9 BEO(2)
きららさんに連れられアーケードファイトの筐体に座らされる。俺は顔バレされたくないので、フードをまぶかに被ってスタンバイしていた。会場の人の入りは上々だった。
『さあ、本日のイベントは、あの〝すとんごっと〟との直接対決です!』
会場からは、「あの情弱のw」とか「舐めプ王w」とか、そんなひそひそ話が聞こえた。フードを被っていてよかった。気づかれずに泣けるから。
ふたつ並べたゲーセン用の筐体。そこでバトル開始。俺は黙々と対戦者を屠っていく。
二ゲーム先制マッチを百人連続バトル。ひとり二分かかったとして単純計算でも二百分。三時間以上かかるわけで、寝不足も限界で意識が朦朧としだした。片目をつむって片方の脳だけ寝られないかな、なんて考えながら対戦していた。
挑戦者、九十九人目。
「なんかへんなのに巻き込まれたな」
対戦相手からそんな声が聞こえた。攻撃パターンやバトルの流れがなんというか見覚えあるような……。
「っておまえ、もしかしてTOSHIか!」
筐体の裏をのぞき込むと、そこには同い年ぐらいの爽やかボーイがそこにいて、
「リアルでははじめましてかな。TOSHIです。すとんごっとって、同い年ぐらいなんだな」
TOSHIは思ったよりイケメンで、マジでボッコボッコにしてやろうって思った。マジで。
もちろん親しい仲だからこそそんなこと思うわけで、俺はイケメンが嫌いなわけではない。ただ、「ねえ、チャレンジャー側の人、かっこよくない?」とか聞こえた瞬間、全力のハメ技からの必殺奥義で必要以上にフルボッコしてやるって決めた。
「あれ。部活って言ってなかったっけ」
「ああ、きょう、じつは東京遠征だったんだ。抜け出してきた」
「なんだよそれ。大丈夫かよ。Loser枠の予選は?」
「敗者復活戦の決勝で負けたよ。せっかく九州から来たのに、負けるときは一瞬だったな」
「あ。九州から。じゃあ、楽しんでいけばいいじゃん」
「いや、午後から練習試合なんだ」
「そうだったな……もし勝ち進んだら、どうしたんだよ」
「そんときはそんときだよ。俺の部活、俺が抜けてもそこそこ強いし」
俺の圧勝で対戦は終わりTOSHIと握手する。TOSHIが立ち上がるとこれまた高身長で、キラッと歯を輝かせるわけ。ネットで知り合っていなかったら俺、つば吐きかけたかもしれない。ぺっ!
「じゃあ、応援はできないけど、がんばれよ」
爽やかイケメン風なこと言って立ち去るTOSHI。九州から来たって、まじ会えるのレアじゃ~ん。ってニヤニヤが止まんなかったけど、どこかひっかかることがあった。どこかで見たことある顔だったのだ。芸能人かなにかか……思い出せない。
「さあ、最後の百人目の挑戦者は、この方です!」
会場がわっと沸いた。
そこには、
「やっほー☆ すとんごっとおひさー」
「げ、がるる」
見るからにギャルな
それでも日本においては確実に一番強く、俺でも勝てたことがない。
「あれががるる……」「だたのギャルじゃん」「エッロ」
そんな声が聞こえる。みんなそう思うよな? そう、俺もそう思う。小麦色の肌&金髪&カラコン&第三ボタンまで谷間露出、って完全にザ☆ビッチなわけ。さっきからチュッパチャップスを舌で転がして、なにそれ誘ってんの? って感じでエッロいわけ。盤外戦術かなにかですか。そんなんしなくてもおまええげつないくらい強いじゃん。
がるる――通称、神速のサゾ責めギャル。俺が中二でプロになった翌年に彗星のごとく格ゲー界隈に現れた天才だ。
俺こいつ苦手なんだよな……。
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