第25話 ブラコンの妹だって、兄に反抗することだってある

「ふざけてんじゃねぇぞ! このガキが! 今更、ユウタを呼び戻せだと!? あんな役立たずをか!? あと、リサを勝手に殺すとか出しゃばった真似しやがって! 話がややこしくなって来ただろうが!」


 タイチが突然切れだした。

 今まで溜まっていたモノ--

 それらが、私の発した『ユウタ』というキーワードで爆発した様だ。

 無理も無い。

 今回の抗争のキッカケは、ユウタをクビにして、リサを入れたことだ。

 それはタイチが勝手に行ったことで、元凶は彼の独断だ。

 彼にしては妹に痛いところを突かれて逆切れしてみた--そう言ったところだろう。

 バカにもほどがある。

 やはり、この兄には私が付いていなければ。


「そうよ。リンネ。いい加減にしなさい。今からでも遅くないわ。アイテム持ってペガサス旅団とDEATHに頭を下げに行きなさい」


 セイラが諭す様に言う。

 こいつもバカだ。

 バカップル誕生だ。

 このままDEATHの言いなりになっていても、いいことなんてない。

 食い物にされて終わりだ。


「なぁ、リンネ」

「何だ?」

「お前は俺に素直な妹だったんじゃないのか?」


 タイチが私の頭を撫でる。

 私の黒髪がクシャクシャになる。

 小さな頃から、こうやってタイチに頭を撫でられて来た。

 私はこの世界でたった一人の肉親に、誉められたくて、頭を撫でられたくて、そして、どこか抗うのを恐れていて、いつも言いなりになっていた。

 だから、ユウタを失った。

 だから、自分を変えたいと思った。


「兄者!」


 私はタイチの手を払いのける。


「なっ……!?」


 タイチが目を白黒させている。

 従順だった妹が反抗した。

 そのことに驚いているのだろう。


「ユウタは私達のことを、密かに守っていてくれてたんだよっ!」


 ポーションの効果が二倍になったり。

 HPが0にならなかったり。

 全部、分かりにくいんだよ。

 私がユウタの代わりに、もっと皆に伝えてやれば良かったんだ。


「だから……兄者……」


 涙で声が震えているのが分かる。

 暗殺者の私としたことが、感情を露わにしてしまった。


「……俺は、ユウタに頭を下げる気は無い」


 この期に及んで、くだらないプライドを振りかざす兄を殺したくなる。

 そんな情けない兄を説得出来ない妹である自分も、殺したくなる。


<ビー、ビー、ビー!>


 私の脳内に警報が鳴る。


「リンネ!」


 私は自分の心臓の部分に、小刀の先端を押し当てていた。

 この世界において、自殺は最も罪深い。

 神はそれを思い留まらせるために、命を自ら断とうとする者の脳内に警報を響かせる。


つづく

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