第2話 就職活動

 僕は耳を疑った。

 今すぐタイチとリサの間に割り込んで、この話をメチャクチャにしてやろうと思った。

 だけど、踏みとどまった。

 怒りよりも恐れの方が勝った。

 僕なんかが飛び掛かっても、戦士であり最高の壁役でもあるタイチに返り討ちにされてしまう。


「さよなら……」


 僕は踵を返した。

 心は暗く、落ち込んでいた。



 歩きながら、僕はそっと『永遠の回復補助エターナル・リカバリー・アシスト』を解除した。

 『鉄騎同盟』の皆の顔がちょっと頭の中に浮かんで、少し後悔した。

 だけど、もう遅い。



 ギルドホールから500メートルほど離れた繁華街。

 そこには沢山の店が軒を連ねていた。

 その中にいくつかのギルドホールが見える。

 ギルドホールというのは、複数のギルドが入居する場所で、ギルドの規模に応じて部屋の大きさが違う。

 もちろん大きな部屋を借りているギルドは、大所帯で沢山のメンバーを抱えている。

 お金ももちろん持っている。

 反対に『鉄騎同盟』の様な零細は、小さな部屋で細々と運営されていた。

 ギルドは宿屋の一室でも掘立小屋でも、やろうと思えば出来る。

 それでもギルドホールを借りるギルドは多い。

 ギルドホールは費用は掛かるが便利さでは断トツだからだ。

 ギルドにとっては何かと便利な施設で、共益費を払えば、共同で使える会議室も借りれる。(その他にもあるけど、それは後で語る)

 僕はその会議室でクビを言い渡された。


「さてと……」


 僕はその中の一つ、中くらいの大きさのギルドホールで歩を止めた。

 入り口のプレートには、入居しているギルドが記載されている。


『トラ猫協同組合』

『魔王討伐血盟軍』

『センシティブ・メモリ団』

『自由商人』

     :

     :


 10個のギルドが入居している様だ。

 『トラ猫協同組合』名前が可愛いな。

 『魔王討伐血盟軍』は、名前からして厳つそうだからやめとこう。

 『センシティブ・メモリ団』は何をやっているところか想像も出来ない。

 『自由商人』は、生産系のギルドかな。

 生産系と言うのは、材料を集めて何かを作る人達のことだ。

 商人ということは、それを売りさばいているのだろう。

 工作ねぇ……。

 得意だけど、今は……。

 他にもあるが、名前から判断するしかない。

 酒場に行けば、これらのギルドのメンバーと会えて話を聴けるかもしれない。

 だけど、酒場が開くのは夜だ。

 僕は、早くどこかに属して、落ち込んだ気持ちに空いた穴をふさぎたかった。


「『トラ猫協同組合』に行ってみるか」


 僕は一歩踏み出した。


「ユウタ」


 僕を呼ぶ声がして、歩を止める。

 辺りを見渡す。

 誰もいない……


「気のせいか」


 僕は階段に足を掛けた。

 その時、


「うわっ!」


 僕は壁に押し当てられた。

 僕の布の服。

 その首根っこのところに手裏剣が刺さっている。

 僕は張り付けになっていた。


「リンネ!」


 僕の目の前には、暗殺者のリンネがいた。


つづく

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