470話 機神解体その11

 シナンシスの神体と義体の接続部分に細工をしておいたのは、依頼されて作り上げた段階の話だ。


 心底から信頼してはいないということなのだろう、とカストラスは自己を分析する。彼が作り上げたものは、いざその性能が自分の邪魔になったときのために欠かさずひとつは穴を用意している。シナンシスの義体だけではない。バスティの義体も、手遊びに作った《掌握神域》も、ユヴォーシュとヒウィラの義肢だってそうだ。どれもこれもカストラスがその気になればその機能を奪える用意は、してあった。


 そういう自分の性分にはとうに折り合いをつけている。


 カストラスを捕える寸前だった展開神体は、その挙動が緩慢になっているのが見てとれた。魔術を施したのはカストラス家の魔術師たちでも、遺物を扱うのはシナンシスだ。その当人が義体の不具合でああしてもんどりうっているのだから、カストラスの捕獲だってそうスムーズには運ばないのは当然というもの。


 欲しかったのは、その隙だ。


 改めて広域念話を繋ぐ。時間はごく短く、双方向にする暇もないので一方的に。対象は聖都じゅうの全員。いちいちユヴォーシュとヒウィラだけ探すなんて、時間を食うことはやっていられない。未明のこの時間に騒々しくて申し訳ない、なんて考えない。だって寝ているやつなんていないだろう、これだけの大一番おおさわぎで?


 端的に探索魔術の結果だけを告げて、それでおしまい。


 神体の牙が、カストラスの肉体に突き立った。


「ぐゥ……ッ!」


「やっテくれたな、カストラス……!」


 まだ四肢が思うように動かないのか、地べたに倒れ込んだまま、しかしシナンシスは神体の制御を取り戻していた。自分の自由よりも敵の拘束を優先するから、目から火花が散っているし顔半分は歪んだまま。声だって時折雑音が混じって聞き苦しいけれど、彼もそんなことを意に介する段階にもう居ない。


 魂を捕える術式が、見る間にカストラスを神体に押し込んでいく。


「私の勝ち、かな。ここで私は終わるが、私の目的は果たされる。あの二人なら、きっと私の夢を叶えてくれる───」


「何ヲ───」


「彼らなら、きっと。私たちには描けなかった地平を見せてくれる」


「未ダ見ぬ未来を描ケたとして……そこにオ前は居ないのだろう」


「それで構わないのさ。なにせ私は───魔術師なのだから」


「…………愚かナやつ」


 きゅいん、という音を最後にもとの金属球に戻った神体が転がる。あとに残ったのは、ずたずたに引き裂かれたカストラスの肉体ぬけがら と、立ち上がることすら儘ならない無様なシナンシスの義体だけだった。

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