069話 龍戮戦線その5

 ディゴールへ文字通りしながら急行する俺たちは、まず状況の把握に努める。


「街は悲鳴でいっぱいだ。こりゃあ騒々しい」


「前に言ってた共感性ってヤツか。具体的な状況とかは掴めないのか」


「うーん、どうかな。悲鳴のコーラスを聞き分けるみたいなものだから、精密性には期待されてもって感じ。いちおう、炎に巻かれてるのと別口で何かあるっぽいのは分かるけど」


「それがアレか」


「うん?」


「《真龍》が空からばら撒いてるアレ。推定ニーオが撃ち墜とそうとしてるけど、取りこぼしも多そうだ」


「ああ───そういうこと。自己の免疫機能を体外展開してるんだ。人族は不完全生命だから免疫細胞で行うところを、《真龍》は完全な一個の世界、生態系を体内に有することで、免疫がああして《龍人》の様態を───ユーヴィー付いてきてる? 分かる?」


「さっぱり。つまりアレか、あのフケが落ちるとモンスターになるってことか」


「その認識でいいんじゃないかな」


「そうかよ。にしてもニーオ、苦戦してるな」


「当たらないみたいだね。瞬間的に位置を変えてるみたいだ」


「厄介極まりないな。じゃあまあとりあえず───一発お返し、行ったるか!」


「行けーッ!」


 墨曳く魔剣を振りかざし、上空を飛翔する《真龍》に斬りかかる。振り下ろした剣が鱗に触れた、と思った瞬間その巨体が視界から消え───


「後ろだユーヴィー!」


『愚かな』


 《真龍》が口を開く。またあの火の息か、なら。


『蚤の如き者よ』


 これなら避けられないだろ、喰らえ───!


 全天を覆う閃光。爆発した《光背》は、ブレる《真龍》の実体を捉えて吹き飛ばす。


『何だと───!?』


「予想通りッ、これなら逃げ場はないぜ!」


 魔獣テルレイレンを吹き飛ばした時のことを思い出していたんだ。全方位に拡散し貫通する《光背》の光は、テルレイレンだけをターゲットとして吹き飛ばせた。壁をブチ破って吹き飛ばすこともなく、テルレイレンだけを。


 遡って考えれば、カリエの危機の際も《炸裂の魔導書》の爆発だけを屋外に吹き飛ばして無力化したことと言い、俺の《光背》は認知している外側の領域せかいまで効果を及ぼせる。囲う世界そのものを作る、《真龍》の炎の檻なんかには効かないが、これなら有効打をねじ込める!


 受けると思っていなかった衝撃にあらぬ方角へと弾き飛ばされる《真龍》を見ながら、俺とバスティは呵々大笑する。とりあえず一発。ここまでは前哨戦、俺と《真龍》の喧嘩だ。


 そしてここからは───俺たちとディゴールとニーオ対、《真龍》の戦争だ。


 龍をころす戦争だ。




◇◇◇




 さすがに俺のことは撃ち落とさなかった。


 《真龍》をぶっ飛ばして降下する途中で、ふとニーオが俺を龍鱗と勘違いしてあの火砲を向けてくるんじゃないかと思ったのは杞憂だった。


 俺が着地すると、ニーオとその傍らの人物───覆面の男が俺に話しかけてくる。


「やーるじゃねえかよユヴォーシュ! お前の《光背それ》ならあいつの《点滅》に対抗できるな!」


「そう簡単な話じゃない。《点滅》に対抗できるだけの出力を担保したいなら、接近は必須だ。だろう?」


「ああ、まあ、そうだけど……なあニーオ、このひと、結局誰なんだ?」


「紹介してなかったっけか。人じゃないぜ。シナンシスだ」


 え?


 いやその名は───


 硬直する俺と知らないから反応できないバスティを置き去りにして、ニーオは話を続ける。


「お前、それ魔剣か? いいな、ちょっと貸してくれよ」


「あ、いや……馬鹿バッお前ダメに決まってんだろ! 昔からお前に刃物持たせると碌なことにならないんだから! やめろ引っ張るな!」

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