第12話 放置少年。勝手にレベルがアップします。
逃げるゴブリンを追いかける。
森を抜け湖に出た。
湖の側には、地下へ続く穴が開いていた。
真っ黒な穴はダンジョンへの入り口だ。
「注意しろ。ここからこのクエストの難易度がグッと上がる」
このクエストを3度クリアしたネスコが言うのだから間違いないのだろう。
モンスターはダンジョンを好む。
暗闇と狭い空間は、内部を知り尽くすモンスターにとって、人間を迎え撃つには好都合だからだ。
「行こう」
ダンジョンに足を踏み入れる。
「
ネスコの肉球から光が浮かび上がる。
それを明かりにダンジョンの中を進んで行く。
「レベルが25になりました」
「HPが1510になりました」
「MPが1000になりました」
「
その間にも僕の脳内に、機械的な女性の声が響く。
僕は自分のステータスを見て驚いた。
使えなかった魔法がリストに載っている。
各ステータスも上がっている。
5体のゴブリンが現れた。
前衛の4匹は、槍や短剣を構えている。
後衛の一匹が矢を弓にセットし始めた。
「ユウタ。行け!」
「え?」
僕は治癒魔法使いで、支援が専門だ。
前線で戦うなんて考えたことも無い。
「お前はフィナの『目覚めのワルツ』で『救世主』に目覚めた。これくらいの相手なら、倒せる」
「僕が救世主?」
「詳しい話はクエストの後で話そう。さあ、戦え」
確かにステータスを見ると、僕の攻撃力は上がっていた。
いくつかの聖系の攻撃魔法も使える様だ。
後は、モンスターと対峙した時の恐怖心だけを抑え込めばいい。
「うおおおお!」
手槍を突き出す。
筋肉が弾ける様だ。
攻撃力が上がったせいか。
僕の一突きがゴブリンを串刺しにしていた。
肉を突き刺す感触は、今まで感じたことのないものだった。
引き抜くと、赤黒い体液が飛び散る。
「ユウタ。頑張れー」
フィナの声で僕は更にやる気が出た。
矢が飛んで来る。
それを僕は槍で反射的に跳ね返す。
跳ね返した矢がゴブリンの目を射た。
「ユウタ。すごい! やるじゃーん!」
フィナが後方でピョンピョン跳ねる。
薄明りの中、彼女が跳ねる度に、ワンピースのスカートの裾がまくれ上がり、中が見えそうになる。
僕は思わず目を伏せてしまった。
僕はこの急上昇しているステータスに不信感を抱いていた。
ネスコとフィナが魔法か何かで僕を騙しているだけでは。
そう思った。
だけど、そうする意味が分からない。
それよりも、僕は戦う快感を覚え始めていた。
調子に乗って逃げるゴブリンを追い掛ける。
足も速くなった気がする。
「レベルが26になりました」
「HPが1810になりました」
「MPが1231になりました」
「スキル『
機械的に僕の状況が読み上げられる。
この女性の声は、レベルが上がった時に聴く声だ。
僕は騙されていないと確信した。
僕はフィナの『目覚めのワルツ』を受けてから、自動的に、否、放置的にレベルが上がっている。
「わっ!」
角から一斉にゴブリンが現れる。
僕は面食らった。
きっと待ち伏せしていたのだろう。
そう思った時には遅かった。
つづく
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