われているOD缶(アウトドア缶)は、山の上や野外の寒い所で使用される事が多いガス缶です。ガスバーナーは気温が低くなると急激に火力が弱く成ってしまいます。これはガス缶の温度が下がってしまう為、ガスが気化する事が出来なく成ってしまうからなのです。
この現象をドロップダウン現象と言います。その現象を少しでも解消するには、ガス缶を温めて上げると良いのです。先生が指示したガス缶を手で温める事は効果的であり、燃焼力を上げるのには手っ取り早い方法なのです。
他の方法としては市販されているガス缶を覆うカバーが有り、そのカバーを購入して、あらかじめガス缶に被せておくのも対策法の一つでも有るのです。
「あ〜! 湯気が出て来たわよ。あたしの魔力で早くお湯が沸いたみたいね。ん〜あたしの力って凄いわね〜!」
「私のハンドパワーで火力が上がったから、こんなに早くお湯が沸いたのよ。さあ、隼人くん! 炎を止めてちょうだい!」
「あっ、はい! 炎を止めますよ。こうやってコックを閉めればガスの噴出が止まり、火が鎮火しますよ。覚えて居てくださいね」
隼人は、ガスバーナーの炎の消し方を2人に告げながらコックを閉めて行き、炎を鎮火させて行く。そして、友香里と華菜は直ぐ様、お湯の沸いた鍋を持つと、コップとお椀にお湯を注いで行き、コーヒーと卵スープを完成させたのであった。
「うわ〜流石はドリップコーヒーなだけ有るわね! 凄く美味しそうな匂いがするわ。さあ、煎れたてのコーヒーを召し上がれ!」
「さあ、私のハンドパワーで調理した卵スープが出来上がったわ。う〜ん、この漂って来る、卵の匂いが堪らないわ。出来たての熱々スープをご賞味くださいませ!」
魔力と超能力の火力パワーで? 沸かしたお湯を入れて、出来上がったコーヒーと卵スープを誇らしげに見せる友香里と華菜。もっとも、お湯を注げば誰にでも簡単に出来上がってしまう品なのだが、それでも自分が作ったと言う満足感が2人には有る様なのだ。
「君達コンビは本当に場を楽しませてくれるね。完成したコーヒーと卵スープが、どんな味がするのか楽しみだな。では、そのコーヒーと卵スープを頂く為にも、メインのウインナーポテトドックを完成させなければな!」
「では、焼きあがったウインナーを渡しますよ。はい、どうぞ!」
「わたくしも、ドックパンにバターを塗り終わっていますの。受け取ってください、隊長!」
「おお~有難う! では、ドックパンにウインナーとマッシュポテトを挟んで完成させるよ。諸君、もう少し待って居てくれたまえ!」
先生は、ドックパンを開くと手早くウインナーとマッシュポテトを入れて行き、12個にも及ぶウインナーポテトドックを完成させてお皿に乗せて行くのだった。
「はい、ウインナーポテトドックが完成したよ! それでは皆さん、これで朝食が出来上がりました。食事を始めたいと思いますので、ベンチの方に座ってください!」
先生から、朝食が完成したとの言葉を聞いたメンバー達と春海は、ベンチに着席して行く。
「はい、皆さん着席しましたね。では、今から朝食を取りたいと思います。今日の2日目も楽しい山の1日が過ごせる様に、まづは腹ごしらえと行きましょう。それでは、頂きます!」
〚今日も1日、宜しくお願いします! では、頂きま~す!!〛
「今日も一緒に楽しく過ごしましょうね! 頂きます!!」
頂きます! の声が響き渡り、一斉に朝食を開始する山楽部御一行と春海。一同は、出来上がったばかりのウインナーポテトドックを頬張り、時折、温かい卵スープやコーヒーを飲みながら食して行く。
朝の山の清々しい空気の中で食べる朝食は格別に旨いのだろう、一同は幸せな表情を見せながら黙々と食べて居るのだった。昨日の夕食パーティーの時とは違い、まったり、のんびりとした空気の流れる中での朝食の時間を満喫して居る様である。そして皆んなが朝食を食べ終えた時だった。
何処からか⦅キッ、キキー! キッ! キッ! キキーー!!⦆と、何やら動物の鳴き声が聞こえて来たのだ。この泣き声は何々? と首を傾げて不思議がる御一行と春海。
「ちょっと、この鳴き声は何なの? 猿の鳴き声の様な感じがするわ?」
「キキーって言う鳴き声だから、もしかしてお猿さんかしら?」
「いやいや、猿はこの様なかん高い鳴き声は出さないハズだよ!」
「えっ? 猿の鳴き声じゃないとすると一体、何の動物の鳴き声なのかしら?」
友香里と春海は、キキーと言う鳴き声からすると猿ではないかと口にするのだった。だが、この鳴き声は猿ではないと隼人から告げられて、一体どんな動物の鳴き声だろう? と考え込んでしまうメンバー達。と、その時! 春海が小屋の西側に有るテント場の方を指さしながら叫ぶのだった。
「あー! 皆んなテント場の方を見て!! 沢山の鹿が現れたわよ!!」
春海からの、鹿が現われた! との言葉を聞いた皆んなは、一斉にテント場の方に目を向ける。するとテント場には、小鹿も含めて10頭の鹿の群れが居たのであった。
「あ~本当だ! 凄い沢山の鹿さん達が居るわ。10頭位は居るんじゃないかしら~」
「小鹿も居るから、家族ずれの鹿さん達だと言う事ね。何だか、小鹿さんが凄く可愛いいわね!」
「あんなに野生のシカが集まって居る光景は、始めて見たわ。近寄って見てみたいですの!」
「これだけの野生の鹿が見れるなんて、滅多に無いチャンスだと思いますよ。こうなったら、近くに寄って見てみましょう!」
隼人から、鹿の近くに寄ってみよう! と声が掛かると、一斉に動き出して鹿の居るテント場の方へと移動して行くメンバー達と春海。そして、鹿の群れが居る所から10mほどの所で足を止めると、鹿さん達をジ~と見つめるのであった。
すると、知らない人間達が現われた為、鹿さん達もジ~と見つめ返すので、人間と鹿の睨めっこが始まるのであった。すると、その時! 管理小屋の方から皆んなの背後に近寄って来る人物が!
「あ~皆さん! それ以上、鹿に近寄ってはダメだよ。野生の鹿は警戒心が強いから、逃げてしまうからね!」
そう、近寄って来た人物は小屋の主人だったのだ。すると、もう一人近寄って来る人物が!
「来ましたね来ましたね、鹿の家族達が! すっかり笠取山の野生の鹿さん達は、ここの小屋に馴染んでいますね。これから鹿さん達に餌を上げるのですな、川辺さん!」
もう1人近づいて来た人物とは、誰なのかと思えば、先生だったのだ。先生は小屋の主人が鹿に餌を上げている事を知っている様で、気さくに話し掛けるのだった。
「ああ~山岸さん、その通りで餌を今から鹿にあげる所なんだよ。まあ、笠取山の鹿達の朝食時間が始まると言った所かな。わしの姿を見た途端、餌を貰いたさに何処からともなく現れて終結して来るんだよ~」
「ハハハハ! 姿を見ただけで鹿がよって来てしまうとは、もう川辺さんは鹿さん達にとって欠かせない存在に成っているんですよ」
「山岸さんは、わしが鹿に餌を上げているのを何度も見て来て居ますからな。貴方には、わしの行動がバレバレですな。さあ、鹿達に餌を上げるとしますか! よっコラショーっと!! さあ、鹿達よ餌の時間だぞ! 今日もいっぱい食べるんだぞー!!」
小屋の主人は鹿に餌を上げるのだと言い放つと、近くの木のたもとに置いてあった大きな袋を持ち上げる。そして袋に手を入れて中に有る餌を掴むと、鹿の居る方に向けて餌をばらまくのだった。
⦅キー、キキー! キキ、キッ! キキキ、キキー! キーキー、キッキキー!⦆
餌が沢山ばらまかれたのを見た鹿達は、鳴き声を上げながら餌の有る方に一斉に動き出して行き餌をムシャムシャと食べだすのであった。その様子を見たメンバー達と春海は、始めて見る野生の鹿達の食事姿に見入ってしまうのだった。
「はあ~野生の鹿達の食べる姿を、こんなに真近で見る事になるとは思いもよらなかったです!」
「小鹿や親鹿入り混じって、我先にと餌を奪い合って居るわよ~」
「餌を優先して小鹿に与えると言う訳では無いのですね。親鹿って子供思いでは無いんだ~」
「野生の鹿さん達は今を生きるのに必死なのですのね。子供に餌を与えるよりも、まづは自分が食べる事に徹してしまうのかしら~」
子供、大人関係なく、我先に餌にあり付こうと、鹿同士がせめぎ合いながら必死に食べる姿を目の当たりにしたメンバー達は、唖然とした表情で眺めて居るのだった。と、その時! 鹿達の後ろに何かが居るのを発見した様で、春海が指さしながら叫んだ!
「ちょっと皆んな、鹿達が居る後ろの方を見てみて! 何か小動物が居るわよ!」
春海から、鹿達の後ろに何か小動物が居る! との声を受けて、またまた一斉に目を向けるメンバー達。その目線の先には、頭と体は茶色で、白い胸毛を持つ4本足で歩く小動物が居たのだ。
「ちょっと~あの2頭の小動物って、キツネじゃないのかなあ?」
「そうね、確かにキツネだわ。思っていたよりは、可愛いい顔をしているじゃない~」
「凄くモフモフの毛並みをしているのですね。親子揃って、餌を貰いに来たのかしら~?」
「野生のキツネって、滅多にお目に掛かれないハズですよ。こんなに近くで見れるなんて、僕達はラッキーですよ!」
野生の鹿に続いて出現したキツネの親子の姿に、驚きの表情で見入ってしまうメンバー達と春海。すると、またまた小屋の主人と先生が口を開く!
「おお~久しぶりにキツネの親子が顔を見せてくれたよ。なかなか顔を出してくれないから、今日に会えた君達は幸運じゃったな! あの親子はコン太とコン吉と言うんだよ~」
「野生のキツネに名前を付けてしまうなんて、流石は川辺さんですな! コン太とコン吉、なかなかに毛並みが良くて美男子じゃないですか。これは、笠取小屋のアイドルに成りそうな感じがしますよ!」
「そうだろそうだろ、わしゃ他にもキツネを見て来たが、この小屋に通って来るコン太とコン吉は、人間で言う所のイケメン男子! と言った所だろうな。どれどれ、わしが出来るだけ近寄って、餌をくれてくるよ!」
現れたイケメンのキツネ達は如何やら、コン太とコン吉と言う名前を付けられている様である。そのキツネ達に食事をさせてやろうと餌を握り締めた小屋の主人は、そろりそろりと近寄って行く。どうやらキツネは警戒心が強い様で、そ~~と、近づかなければ駄目な様である。
だが、その時! 近くのテント場に居た他の2人の登山者が、野生のキツネを見たさに近寄って行くのだった。その近寄って来た人影に驚いたのか、後ろを振り向いたかと思うと、ピョーン、ピョーーン! と軽快な身のこなしで森の方に去って行ってしまうキツネ達。
自分達が近づいた事により逃げて雲隠れしてしまった事に、大きな声を上げて残念がる2人の登山者。
「あ~ちきしょう! もう少し近くで見たかったのに!!」
「何で、逃げてしまうんだよ~! 俺達がせっかく餌を上げようと思ったのにー!!」
この2人の登山者が大きな声を上げて悔しがった為、近くに居た鹿達は驚いたのか、餌を食べるのを止めて辺りをキョロキョロと見回した後に、
⦅キー!! キキーー!! キキキーー!!⦆と言う、鳴き声を発したかと思うと、
⦅ドドド、ドタドタ! ドドドドーー!! ドドドド、ドタドタドターー!!⦆
と、右往左往しながら逃げ惑う様にしてその場から立ち去り、森の中に鹿達は姿を隠してしまうのだった。
「おーい、そこの君達! ダメじゃないか急に近づいては! 野生動物は警戒心が強いから逃げ出してしまうんだよ。もう~ダメだよ~今日はこれで鹿やキツネは近寄ってくる事は無いだろう!」
「あ~! 俺達が近寄って大声を上げたばっかりに、キツネだけではなく、鹿まで逃がしてしまいました。すいませんでした!」
「私達が不用意な行動をしたばっかりに、野生動物達を逃がしてしまいました。申し訳なかったです!」
「もう、しょうがないな! 謝ってくれたから良しとするか。これで今日の餌やり時間は終了じゃな。餌袋を片付けるとするかな!」
登山者達の不用意な行動でキツネと鹿が立ち去ってしまった事により、餌やりの時間は終了する事を宣言した小屋の主人。不機嫌そうな顔を見せながら渋々、餌袋の片づけに入るのだった。その様子を見て居た一同は、残念な表情を見せながら話し出した。
「あ~あ、凄く可愛いいキツネだったから、もう少しの間、見て居たかったわ。残念無念だけど、気分を切り替えて行くしかないわ~」
「キツネをもっと見て居たかったけど、去って行ってしまった物は仕方がないわね。でも、笠取小屋の周辺が野生動物が多いのが良く分かりましたよ」
「わたくし、鹿さんやキツネの野生動物を真近で見る事が出来て良かったですの。貴重な体験が出来て良かったです」
「こんなに野生の動物達を見れる山小屋は、わたしの知る限りでは他に無いと思うわ。なんだか野生の動物園に来て居る感覚に成って楽しかったわよ!」
突然、去って行ってしまった鹿とキツネ達に、残念な思いを口にする女子達。だが、野生動物達との触れ合いの時間は凄く貴重な体験が出来たのであろう、その顔には満足げな表情が満ち溢れて居るのだった。すると先生と隼人から、女子達に言葉が掛けられる。
「これはまた残念な事に成ったね。野生動物達との触れ合いタイムは強制終了だと言う事だな。しょうがない、気分をここで切り替えて朝食の後片付けに入ろうか!」
「そうですね~触れ合いタイムの強制終了は残念ですけど、この後の行動予定も控えていますから、皆んなで朝食の後片付けに入りましょう!」
先生と隼人からの後片付けに入ろう! との声を聞いた女子達はお互いに頷いた後、大きな声で掛け声を上げた!
〚はい、気分を切り替えて後片付けに入ります!〛
「そうしましょう、朝食の後片付け開始ね!」
掛け声と共に、朝食の後片付けに入って行く山楽部御一行と春海。颯爽とテーブルベンチの方に戻ると、テキパキとした動きでテーブル上に有る食器類やコップ、バーナーを片付けて行く。もう山行き行事の食事の後の片付けはお手の物と言う感じで、あっと言う間に完了させてしまうのだった。
「はい! 皆さん、手早く後片付けが終了出来た様で素晴らしいです。では、この後は2日目の行動に移りたいと思います。各自、小屋やテントに戻って、登山装備の装着をし終えたら、この管理棟前に集合してください。
あと、未だ小屋やテント泊場は昼までは借りられているので、不要な荷物は置いて構わないです。では、散開して準備を始めてください!」
先生から、登山装備の身支度を済ませる様に! と声が発せられ、一同は小屋とテントに戻り登山準備に入って行く。
まだ、小屋とテント泊場には昼まで滞在出来る為、各々は置いて行く荷物と、ザックに入れて行く荷物とに選別を終えると、ザックを背負い身支度を済ませて集合場所の管理棟前に集合をするのだった。
「隊長! 部員達全員、登山装備を装着して準備が整いました!」
〚はい、準備が整いました!〛
颯爽と宿泊小屋から出て来たメンバー達は、既に待ち構えて居た先生の前に整列して準備完了の報告をする。そして、春海が遅れて集合場所に到着をするのだった。
「わたしも、準備が完了致しました!」
春海も、メンバー達の隣に立つと準備完了の報告をするのだった。昨日から山楽部と行動を共にして居るせいか、まるで山楽部の一員の様に成ってしまったかの様に自然な感じで一緒に整列をして居るのだった。
「皆さん、準備が完了しましたね。では、これより2日目の行動を開始したいと思います。今日の登山行程はいたってシンプルです。小屋を出発したら、北側に向かう登山道を40分ほど歩いて行った先に有る雁峠と言う平原の所まで行きます。
その平原で30分位の休憩を、まったり、のんびりと過ごした後、小屋に戻り下山すると言う行程に成ります」
「隊長! 今日は昨日と違って大分、登山行程も短くて、のんびりとした行程に成るのですね」
「そうね、登山計画書を見て分かって居たとはいえ登山行程が短いから、のんびりとした2日目の登山を行えそうだわ」
「そうだな、星野と沢井が言う通り、今日の登山行程は昨日と比べたら大分短くて軽めの登山行程と成ってるんだよ。今から行く雁峠の所までは、ほぼ平坦でね。
正直なところハイキング程度と言った所なんだよ。だから、今日の登山は、まったり、のんびりと皆んで過ごして行こうじゃないか!」
「良かったわ~あたし達は今日の登山は、まったりと過ごす事が出来るんですね!」
「わたくし、昨日の登山で身体が悲鳴を上げて居た所だったので、今日のハイキング程度の登山は歓迎しますわ~」
「まあ、昨日は笠取山登山を皆んな頑張ったからな。今日は、その疲れを癒す為にも、軽めの登山行程で考えたんだよ。では、雁峠を目指して出発しようじゃないか!」
〚はい! 雁峠を目指して出発します!〛
今日の登山行程は短い事を聞かされて、安堵の表情を見せながら出発した山楽部御一行……と言うハズだったのだが、突然、春海が行く手を止める様にして前に立ちはだかると口を開いた。
「あ~皆さん、ちょっと待ってください! わたしの事でお願い事が有るんです!」
春海は、皆んなにお願い事が有る! と言うと、先生の方に近寄って何やら耳元で囁くのだった。
(ちょっと先生! 朝に一緒にコーヒーを飲んで居た時のお願い事を、皆さんに未だ聞いてくれていないじゃない~!)
(えっ? 何かお願い事が有りましたかな?)
(もう~何を言っているのよ! わたしが夏合宿の鳳凰三山に参加して良いか、皆さんに聞いてくれるって言う話の事よ!)
(あ~そうでした、その事を聞いて居ませんでしたな。早速、メンバー達に聞いてみますよ!)
如何やら先生は、春海が鳳凰三山の夏合宿に参加する事を、部員達に問い質すのを忘れて居た様である。
「はい! 皆さん、ここで立ち止まって私の話を聞いてください!」
歩き出したばかりで突然に行く手を止められて、話しが有る事を告げられたメンバー達は、えっ? 何々如何したの? という表情を見せて先生の方をジッと見つめて居る。
「急に立ち止まらせてしまって、すまなかったな。私から諸君に聞きたい事が有るんだよ」
「隊長! 僕達に聞きたい事が有るとは、どんな事なんでしょうか?」
「実はね、ここに居る春海さんから、鳳凰三山の夏合宿に参加したい! と申し出が有ってね。
春海さんが参加をしても良いか、君達に聞きたくてね。如何だろう、参加を了承して貰えるだろうか?」
先生から、夏合宿に参加したい事の申し出が春海から有った事が告げらる。その事を聞いたメンバー達は、お互いに顔を見合わせた後、ニッコリと笑顔を見せると口を開いた。
「勿論、大歓迎ですよ! 春海さんが参加して貰えるなんて、凄く嬉しいです!」
真っ先に大声を上げて歓迎の意を伝える隼人。そして女子達は、春海の元に近寄ると話し出した。
「歓迎しますよ、春海さん! 参加して貰えるなんて嬉し過ぎるわ~鳳凰三山に一緒に行きましょうね!」
「鳳凰三山への参加、歓迎歓迎、大歓迎よ~! あたしは、春海さんと一緒に登れる事がとても楽しみだわ~」
「春海さん、夏合宿への参加を歓迎しますの! わたくし、今からその日が来るのを指折り数えて待って居ますわ」
女子達は、春海に抱き付きながら声を大にして歓迎の言葉を述べて居るのだった。
「参加を歓迎してくれて有難う、山楽部の皆さん! わたしは以前にも鳳凰三山に行った事が有るんですけど、その時はあいにくの雨模様で、オベリスクを拝む事が出来なかったのよ。
先生から、山楽部が夏合宿で鳳凰三山に行く事を聞かされて、一緒に皆さんと参加してリベンジを果たしたいと思ったのよ。宜しく頼むわね、皆さん!」
メンバー達が春海の参加を了解して、和気あいあいと喜びを分かち合う姿を見た先生は、口を開いた!
「よーし! これで春海さんが、鳳凰三山の夏合宿へ参加する事が決まったな。これは楽しく賑やかな鳳凰三山の登山に成りそうだね。今から、その日が来るのが楽しみだよ。では、仕切り直して、これから雁峠を目指すとしようか!」
〚はい! 仕切り直して出発ですね。目指せ! 雁峠!!〛
「よ~し、再出発ね。目指せ! 雁峠~!!」
目指せ! 南アルプス鳳凰三山? では無く、目指せ! 雁峠!! の掛け声を上げて歩き出した山楽部御一行と春海。こうして2日目の笠取山登山が始まりを告げたのでした!!
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