26. 翔子と情報不足

「ふう、お疲れ様でした〜」


「おう、お疲れ!」


 屋敷に戻ってきて車両後部から降りる。

 後は報告すれば終わりだけど、今日は館長さんはいるのかな?


「お疲れ様でした。翔子さんとチョコさんは報告に来てもらえますか?」


「「はーい」」


「ワシは皆のところに戻っておくぞ」


 と片手をあげて去っていくゼルムさん。

 それを見送ってから本邸へと入る。またあの広い応接室かな。


「翔子さん、チョコさん、今日は館長はいません」


「え、そうなの?」


「はい。なので、私の方で報告をまとめてお伝えします」


 んー、館長さんがいないとなると、第四階層への階段の件をどうするか悩ましい。

 普通に考えれば、階段を塞いでいる雑草を取り払って先へ進むべきなんだろうけど、それで本当にいいのかちょっと不安がある。

 それをやると地面が崩れるとかはさすがに……ないよね?


 メイドさんが私たち四人分のアイスコーヒーを置いて退出したところで、昨日と同様、智沙さんが今日の出来事を淡々と説明していく。

 まあ、救出した人もいないので、今日の報告のメインは第四階層への階段の件。あの草に塞がれた階段をどうするかは館長さんとも相談したかったんだけど。

 ということで、撮った写真を美琴さんにも見せる。


「なるほど。これは困りましたね……」


「それで明日どうしようかなって」


「うむ。あの雑草の壁を撤去するとなると、ゼルム殿以外のドワーフにも助力願う必要があるだろう」


 あー、なるほど。智沙さん、普通に伐採してって感じで考えてたのね。

 私はダンジョンの植物だから、何かギミックで消えるんじゃないかと思ってた。消えるっていうか、わさわさ引いていく感じ?


「それなんですが、館長から『明日は休日にしろ』と連絡がありました」


「「えっ?」」


 驚く私たちだけど、


「ふむ。確かに一日休息を挟むべきだろうな」


 智沙さんは賛成らしい。


「でも、まだかなり捜索対象の人たちが残ってる気がするんですけど……」


「それはそうだが、無理をして我々が倒れでもしたら、余計に遅れることになる」


「そうですよ。それに問題の階段部分については、あちら側のカスタマーサポートさんにも聞いた方がいいんじゃないですか?」


 うーん、そう言われると反論できない。

 二日潜って特に無理はしてないつもりだけど、精神的な疲労は確かにある……かな。


「じゃ、明日はゆっくりします。けど、その前に向こうに聞かないといけないことをまとめないと」


「はい。気になってること、どんどん言ってください」


 さて、結構たくさんあるけど何からと思ったら、智沙さんが堰を切ったように話し始める。


「まずは捜索対象者リストの更新が必要だ。我々が助けた七人のドワーフ以外にも、向こうで救出した人がいるかもしれない」


 そりゃそうだよね。救出済みの人を探す徒労は私も嫌だ。


「次に、捜索対象のグループ分けと可能な限りの対象の情報が欲しい。年齢、性別、身体情報、遭難時の行動箇所などだ。ゼルム殿たちはまとまって行動していたし、他のグループもおそらくそうなのだろう」


 これも納得。特に第四階層以下に魔物退治に入ってるならパーティーで行動してるはず。

 パーティーとそのメンバー情報はできる限り欲しい。


「最後に各階層の特徴だ。第一から第三まではもう不要だが、第四以降がどのようなものなのかを、事前に知っておきたい。草に塞がれていた第四階層が『おかしくなって』ああなってしまったのかどうかはかなり重要だ」


 これにも納得。っていうか、一番重要な情報な気がする。

 向こうはもう第七階層までは行ってるらしいから、そこまでの情報ぐらいはくれてもいいんじゃないの?

 なんかこう、私たちだけ縛りプレイをさせられてるみたいで怒りゲージが……


「翔子さんたちからはありませんか?」


「智沙さんが全部言ってくれた感じです。というか、今まで情報無しで動いてたのは無謀だったかなと。あと、カスタマーサポートさんにちょっと怒っていいかも?」


「怒るべきだろう。今後の捜索については、それらの情報が来ない限り行わない方がいい」


 強い口調の智沙さん。既に怒りゲージマックスっぽい。

 館長さんからの命令の手前もあって自分の意見は抑えてたみたいだけど、ゼルムさんから『危ないダンジョン』の話を聞いちゃったしなあ……


「え、えーっと、翔子さんはどう思います?」


「まあ、智沙さんに賛成かな。ゼルムさんからたちの悪い罠の話とか聞いちゃったので、チョコがそれに巻き込まれるとかは……」


 自分の半身が罠にかかって……チーンとかなったらメンタルクラッシュすると思う。いや、確実にする。うーん、これって魔導人形を使う上での構造的欠陥なのでは?


「うん、目の前でチョコが倒れたら、私、立ち直れないと思う」


「翔子君、それは普通の感性だ」


 と智沙さん。あ、チョコが魔導人形だってのを知らないままだっけ。まあ言わなくていいか。


「わかりました。しかし、どうしましょう。館長ならともかく、私からの手紙でその深刻さが伝わるかどうか自信がありません」


「じゃ、それに関しては私の方で書くよ。ゲームじゃないんだから、ちゃんと安全にダンジョンを攻略できる情報をくださいって」


 自分とチョコがゲーム感覚だったことへの反省も含めて、かな。

 今日なんか魔物出てこなくてつまんないなって思い始めてたし……


「ありがとうございます。では、私は今日の報告内容だけを書きますので、要望は翔子さんの方から別に書いてもらえますか?」


「うん。戻って部屋で書くよ。えーっと、書いたら……」


「夕飯前までは私も部屋にいますので」


 智沙さんもそれで問題ないとのことで、今日の館長なしの報告会は終わりとなった。


***


「ん、いいと思う」


 書き上げた要望をチョコに読んでもらっておかしくないかを確認してもらった。

 前半は主に智沙さんが言ってた要望について。後半は私が危惧してること。ダンジョンが悪い方向に変容していたりする危険性や、チョコが危険な目にあった時の私の精神に与える影響の問題について書いた。


「どうしたの?」


「ああ、うん。『母さんです』ってアレはさすがに嫌だなって」


「ダンジョンの中にバイク戦艦はいないと思うよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る