468話 機神解体その9

「そう、お前は生粋の魔術師だ。ストラ」


「それが?」


「それがこうして無駄話に付き合うのだ。


 カストラスとシナンシスの仲だ、今さら否定などしない。もちろんその通りで術式の用意は整っているし、シナンシスシナーが少しでも隙を見せればぶっ放すつもりで構えている。問題は相手方も同じということ。


 カストラスが会話の間に気を逸らしていれば、シナンシスは間違いなく先手を取っていたはずだ。それが何かは大まかにしか分からないが───不死身に胡坐をかいていられる手段ではないのは確かだった。


 互いに隙を窺って、とうとうここまで来てしまった。もう話すことは何もなく、後は実力行使のみが残る。こうなってしまっては仕方ないから、後は些細なきっかけさえあればそれが合図。


 ───どうせ最後だ、早撃ち勝負と行こう。


 ───いいだろう。


 言葉なき会話。カストラスとシナンシスは民家の屋根の上、微動だにせず向かい合う。突けば爆ぜるような張りつめた空気。


 合図は、巨大な鉄の柱だった。


 どこからともなく飛来して、二人の間を転がってゆく。大質量がまっすぐ突っ切ったことで舞い上がる破片の中、彼らは全くの同時に動く。


 カストラスは、魔術の最後の鍵たる文言を唱え。


 シナンシスは、懐より金属結晶と思しき何かを取り出した。


 銀とも金ともつかぬ色合いに輝く卵型の塊、それに近しいものをカストラスは以前に見たことがある。あれは学術都市レグマでのこと、あの愉快で奇妙な青年ユヴォーシュが持ち込んだそれは───


「神、体かッ───」


「御明察、だ!」


 カストラスを神に押し上げるのに、肉体は不要。むしろ余計な小細工を弄する可能性を考えれば邪魔なくらいで、何かするより先にまず魂だけ神体に押し込んで確保してしまえ。そう考えていたのだ、シナンシスは!


 宙へ抛られた金属球は、ある種の昆虫か甲殻類のように展開しカストラスへと殺到する。非論理式《奇蹟》による身体能力の増強はカストラスだって可能だが、決して遺物から逃れられるほどではない。回避は不可、対応も───見てからでは一手遅れる。


 対してカストラスの繰り出した手は広域念話だった。すでに祭具の位置特定は完了しており、あとは二人に伝えるだけだったからそれでよかったのだ。危害を加えられようと拘束されようと、何をされても伝えてしまえればそれで目的は達成される。そう考えていたのはしかし、甘かったと言わざるを得ない。


 念話で教えるより先に魂を抜かれれば一巻の終わり、あとは煮るなり焼くなり好きにし放題。咄嗟に妨害魔術を走らせたから均衡を作り出せてはいるものの、神体はそれすらも上回ってカストラスの魂を収蔵しようと張り切っている。全力で抵抗すれば時間は稼げるが、それで得られるものは何もない。だって時間稼ぎに全力を費やしているのだから!


「こ、の、ッ……! やったな、シナンシス……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る