魔崩少女マジ刈ル☆メリル!
猫蚤
その少女は変身する
「なにこれ……?」
夏休みも後半に差し掛かったある日、親友の
「なにって、どっからどー見てもバリカンでしょ」
暑そうに胸元を手で扇ぎながら、重美が気怠げな声を出す。
「それは見たらわかるけど、なんでこんなところに突き刺さってるわけ?」
「さぁ? 嫌なことでもあったんじゃない?」
テキトーなことを言う友人に、直子は冷ややかな視線を向けた。
「あんた……その暑そうな髪、コレで全部刈り落とそうか?」
太い黒々とした癖毛は、重美の悩みの種だ。
「勘弁してよー、短いと制御不能だからやっとここまで伸ばしたのに」
自身の背中を覆う髪を庇うように後ずさる重美。
「ほら、坊主にすると髪質変わるって言うでしょ?」
「あれはただの噂ですぅ! 私も気になって調べたけど、科学的根拠はないから!」
「ふーん」
「なによその興味のなさそうな顔は! 自分がさらさらヘアだからって! このこのー!」
こちらの髪をぐしぐしと弄る重美の手を引き剝がしながら、直子は薄い唇を歪める。
「だから、さっさと縮毛矯正かストパーかすればいいじゃん。クラスの女子とかみんなやってるって」
「いまさら遅いのー! もうみんな私が天パだって知ってるじゃん! 生徒指導の先生に目つけられたくないし!」
高校入学というイメチェンのチャンスを逃してしまった友人は、ことあるごとにそのことを嘆いていた。
「はぁ……、ホント直ちゃんの髪、羨ましい」
先ほどとは違う優しい手つきで、重美は直子の髪を撫でる。
しかし、直子からすれば重美の肉付きの良い体や、同学年の女子と比べてもふくよかな胸のほうがよっぽど羨ましい。
至近距離にある柔らかそうな膨らみに目を奪われそうになった直子は、咳払いをして生垣の方を振り向く。
「とにかく、コレどうする? 警察とかに届けた方がいいのかな?」
「まあ、この家の人のかもしれないけど、家の外側に刺さってるのは意味わかんないしね。落し物ってことで持っていけば、お巡りさんがなんとかしてくれるんじゃない?」
そう言って、重美がバリカンを引き抜いたときだった。
「やっと見つけた!」
背後から飛んできた声に、ふたりはびくりと体をすくませる。
振り返ると、そこにはだいぶ年下に見える少女が、こちらを指差していた。
「え、なにこの子? 見つけたってなにを?」
怪訝な顔で訊ねる重美に、少女は幼さの残る可愛らしい顔からは想像できない粗暴な口調で、
「あン? なにって、そのバリカンに決まってんだろ」
「これ、あなたの落し物? だったら良いんだけど、知らない人にそんな話し方しちゃダメよ?」
予想外の態度に面食らいながらも、直子が落ち着いた口調で声をかける。
「ごちゃごちゃうっせーんだよ。いいからさっさとそいつを寄越せ! いまはお前らなんかにかまってる暇は――」
傲慢な態度を崩さない少女に、もう少し厳しく言い聞かせるべきかと口開きかけた直子は、こちらに向かってくる別の存在に気づいた。
「おーい、追っかけっこはもうやめにしようぜぇ」
「おとなしく俺たちと来いつってんの」
下卑た笑み浮かべながら、数人の男たちがこちらに近づいてくる。普段の素行が良くないことが容易に想像できる外見の男たちが、こんな子どもになんの用があるというのか。
「いい加減にしろよテメーら! こっちがおとなしくしてりゃつけ上がりやがって! いまから残さず刈り取ってやるから黙ってそこに並んどけ!」
理解不能な状況を呆然と見守っている直子たちとは対称に、少女は怒気を孕んだ言葉を吐き捨て、飛びかかるようにして強引に重美からバリカンを奪い取った。
「見せてやるよ、
少女が叫んだ瞬間、まばゆい光がバリカンから放出される。
その光は少女の身体を包むように収束し、次の瞬間、彼女の服装を足先から少しずつ変化させていく。
やたらフリフリとした装飾の、赤と白を基調としたドレスのような衣装。服だけではなく、いままで特徴のなかったショートヘアもビビッドな赤色に染まり、側頭部で二つに結わえたツインテールへと変わっていった。
変化というよりは、変身。
それはまるで――フィクションに登場する魔法少女の変身そのものだった。
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