480話 界繋解決その10

 全力を空間震に傾けてしまったンバスクの足に、メール=ブラウの《鎖》が絡みつく。


 その《鎖》は彼自身であるという逆算から、《信業》を解除することによって距離を詰めたメール=ブラウが、もはやあちこち虫食いだらけの腕を振り上げた。


 その腕には、光剣が握られている。


「あば、」


 《無私》のンバスクの顔が喩えようもないほど激しく歪み、


「───よ!」


 渾身の一撃が、ンバスクの肩から腰までを焼き斬った。


 常人であれば疑いようもなく致命傷。聖究騎士とて、これは耐えられない、もし喰らったのがそれこそメール=ブラウじぶんであればこれで終わる、そんな一撃。けれどメール=ブラウは、これで止まらないであろう人物に心当たりがあった。


 とんでもない男に、計り知れない男に、信じられないヤツに、出会っていた。


 だからもう一撃。更に上回るような渾身ありったけを。


 無理な体勢から放たれた一閃は、メール=ブラウの身体にも多大な負荷を与え、ついに限界を迎えた肉体の鎖が破断する。上下に分かたれて落下していくンバスクを追うように、メール=ブラウの破片もばらばらと降り注ぐ。この場面だけを切り取ればただの相討ちでしかないし、結果としては双方ともにここで終わるばかりだからそれが正しいのだけれども、当の本人たちからすればそんな客観的事実など戯言でしかない。


「へ、へ……。ざまあ、見やがれ……」


 メール=ブラウは笑う。それは彼がよく浮かべる、誰かを下に見るような───あるいは見上げて羨むような───負の感情からの笑みではない。もっと屈託のない、気の置けない友に勝ち誇って見せるようなそんな笑み。


 誰も彼の勝利条件を知らない。彼は誰かを負かしたいのではない。ただ、対等な関係でなんてことのない遊びに興じられれば、それだけで満足だった。


 これで、満足だった。


「イチ抜けだ……。俺の、勝ち、だ、ぜ───」


 メール=ブラウは勝ち、ンバスクは負けた。


 誰知ることもないその結末を抱いて二人は墜ちていく。

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