第3話 仮説推論
『まず、足跡から見ていただきましょう。ほらつま先の方が無いですよね。熊のような
淀みなくそう告げるのは人ではなく、『アイリーン』と呼ばれるAIだ。声に機械ぽさは無く街中で聞いても素通りしてしまいそうなほど普通の女性の物に限りなく近かった。
このAIの推理を聞いた周りの刑事たちは感嘆するか、もしくは面倒臭いことになって若干顔をしかめるかの二極に分かれる。
ただ、彼の反応だけはその場にいる誰とも違った。
彼は少し面白くなさそうにスマホを見つめていた。まるで今日のごはんがハンバークから野菜炒めに変わった子供のように。
というのも先ほどAIが口にした推論は彼がもう頭の中で組み立てていたものだからだ。
出鼻をくじかれた彼は、ずかずかとスマホに詰め寄り、若干震える声でスマホを指す指を震わせながら言った。
「いや~さすがだな~。この僕と同レベルの推理ができるなんてさすがだな~」
勿論普段の彼はこんなことを言わない。それを知っている周りの刑事は「子どもかよ」と笑い交じりに彼にツッコミを入れる。
しかし、当の彼女は、駄々をこねる子どもを冷たく見据える女性のように
『なんですか? あなたの脳はお子様なんですか?』と冷たくあしらう。この氷のような口調に彼を含めた周りの刑事は少し驚く。いくらAIとはいえ初対面にそんなことを言うのか。
だが彼も負けてはいない。
「いやあー流石だなと思っただけなんですけどもねえ」
『フッ負け惜しみを』
「ちょっとー誰かハンマー持ってない、ハンマー?」
「これ俺のスマホなんですけども!!!?」
……彼は負けた。
「ちょっと下にいる人たちに電話する」と言ってどこかに消えてしまった。当分戻っては来ないだろう。
ちなみにその後……
「ありがとうね、本当に」と中村がお礼を伝えると照れたような『べっ別に!!』と彼女が返した。
先ほどの口調との乖離が大きすぎる一言。
一瞬の沈黙の後、「これ作った人、ツンデレが趣味なんやな」そう誰かがボソッと呟く。
刑事達は顔の見えない開発者に若干ドン引きした。
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