第140話 剣は生きている。

 エメラルドに輝く刀身が私に向かってくる。


「おいおい」


 私は横に身をかわした。

 フランは大して素早くも無いので、突然飛び掛かって来ても避けることは簡単だった。

 突然の攻撃よりも、私は彼の目を見て驚いた。

 白目の部分が真っ赤になり、瞳は黒い点になっている。

 彼は剣と出会ってから異常な行動が目に付いたが、剣を手に取ったことで本当に何かに憑りつかれた様だ。


「うおおお! この剣を試したい!」


 彼は自分のパーティのメンバーに突進して行った。


「フラン! 落ち着け!」


 他のメンバーを守る様に、そう壁の様に立つ武闘家。

 三つ編みの彼女は狂戦士となった仲間を、両手で制しようとする。


「喰らえ! エメラルドスプラッシュ!」

「ぐぅあ!」


 切り裂かれた三つ編みが私の後方に吹っ飛ぶ。

 狂戦士は仲間の言うことに聞く耳を持たない。

 ただ手にしたエメラルドソードの切れ味だけを試すために生きているかの様だ。

 次に、狂戦士は、治癒魔法使いに切り掛かる。


「ぎゃあ!」


 一刀両断された治癒魔法使いは、詠唱中だった。

 真っ二つにされた彼は、フランに何か魔法を掛けて目を覚まさせるつもりだったのだろう。

 同じギルドのメンバーを殺すとペナルティを受ける。

 それをためらわずに行えるということは、フランは剣の魔力に乗っ取られたのだろう。


「うわわ!」


 残された妖術師と付与術師の男女が逃げ惑う。

 やっと仲間が敵になったことに気付いたのか、否、認めたのだろう。

 認めたくなかったのはよく分かる。

 誰が剣を持った瞬間、気が狂うと思うだろう。

 彼ら彼女らは詠唱を始める。

 だが、壁役の武闘家と支援役の治癒魔法使いを失ったパーティは瓦解すべき運命にあった。

 私は柄にもなく、か弱き者の前に立ち壁となった。


「お前もエメラルドソードの餌食になりたいのか?」

「逆だろう。お前がこの竜神の剣の養分になるんだ」


 フランの手にしたエメラルドソードは、恐らく敵が用意した偽物だろう。

 その偽物はモンスターと全く同じ行動パターンをフランにさせていた。

 まず壁役の武闘家を殺し、次に防御力の低い治癒魔法使いを殺す。

 壁と支援を消すことで、パーティを確実に消そうとしていた。


「手にした者を支配するなまくら、掛かってこい」


 私は構えた。


つづく

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