151話 最短経路その3
「ユヴォーシュさん、その恰好で上がる気ですか。……たぶん厳しいですよ」
「マジで?」
キシが俺に忠告しながら着込んでいく。神聖騎士の白っぽい灰色の制服の上からマントを羽織り、襟巻をぐるぐる巻いて、耳付きの帽子をかぶった上からゴーグルまでつけている。
「でもロジェスはつけてないぜ」
「あの人は大丈夫なんです。なんたって聖究騎士ですから! ユヴォーシュさんも、早く……」
「───いや、俺はいい。ロジェスがそのままだってんなら、俺も」
キシの顔には『こいつどうなっても知らないぞ』と書いてある。だが、再戦を期している俺なんだ、そのくらい張り合ってやるという気概がなければ。
離陸した《信業》製の鳳は、矢のような速度で《人界》の空を舞う。
確かに風は体感気温を大きく引き下げるが、それより参るのはこのうるささだ。風を切る音の中で、ロジェスがいつもの調子で呟くから最初は聞き取れなかった。
「何だって!?」
「グオノージェンを連れてきて正解だった、と言った。まさかこんなことになるとは思わなかったが」
「ああ、それは、確かに───」
「あいつがいなければ、更に無理を言って《転移紋》を使うしかなかった」
「えっ? 陸路じゃなく?」
呆れた、これほど馬鹿だったとは、そう言いたそうな顔は止めてくれよロジェス。お前ら神聖騎士が何やらその《転移紋》とやらを便利に使ってるのは聞きかじってるが、
「陸路で何日かけるつもりだ、貴様は。そんなやり口ではメール=ブラウに邪魔してくれと言っているようなものだ」
「とはいえ、《転移紋》のこれだけの人数の使用───しかも神聖騎士ではない者と、魔族たちの使用は申請してどうにかなるものでもないですよ」
カーウィンが口を挟んでくる。前に占神シナンシスが、俺だと《転移紋》が使えないから不便だとボヤいていたのを思い出す。あの時は何と言っていたか───ああ、そうそう。
「神聖騎士専用って話だが、どうしてなんだ? 聞けばあっという間に都市間を移動できるらしいじゃないか。そんな便利なもの、どうして」
独占しているのか。
「金がかかるんですよ、シンプルに。というのも《転移紋》起動に希少鉱石の消費が必要で、それが高価と来ている。神聖騎士だって、気安く使えるものじゃないんです」
「ああ……、そうなのか」
シナンシスの口ぶりからすると乗り合い馬車くらいの気軽さだったが、あれでも考えてみれば《人界》を支える九柱の小神だ。そりゃあ最優先で使えるに決まっている。
聖都からディゴールへ、そして西へ、ずいぶんと遥々あちこち行ったものだと思ったが。なんてことはない、神聖騎士たちからすればちょっと高い金を払えばひとっ跳びの掌の上だったらしい。
俺は遠い目になる。幸い、かなりの高高度を飛翔しているから見張りにはちょうどいい。
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