第22話 かつての同級生との遭遇

栗葉がこう言った。

俺に対して真剣な眼差しで.....まるで俺を見透かす様な感じで。

絵を描きたい、と。

俺は驚愕で仕方がなかった。

そんな事を栗葉が言い始めるとは思わなかったのだ。


予期する事も出来なかった。

しかも栗葉は俺の絵の彩色を手伝いたいという。

そんな事まで、と思う。


俺に付き合わなくても良いのに、と。

それも思ってしまうが.....。

と考えながら俺は美術館の中を見て回る。

今日は.....昔の絵の巨匠、橋本泉の展覧会らしかった。

それを指差しながら姫野は笑みを浮かべる。


「栗葉ちゃん。先ずはね。絵を描く基本。それは先ず.....キャンバスに命を吹き込む準備をする、そしてキャンバスに命を吹き込む為の相棒を探す。これが大事なんだ」


「ふむふむ」


「.....でね、絵を描く目標が立ったら今度は想像してみるの。キャンバスに絵の完成を。それから先ずは木炭で下書きだね。木炭が無かったら.....そうだね。鉛筆でも構わないよ。それで.....下書きを描き始めてから.....うん。次は彩色。それも大切だけど.....それよりも先ずは色を決めるの」


「.....へぇ.....」


彩色は命だからね。

それが失敗したら意味が無いからね、と姫野は真剣な眼差しで目の前の油絵をジッと見つめながら栗葉に力説する。


まるで教師と生徒の様な感じだ。

いや、娘と母親か。

正直言って.....栗葉が絵に興味を持つとは思わなかった。


これ程.....嬉しい事はないな。

考えながら.....俺は栗葉を見る。

真面目に勉強して必死にメモを取っている栗葉を、だ。


「でね、因みに水彩画が描きやすいかも知れないね。油絵もそうだけど.....人には合うもの合わないものがあるし。絵は生き物だしね」


「.....そうなんですね」


「.....うん。だから.....でもそんなに深く考えなくて良いよ。自分の描きたい、色を着けたいものを想像して思いっきり個性豊かな作品を生み出すのが一番大切だからね」


「.....そうなんですね!」


「そうそう。それは.....何だって同じだよ。例えばそうだね。料理。そして.....漫画とか.....小説とか。描きたい、作りたいものを作ったら.....一番ベストなんだ」


俺は.....姫野を見る。

姫野は何だか嬉しそうだった。

まるで.....本当に母親の様だな、と思う。

俺は考えながら目の前の作品を見る。

そこには.....タイトルがこう刻まれている。


(友人の歯車)


「.....!」


俺はその絵に引き込まれそうになった。

何故ならその絵は.....車椅子の女性を引いている男の風景画だ。

いかん、何だか複雑な思いになってしまった。

有希を下半身付随にした.....あの日を.....。

だけど.....。


「大丈夫だよ。道春さん」


「大丈夫。私達が居るから。一人で悩まないでね」


二人が俺を支えてくれた。

左右から、だ。

そして俺の手を握ってくれる。

愛しい人が、優しい友人が、だ。

俺は母性と慈愛に満ちた.....二人を見つつ胸に手を添える。


「有難うな。聖母みたいだなお前ら」


「.....アハハ。有難う」


「道春さん。恥ずかしい」


「.....」


そうだ。

痛みは共有出来る。

仲間が居るから、だ。

だから俺はもう大丈夫。

前に進む事が出来る筈だ。


「じゃあ再開しようか。えっとね。栗葉ちゃん。つまり纏めちゃうと絵は本当に生きているから。どう色を着けてあげるかが鍵だよ」


「.....は、はい!」


「.....良かったな。栗葉」


そうしていると。

背後から、アレェ?山本じゃね?、と声がした。

俺は?を浮かべて振り返ると。

そこに、そこに。

俺が見たくない顔があった。


「.....石原....」


「アンタ、どの面下げてこの場所に居るの?.....絵をまた描こうっての?下半身麻痺になったんだよね?小林が。そんな事をしたお前は贖罪すべきだし?お前が言って傷付けているんだし?絵を描く権利は無いと思うけど」


「.....」


石原琉水(いしはらりゅうすい)。

女子だが.....今は思いっきり不良になっているな.....。

そんな格好だしな。

俺は溜息を吐く。

栗葉も姫野も警戒している。


「何でお前が此処に居る」


「え?あー。私は美術館とかめちゃ下らねぇんだけどよ。何だか行き場所ないしー的な感じだね。適当に来たらこんな感じ」


「.....そうかよ。じゃあな。お前とは口を聞きたくない」


「何処行くの?この犯罪者」


流石にこの言葉に栗葉がピキッと音を鳴らした。

そして貴方ねぇ!!!!!、と詰め寄る。

俺はその栗葉を止める。

それから.....俺は石原を見る。


「.....お前の様なクズに会えて良かったよ。でもな。.....俺はお前以上に今幸せなんだ。残念だったな。お前みたいに不良のクズにはなってない」


「.....あ?テメェ言わせてみりゃ何言ってんだ?」


「.....だからな。お前とは違う。勘違いするな」


栗葉、と俺は向く。

それから姫野、と見た。

取り敢えず出よう、という感じで、だ。

そして俺は石原に頭を下げてその場を立ち去った。

栗派の手を握りながら、だ。


腹が立つのでぶん殴っても良いが。

出禁になったりするかも知れないし、それに拳を汚したくないし。

あんな粗大ゴミに使う必要は無い。

そう思って俺は後にした。

栗葉はかなり怒りながら俺を見てくる。


「道春。.....大丈夫?」


「お前の拳が汚れるのは嫌だから」


「.....優しいね。山本君」


「当たり前だ」


だがクソッタレ忌々しい。

思いつつ俺達は美術館をそのまま後にしてから。

そのまま外に出た。

それから.....俺は姫野に向く。


「すまないな。姫野。嫌なもん見せてしまって」


「ううん。格好良かったよ。君」


「.....栗葉も」


「.....私は全然。嫌な人も居るね。やっぱり。腹立つ」


「それが人生ってもんだ。.....落ち着いてくれ」


俺達はそれから土産物屋さんに行ってから。

そのまま俺達は姫野と別れた。

そして栗葉と一緒に帰宅の途に着く。


最後の最後に嫌な事があったな.....。

俺は少しだけ抑え気味に.....その様に思う。

人生楽ありゃ苦もあるさ、だな.....。

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