第6話 せんぱい次第では…
今は昼休み。
俺は教室で雪乃が持ってきてくれた弁当を一緒に食べている。
しかしながら、転校生が初日からクラス一の美女とイチャイチャしていたらもちろん好奇の目に晒されるのは必須である…
「はい、せんぱい!あーん♪」
「は、恥ずかしいよ雪乃…」
「誰の目を気にしてるんですか?見られてまずい人がいるのかなー?」
「い、いないいない!いただきます…」
「ふふ、美味しいですか?」
「う、うん!美味しいよ、雪乃の弁当は本当に美味しいなぁ…はは、ははは」
「嬉しい♪毎日こうやってせんぱいとお昼食べられるなんて私もう幸せすぎます♥」
みんな教室にいるというのに雪乃はキスを迫ってきた…
「ダ、ダメだって!さすがにそこまでは…」
「え、私はせんぱいとのキスなんて誰に見られてもいいですよ?それともやっぱり…あ、虹子ちゃんですね?」
「なんでそうなるんだよ!普通に恥ずかしいだけだって…」
「ふーん、せんぱいにも羞恥心とかあるんですね?でもでもー、他の人の好感度とかいらなくないですか?私がいるのに」
「そ、そういう問題じゃないだろ…」
それにあんまり学校で目立ちたくないという気持ちもある。
俺は化け物だ。もし何かあって不死身がバレたら大騒ぎになる…
俺を推薦してくれた雪乃の立場もなくなる…
それにもし誰かといざこざになったりしても困る。
こっちにその気がなくても、万が一喧嘩にでもなって相手を傷つけたら…
別に自分のことは諦めているつもりだが、俺はあまり人と関わっていいものではないという自覚はある。
だと言うのに…
「ね、せんぱい?二人で学級委員しませんか?あとあとー、部活はなにしますか?私も実はまだ何も入ってないんですー♪」
「これ以上目立ちたくないのに…」
雪乃は俺と学校に通うことが楽しくて仕方ない様子だ。
まぁここまで俺のことを好きでいてくれる彼女の存在自体は嬉しいのだが、もう少し柔軟な対応というか融通を利かせるということはできないものか…
とりあえず今日の放課後は二人で駅前をデートするということで諸々を収めた。
午後は誰かに話しかけられないようにずっと寝たふりをしていた…
そして放課後
「せんぱい、タピオカ飲みたいな♪」
「いいよどこでも。俺はおしゃれなところとか知らないし…」
「ですよね!せんぱいって私服とかもダサいですもんね♪」
「え、そう言われるとショックだな…それならお洒落頑張ろうか…」
「え、なんでですか?何に対してお洒落するんですか?」
「え、いやだって…」
「はっきり言えない理由ですか?女…ですね」
「い、いやそれはもちろん雪乃のか、か、彼氏としてかっこよくありたいと…」
「えー、せんぱいは今のままでも十分かっこいいですよ♪でもでも、おしゃれを学びたいって向上心は流石ですね!」
「そ、そうだろ?やっぱり俺もまだ17歳だし」
「褒めてませんよ?なんでそんなにお洒落したがるのかって話です」
「え…だからそれはさっき言ったように…」
「嘘です。半年前はそんなこと一切気にしてませんでしたよ?ねぇ、クラスの子ですか?それとも他のクラス?あ、もしかして登校中にいい子見つけたとか?それともそれともー、やっぱりこの半年で悪い女に唆されて」
「話が飛躍しすぎだって…べ、別にお洒落は雪乃の前だけでいい…」
「まぁ♪でも私の前なら何も着てても、いえ着てなくても素敵ですよせんぱいなら!」
俺は雪乃についていきながらある事を祈った。
頼むから店員さんは可愛い女の子とかじゃありませんように、と。
しかしだいたいタピオカみたいなお洒落な飲み物を売ってるのはアルバイトの女子大生と相場は決まっていたのである…
「着きましたよせんぱい!ミルクティーかいちごミルクがオススメなんです♪」
「じゃ、じゃあそれを一個ずつ頼む?」
「はい♪」
「すみません、これとこれ一つずつください」
俺は店員の女性に当たり前のように注文をしてお金を渡した。そしてお釣りをもらって商品を待った。
あとはドリンクをもらって雪乃に一つ手渡した。
…これのどこにおかしな部分があった?
しかし明らかに雪乃のテンションは下がっている。
店員とは目を合わせていないし俺は笑ってもいなかったはずなのに…
「せ、せっかくだからあのベンチに座って飲もうよ?」
「そうですね、そうしましょうか。色々話ありますし」
え、話ってなに?
もしかして別れようとか…
いや、それならそれでむしろいいんだけど…
恐る恐るベンチに腰掛けてからゆっくりと雪乃の方を見た。
「な、なぁ雪乃…怒ってる?」
「へぇー、ご自分が何かしたという自覚はあるんですね。」
「な、何をしたんだよ俺が…」
「さっきの店員さん、そんなに可愛かったですか?」
「え、いや見てないよ…目も合わせてない…」
「それって、可愛くて照れてしまうから避けてるんですよね?あれがおばちゃんだったらそんなことしませんもんね?ね?」
雪乃の目はプカプカと浮かぶタピオカをジッと見つめていた。しかし普通の女子高生がタピオカを見る目とは明らかに違う…
「いやそうじゃなくて雪乃がだな…」
「あ、私のせいなんですね…そうですよね、私って本当にめんどくさい女なんですよね。せんぱいに気を遣わせて…」
「ち、違うそうじゃないんだ…」
俺はまずい地雷を踏んだ…
雪乃にはメンヘラの悪いところだけがステータスとして習得されているのだ。
だからこうやって自分のせいでと言われると落ち込み自虐的になり、そして最後は…
「わかりました、私死にますね」
こうなるのだ…
「バ、バカなこというなよ!今日はデートだろ?俺は楽しみにしてたんだ!だから機嫌なおして楽しも?」
「え、デート…ですか?」
「そう、デートじゃん!この後ご飯も行こうよ?」
「はい♪絶対行きます!せんぱいからデートって言ってくれるなんて…私幸せです♪」
よ、よかった…
なんとか機嫌回復したかな?
しかし毎日下校の度にこんなんじゃ俺の精神がもたない…
「せーんぱいっ♪どこに食べにいきます?」
「そ、そうだな…全然お洒落じゃないけどラーメン食べたいかな?」
「いいですよ、私はせんぱいとならどこでも楽しいので♪」
多分嫉妬という感情が人から消え去ったら、雪乃はこれ以上ない彼女だと思う。
可愛くて基本的には素直でこんな俺のことを愛してくれている。
でも、復縁したことにはなっているけどまだ彼女と心の底から付き合う気にはなれていない…
それは多分俺の問題もある。
一生この体なのだとして、俺はただの不死なのか、それとも不老不死なのか…
そんなこともわからないまま誰かと付き合って幸せになるなんて出来るのだろうか?
「せんぱい、ラーメン屋ありますよ!」
「ああ、ここにしようか」
そういってドアを開けると若い女の子のスタッフが俺たちを迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!あ、雪乃?それに転校生の彼氏さんじゃん!」
「あ、マッキー!」
「いいなー、放課後デートとか。さ、座って座って!」
どうやら同級生のようだ。
「雪乃、あの子知り合い?」
「はい、同じクラスの
この類の質問は本当に困る…
可愛いと答えたら嫉妬の槍が降るのは確定しているが、雪乃の友達を貶すこともまた、万死に値する。
つまりこの質問が来た時点で俺は…詰んでいる。
「あ、ああそうだな…でも雪乃の方が可愛いけどな」
「えー、せんぱいったらお上手♪」
「い、いやそんな…」
正解か?
雪乃が笑っている。
これはどっちの微笑みだ…
「でも、そんなこと誰にでも言ってますよね?」
やっぱりダメだった…
「い、言うもんか!俺はこんなこと雪乃にしか言わないよ…」
「本当に?」
「あ、当たり前だ!神に誓う!」
「よかった♪マッキー可愛いからせんぱいが目移りしないか心配で…」
「しないよ…」
ていうかできないだろ…
頼むから薬味を取るためのトングを置いてくれ…
カチカチしないでくれ…
一体何を掴むつもりなんだ…
そして頼んだラーメンが無事届いて二人で食べていると、また須藤さんが俺たちに話しかけてきた。
「ねぇ雪乃、明日みんなでカラオケ行こうって話してるんだけどどう?よかったら彼氏さんもさ!」
「わー、いいねそれ♪じゃあせんぱいも一緒にいきましょ?」
「え、いいのか?」
「あれ?何か他に用事あるんですか?」
「な、ないよ!行く行く!」
ラーメンの味はあまりしなかった。
須藤さんという爆弾がうろつくこの店を一秒でも早く出たくて必死でラーメンを啜った…
そして店を出る頃にはすっかり外は暗くなっていた。
雪乃は迎えが来るそうなので、駅前で待つことにした。
「はー、美味しかった!じゃあせんぱい、また明日迎えにいきますね♪」
「うん、今日は久々にデート楽しかったよ。」
「私もです♪あ、迎えがきましたね。それじゃせんぱい、おやすみなさい♥」
雪乃におやすみのキスをされた。
そして車に向かう彼女の背中を見ながら、不死であるにも関わらずなぜか今日も生きたと実感する自分がいた…
俺の肉体は不滅だけど、このままだと精神が崩壊してしまいそうだよ…
「あ、そうだ!」
何か思い出したように引き返してきた雪乃は、俺の近くにきて、耳元で囁いた。
「マッキーのこと、目で追ってたの見てましたから」
その言葉に背筋が凍った…
俺はたしかに彼女の気配を追っていた。
それは彼女と不意に目があったりすることのないようにするための自己防衛であったのだが、そんな言い訳は通じるはずもなかった。
「い、いや気のせいだよ…」
「ふーん、私が気にしすぎってことですか?そうですか、わかりました。でもねせんぱい…」
「な、なんだよ…」
「せんぱい次第では明日マッキー学校休むかもね」
「え…」
「じゃあせんぱい、おやすみなさい♪真っ直ぐ帰ってね」
最後の瞬間の雪乃の顔が忘れられない。
俺を見ていた、いや…俺の奥にある何かを、その先にある何かを透視するような焦点の合わないあの視線に怯えながら俺は、頼むから何もありませんようにと祈った。
そして別れた瞬間から訪れるメールラッシュに考える間もなく返信した。
ただ一心不乱に、何かに取り憑かれたように返信した…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます