38. 翔子と次元穴

《起動》《石壁》


 第七階層への階段につながる通路を石壁の魔法で塞ぐ。

 ダンジョン内だと魔法でできた物質は一日ほどで消えるらしいけど、今日の作業の間の安全を確保できれば十分。


「おー、翔子も魔法上手くなってきたね」


「まあ、ただの壁作るぐらいならねー」


 頂点八つの直方体をイメージするだけだし。前回みたいに鉄砲狭間とか作らなくていいならサクッとサクッと。……ちょっと近くで出来を確認。凹凸もなく綺麗に出来てるね。よしよし。


「では、始めようか」


「「はーい」」


 智沙さんがマイクロビデオスコープとかいうのの準備を終えた模様。

 なんか超お高い奴らしく、直径三センチ弱のチューブの先についたカメラが隙間に入って中を映してくれるらしい。

 先端にはLEDライトが付いているし、手元で先の方まで自在に曲がるので、内側が入り組んだ構造になってても奥まで覗けるんだとか。


「チョコ君、まずは少しだけ管の先を樹洞うろへと入れてくれ」


「了解です」


 その先端が樹洞うろへと入ったところでLEDライトが点灯して樹の内部を照らし出す。

 そして、手元のタブレットにはそこからの画像が映し出された。


「すご〜い〜」


「た〜のし〜」


「チョコ君、少しずつ管を奥へ」


「はーい」


 チョコが奥へと管を押し込んでいくと、画面もそれに従って進んでいく。

 右へ左へ、上へ下へと進んで行って……なんか広い空間に出た?


「チョコ、ちょっとストップ!」


「ラジャー」


 樹の内部は何か住んでるというわけもなく、これといって珍しいものもないんだけど、はて、ここで行き止まりなのかどうかがわからない。


「翔子君、その右上のメニューから操作パッドを選んでくれ」


「あ、はい」


 そのように選ぶと、タブレット画面の右下と左下にジョイスティックのようなアイコンが現れる。

 あ、これはスマホゲーでよくあるバーチャルスティックですね。わかります。


「なるほど。こうかな?」


 右スティックで首を上下左右に向き変更、左スティックは上下左右の平行移動。よくある入力パターンと同じかな。

 というわけで、向きをグルンと内部構造の確認を。この部屋を区切ってるような断層の壁があるとゲームオーバーって感じだけど……


「ん? これは繋がってる?」


 右斜め上に更に奥、いや、向こう側へと続く隙間が見える。

 左スティックの平行移動でそっちに向かってまっすぐになるよう調整。


「おけ。チョコ、ゆっくり押し込んでいって」


「わかったー」


 そろりそろりと進むカメラを上下左右に微調整し、隙間を縫うように角度を変えて進んでいくと……


「お、明るくて部屋っぽい? こっちのどこかに出ちゃった?」


「いや、そんな様子はないな」


「じゃ、ひょっとして向こう側に出れた!?」


 画面を覗きつつ、右スティックで上下左右を見回すと……


「足? え、あ、近寄ってきた!」


「ちょっ! 魔物とかじゃないよね? 引っこ抜く?」


「え? あっ! ええっ!?」


 しまった。魔物がこれに気づく可能性もあったんだった!


「大丈夫だ。チョコ君、壊されても構わないからそのままでいい」


「は、はいっ!」


 智沙さんがそう言って、タブレットを覗き込む。

 足っぽいものがだんだんと近づいてくるので、向こうでも膝ぐらいの高さに出てる?

 ん? しゃがんで……正座? 両手を付いて土下座するようにカメラを覗き込んだのは……女性?


「翔子君、ちょっと」


 と智沙さんがメニューからマイクのアイコンをタップすると、


『……だろうか? あーあー、聞こえるだろうか?』


「え、こっちからって音出せないですよね?」


「む、そうだな。音を拾う用途はあるが、出す用途はないからな……」


 ぐぬぬ、とりあえず肯定してみよう。カメラで。

 右スティックでカメラを縦に振る。首を縦に振ったのと同じと思ってくれるかも?


『ふーむ、そちらから話せるか?』


 カメラを横に振る。こっちからは音声ダメですが伝わるといいけど。


『なるほど、少し待ってくれ。風の精霊よ』


 ひょっとして精霊魔法!?

 と思った次の瞬間、樹洞うろから風が吹き抜け、そこから


「聞こえているか? 聞こえているなら返事をしてくれ」


「聞こえてます!」


 すごい! 風の精霊に音を運ばせてる?

 聞こえますか? 今、あなたの精霊に直接話しかけています……


「ふむ、会話はできるようだし、どうやら神樹のおかげで次元の断層を無理なく渡れそうだな」


 マジで!? ということは、ゼルムさんたちが帰還……いや、狭すぎて無理だこれ。

 とはいえ、神樹に穴を開けるとか削るとかはダメだよね。うーん……


「失礼。ここにはこちらの世界の『白銀の館』メンバー三人がいる。翔子、チョコ、智沙だ」


「ああ、申し訳ない。私は『白銀の館』グランドマスターのディアナという。皆さんのことは聞いているので安心して欲しい」


 え、グラマスさん? ということは、この人がカスタマーサポートさん? すっごく若いし、よく見ると耳が長くて……ああ、エルフ? この人が賢者?


「了解した。こちらで救出した人を送り返す方法を模索していたのだが、この神樹を掘るというような方法はありだろうか?」


「いや、それはやめて欲しい。傷をつけると加護も無くなるだろうし、何より樹が可哀想だ」


 おおー、なんかエルフっぽいセリフだよ!

 けど、神樹でどうこうは無理っぽいし、似たような感じの次元の壁を跨いでる物を探さないとダメなのかな。


「ん、よし。今、こちらに見えている管だが、しばらくこのままにしておけるだろうか?」


「え、はい。可能ですけど」


「では、風の精霊は戻すが、しばらくそのままで頼む」


 ん? どういうこと? 傷つけるのはダメって言ってたし、穴を広げたりするわけじゃないよね?


『樹の精霊よ』


 風の精霊が帰ったためか、マイク越しの声が聞こえたと思ったら、樹洞うろの形がゆっくりと変化し始めた……


「え、これって……」


 あのエルフさん、ディアナさんが樹に無理なく変形させてるんだよね?


「あ、これくらいなら、四つん這いで通れそうかも」


 チョコがその大きくなった樹洞うろを覗き込む。

 確かに私とかなら四つん這いでいけるだろうけど、ゼルムさんたちドワーフや、イケメンは匍匐前進になるんじゃない?


「むー、真っ直ぐになったわけじゃないんだ。暗くてよくわかんないけど、途中の空洞ぐらいまで降ってる感じ?」


「私も見たいからちょっと交代して」


 チョコにタブレットを渡して樹洞うろを覗き込むが、確かに降って行った先が真っ暗。

 なんかこういう時のための魔法とかなかったっけ? 魔導拳銃のセーフティーになってる指輪に魔法があったような……ん?


「どうしたの?」


「なんか居たような気がした。さっきのディアナさんがこっちに向かってるとか?」


「いやいや、誇り高いエルフが四つん這いで穴を潜ってくるとかないない〜」


 わざとフラグを立てていくスタイルね。

 ん、やっぱり何かいる。ディアナさんかな? って白い何かが近づいてくる!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る