48. 翔子と永遠の白銀

 場所は第五階層の一番奥。次の第六階層、神樹がある階層へと降りる階段がある部屋。

 私、チョコ、智沙さん、ヨミで第一階層からくまなく確認して、ようやっとここまできた感じ。お昼は第一階層を終えたところで、軽くおにぎりを一つ食べてぱぱっと済ませた。


「翔子、今何時?」


「んー、二時半過ぎー」


「ふむ。三時までには問題なく神樹のところに到着できそうだな」


 あとはこの階段を降りて神樹のある広間に行くだけだけど、ブラッドホーネットやアンデッドな熊が居た場所なので油断は禁物。あれから結構日にち経ったしね。


「じゃ、降ります」


 チョコを先頭に階段を降り、通路が安全なのを確認してもらってから、私たちも続く。

 智沙さんが双眼鏡を取り出して広間の方を観察しているが、どうやら魔物はいない感じかな。


「何もいないようだが……チョコ君、慎重にな」


「はい」


 チョコが永遠タイプのメイン盾に換装し、ゆっくりと前進していく。

 左手に大盾ラージシールドを、右手に剣を。いつでも対応できるように構えて慎重に……

 広間に少し入ったところで左右を確認し、ほっとしたようにこちらを向く。


「大丈夫です!」


 その声に私たちも安心して歩を進める。

 まあ、あんなアンデッド熊が何匹もいるようだったら、もっと上の階で苦労してるよね。


「翔子君、チョコ君。前と同じように向こうの通路を塞いでおこう」


「「はーい」」


 樹洞うろ調査をしたときのように、下の階から魔物に乱入されないよう、第七階層へと繋がる通路を石壁で蓋しておくことに。


《起動》《石壁》


 いい感じに慣れてきたかな? 確かに漠然とぬりかべっぽく作ろうとするよりも、頂点をこことこことーって指定する方が綺麗になるなあ……


「いいね。もう異端の白銀も翔子で良くない?」


「うーん、それも考えなくもないけど、師匠が欲しいかな……」


 強者っぽいおじいちゃんか、クセのあるおばあちゃん希望。できればツンデレでお願いします。


「魔法の師匠ってことだよね?」


「うん。なんかこう最初は『こんな出来の悪い弟子は初めてだ』とか言われるんだけど、最後には『もう教えることはない』とか言われたい」


 言われたいだけというのは置いとくとして、そもそも『正しい使い方』を見たことないんだよね。

 なんとなくゲームとかアニメのイメージで「こういう感じ?」っていうノリでしかないし。


「二人とも、そろそろこっちへ来てくれ」


「っと、行きましょ」


「うん」


 神樹の根元で待機なんだけど、特にすることもないのでおやつタイム。

 なんか館長さんがもらって余らせてるクッキー、ベルトポーチに詰めてきたのをもぐもぐする。


「ワフッ」


「ヨミも食べる?」


「ワフワフ」


 クッキーを嬉しそうにもぐもぐするヨミなんだけど、狼なのにクッキー美味しいのかな。そんなに甘くない高級クッキーだから?


「あ、あー、聞こえるだろうか? いや、居るだろうか?」


「ぐふぉ! ふぁい! います!」


 急に声が来たので。むせて咳き込むところだったよ……


「了解だ。今から移動するので、もし近くにいるようなら少し離れてくれるか」


「はーい、大丈夫です」


 一応、立ち上がって少し離れると、樹洞うろが徐々に広がっていく。

 うーん、精霊魔法すごい。元素魔法はすでにある物をどうにかはできないっぽいんだよね……

 しばらくして変化が収まったので、こちらに向かってるはず。


「ディアナさんともう一人だったよね」


「うん。詳しくは会ってみてのお楽しみって書いてあったけど」


 カスタマサポートさんの推薦というかチョイスらしいので、酷い人が来ることはないと思うけど、はてさて……


「ワフッ!」


 ヨミには見えてきたのかな。自分もしゃがんでみたくなるのをグッと我慢しつつ待つ。

 と、ゴソゴソと音が聞こえてきて、それから綺麗な金髪が現れる。


「ふう、待たせたようで申し訳ない」


「あ、え、いえいえ……」


 エルフ美女が爽やかな笑顔でとても絵になるはずなのに、なぜ体半分が樹洞うろに入ったまま、四つん這いで話すんだろう……


「ディアナさんー、早く出てくださいー」


「ああ、申し訳ない!」


 後ろからそう聞こえて来て、慌てて四つん這いのまま前進する。しゃかしゃかと。

 チョコが見かねて差し出した手を取って立ち上がると、やっと普通のエルフ美女になった。

 そして……


「はあー、盾と鎧は別に送ってもらった方が良かったですねー」


 そう言って立ち上がったのは白銀の鎧に大盾ラージシールドを持った美女。

 こ、これはひょっとして……


「こちらは白銀の館ノティア支部のギルドマスターでマルリー殿だ」


「どうもー、マルリーですー。十七歳ですー」


「「おいおい」」


 思わずそう突っ込んでしまったが、マルリーさんはそれを聞いてにっこりする。


「ヨーコが言ってたのは本当だったんですねー」


「あー、すまない。こちらも自己紹介させてもらっていいだろうか?」


 意味がわからない智沙さんが、真面目な方向に軌道修正をはかる。すいません……

 智沙さん、私、チョコの順に自己紹介を終え、


「ワフッ!」


「ヨミちゃんはこっちに来てたんですねー」


 どうやらマルリーさんはヨミのこと知ってたっぽい。

 で、それはいいとして!


「あの、えーっと『永遠の白銀』マルリーさん、ですか?」


「はいー、そうですよー。その呼ばれ方をするのも久しぶりな気がしますねー」


 顎に人差し指をあてて首をかしげるその仕草。間違いなく『白銀の乙女たち』のメイン盾『永遠の白銀』マルリーさん。


「サ、サインとかもらっとく?」


「その大盾ラージシールドの裏にしてもらうとか?」


 というか、今のチョコの姿、本当にマルリーさんの装備そっくりなのね。

 背丈はマルリーさんの方が大きくて、智沙さんと同じくらいあるんだけど、これでも巨人族ではかなり小さい方らしい。


「この二人で第七階層以降の調査を手伝うことになったので、よろしくお願いします」


「ええ、こちらこそよろしく」


 がっちりと握手する智沙さんとディアナさん。

 さて、第一から第六に魔物がいないかの調査も終わってるし、今日はもう帰るだけかな?


「本日の営業は終了しました?」


「かな?」


 と話していると、


「ああ、少し待ってくれ」


 ディアナさんが神樹の方へ。ああ、ごめんなさい。樹洞うろに道を開けたままでした。

 幹に両手をあてて、何かしらささやくと樹洞うろが元へと戻っていく。なるほど、これが精霊魔法なのね……


「あのー、ディアナさんってすごい人なんですよね?」


「そうですよー。すごい残念なんですー」


 あ、やっぱりその認識は間違いじゃないんだ……

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