第127話 タイプは年上の女性

「フィナ」


 僕は彼女の肩にそっと手を置いた。

 硬く強張っていた肩が、僕の手の中で力が抜け、柔らかくなって行く。


「ユウタ!」


 振り返ったフィナはいつもの無邪気で可愛らしい笑顔に戻っていた。


「こいつ、言うこと聞かないんだよ!」


 頬を膨らませ、マリアンを指差す。

 子供が駄々をこねる様な甲高い声がギルドホール内に響いた。

 いつものフィナだ。


「分かったよ。この赤毛のお姉さんが、フィナの言うことを聞くように躾けてやるからな」

「うん! 頼むね!」


 16歳の僕は今、2000歳のエルフと話している。


「その代わり、フィナもちょっと我慢してもらうけどいいかな?」

「はーい!」


 元気良く右手を上げる。

 暗く沈んでいたギルドホールの雰囲気が、そこだけ明るくなった様な感じになる。


「マリアン」

「あ?」


 僕は彼女と対峙した。


「この世界でゲームをずっと続けたいんだな」

「ああ」

世界更新アップデートの度に、狩り場やモンスターが減らされ、ゲームとしてのこの世界が縮小したとしても?」

「理解している。その時は過ごし方を変えるさ。生産系のギルドでも運営して素材を生み出し、農場やって建物でも立てて街でも運営するさ」


 即座に答えが返って来た。

 迷いが無い。

 マリアンは根っからのこの世界……つまり、このゲームが好きらしい。

 僕は首を横に振り、こう言った。


「でも、どんな人間もずっとはこの世界で生きられない」


 モンスターに殺されるから。

 敵対する人間に殺されるから。

 マリアン程のレベルならそんなことはまず無いだろう。

 ある意味、彼女は不死だ。

 それでも、彼女を含めた全ての人間には寿命が設定されている。


「寿命の話か? どうせいつか死ぬなら魔王を倒すのに協力しろってか?」

「うん」

「ごめんだね。私は死ぬまでこの世界にいる。まぁ、好きでもない男と結婚でもして子供を作り、そいつに遺志を継がせるがね。それで本望だ」

「強がりだな」


 僕は彼女を挑発した。


「何だと?」


 眉間に皺をよせキッと僕を睨む。


「ゲームは自分でやるから楽しいんじゃないのか?」

「黙れ。早く決めろ。お前が死ぬか、こいつが死ぬか」


 タイチの首に竜神の剣を当てた。

 僕は切り札を出した。


「エルフの血を飲めば、不老不死になれるぞ」

「知ってるよ」


 全て悟ったような口調だった。


「俺の祖父や両親は、不老不死になれると信じ、エルフを狩り、その血を飲んだ。そして奇病を発し、死んだ」


 僕の横で影が走り抜けた。

 

 緑と赤い髪が僕の目の前で混ざり合っている。

 フィナがマリアンに飛び掛かっていた。


つづく

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