第153話 騒ぐ猫たち

「そもそも、マリアンさんが剣に精神を乗っ取られたのがいけないんです!」


 ガイアが口をとがらせた。

 マリアンも負けじと犬歯をむき出しにし、言い返す。


「なんだと!? 私だけを悪者にする気か!?」


 マリアンが頭一つ背が低いガイアを見下ろす。

 ガイアは顎を上げ、見上げる形で睨み返す。


「あなたはいつも敵を軽く見ていた。だから、足元をすくわれたんです」

「ただの剣が、ボスモンスターだなんて思う訳ないだろうが!」


 ガイアの人を治癒するはずのその手が、黒い鎧に叩きつけられた。

 だが、マリアンはビクともしなかった。


「何だ? それで歯向かったつもりか?」


 ガイアは挑発を無視し、詠唱し始めた。

 だめだ。

 本当に殺し合いが始まってしまう。


「ガイア! マリアンは私の命の恩人なの! イジメないで!」


 フィナが割り込む。

 ガイアが詠唱を止め、感情を押し殺した様な瞳でフィナと向かい合う。


「フィナさん、彼女はあなたの恩人かもしれませんが、私の祖父を殺した憎き相手でもあるのです」

「そんなの今は関係ねぇだろ!」

「関係あります! しっかり私に謝罪して下さい」

「すまん」


 マリアンが抑揚のない声で謝罪する。

 僕は見ててやきもきしていた。


「そんなんじゃなくて、土下座して下さい! あなたが殺して来た全ての人々に対して!」

「いやだね! 自分のプレイスタイルを守るために必要だったから殺したまでのこと。お前だって、自分のギルドを守るために邪魔な人間は殺して来ただろ」


 話の視点が変わって来ている。

 始めは僕のことでケンカしていたが、今では過去のことについて争い始めている。

 仕方ないのかもしれない。

 元々仲が悪い者同士が、一つの目的の下に集まり一緒になった。

 それは無理やりのことだった。

 何かがきっかけで、喧嘩が起こるのは必然だろう。

 

「おい、お前ら」


 リンネが押し殺した声が響く。

 皆、彼女の方を振り向く。


「大人しくしないと首を狩っ切るぞ」


 クナイで自らの首を切る仕草で脅す。

 おお、こわ。

 本当にやる気だ。

 あの目は。


「うるせぇな。ガキは黙ってろ」


 マリアンがリンネを睨みつける。

 ガイアが詠唱を再開する。

 フィナがギャーギャー言っている。


「皆さん、聞いてください!」


 僕は大声で叫んだ。

 皆、一斉に僕の方を振り向く。


「僕はこの残された奇跡を、皆のために使います」


 ケンカしていた女子達が皆、黙り込んだ。

 そうだ。

 この場を収められるのは僕しかいない。


「一つはガイアさん、もう一つはリンネ、そして最後の一つはフィナ」


 一人ずつ目を合わせながら僕は言った。


「おい、私の分は?」


 マリアンが詰めよって来た。

 ひぇえ。

 そうだった。

 3回に対して、4人いたんだ。


つづく

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