459話 龍戮戦線その12

 ───実のところ。


 今しがた、ユヴォーシュの怒りの一刀にて両断された天龍───《開く理》のサヴラニヤは敗残兵であり。


 機神ミオトと天龍たちの拮抗は、とっくに破綻しているのだった。


「──────!!」


 声なき声、蒸気と噴流の咆哮を轟かせ、黒鉄の巨神はそのかいなを振りかぶって振り下ろす。拳は鋼線を軋ませながら遠心力のままに《伸び》、天を馳せる巨龍の翼をひっかけた。二対四枚あるその天龍とて、片側が壊滅すれば飛んでいられない。墜落してきたところを、機神ミオトの砲撃が捉える───直撃。


 爆散した破片が降り注ぐ。その陰から別の天龍が突っ込んできて放った息吹ブレスが、ミオトの外装に直撃する。ぶすぶすと溶けるのは熱ではなく化学反応だが、そうやって一層が溶解したところでその下から別の装甲が姿を現すのだからやってられたものではない。あと何層貫けば神体が見えてくるのか、果てはあるのだろうが想像するだけでうんざりする。


 天龍たちは数柱墜ちたが、それでも単独の機神ミオトに対して数を頼りに攻めかかっている。今しも一柱の天龍が息吹ブレス攻撃を仕掛け、その反対側から別の天龍が体当たりを敢行した。機神ミオトと比較すれば可愛らしい鳥か何かのように見えるが、それでも龍体は尋常ならざる質量を保有する。自壊覚悟の高速でそんなものが突っ込んできて、しかも《信業》で己は防御しているとくれば流石のミオトもたたらを踏む。


 そう、


 機神ミオトはずっと聖都イムマリヤの傍に鎮座し、そこから動かずに戦っていた。彼は遠距離への有効な兵装を保持していたし、動く必要はなかったから。それでも砲撃や、彼を狙った攻撃の余波、支脚による破壊などは及んでいたが───ほどではない。


 街の二区画、瞬時に圧壊するほどでは。


 いくつものがその瞬間、消えた。


「─────────」


 機神ミオトの思考にノイズが生じる。今、私は人民を殺害したのか? なぜ? 姿勢制御の際に巻き添えにした。なぜ? 必要な犠牲だった。《人界》を■■■■■■■■をあの街を故郷を守るためには天龍の排除が必要だ。なぜ? なぜって私はそのために旅に出たのだから。ハシェントさんについていくことを選んだのは故郷を守りたかったから。なぜ? なぜそのためにこの街の住民を踏み潰すことが正当化される? なぜ? この街、この街とは一体どこだ? なぜ? 知らない街、知らない聖都、聖都■■■■■■■、違う今はイムマリヤだ、今、今とはいつだ。あのとき、《人界》の劫は廻った。なぜ? 《大いなる輪》が廻ったからだ。なぜ? ならばなぜ、私はもう■■■■■■■■は存在しないのになぜ戦っている? なぜ? なぜそれで人の命を奪ったことが正当化される。なぜ? なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ───


「─────────!!!!」


 機神ミオトは発狂した。


 己の心理回路に発生した無数の『なぜ』が飽和し、弾けた火花は回路を短絡させる。よって本来であれば彼の心理に浮かばないような思考がいくつも瞬き、何も理解できないままそれに衝き動かされた機神ミオトは───


 自分の足下に向けて、鉄塊の砲弾をブッ放した。

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