第20話 自覚する時

画材を見に来た。

俺と栗葉は画材を見つつ.....、あ。この色良い、とか話し合う。

栗葉は笑みを浮かべて俺を見てきながら.....柔和になる。

俺はその事に穏やかに反応する。


「お前はどんな色が好きだ」


「.....私?.....私はスカイブルーだよ。何でかって言えば.....お兄ちゃんが何時も使っている色だったから」


「.....お前.....」


「.....細かい所も見ているでしょ?アハハ」


「.....だな」


俺は見開きながら栗葉を見る。

栗葉はニコニコしながら俺を見ていた。

その事にスカイブルーを手に取る。


絵の具の、だ。

懐かしい。

こうやって.....昔は画材を沢山買っていたのだ。

それも表彰されたお金で、だ。


その為に今日も母さんと高安さんから、画材買うなら、とかなりのお金を貰ってしまったが.....使うのが勿体無い気がする。

困ったもんだな。


「.....画材のお金、結構貰って来たよね。.....どうするの?」


「5万円も貰ってしまったしな。それなりにやる気を見せないといけないけど.....」


「.....でも無理はしないで良いと思う。ね?」


「.....」


絵を描くとはどういう事なのか。

先程のエッセイの話を読んでから更に考えが変わった。

人の為に描くとは.....どういう事なのか。

俺は真剣な顔で目の前の絵の具を見つめる。


「.....そうだな。先ずはお前の絵を描きたい」


「.....え?.....え!!!!?」


最初にわ。私の絵!?、と赤面する栗葉。

俺は頷きながら.....栗葉を見る。

何故、栗葉の絵かと.....言えば.....あれ?

愛花とか姫野も居るのに俺は栗葉の絵を描きたいんだ?

思いながら俺は顎に手を添える。


「.....?」


「お、お兄ちゃん?」


「.....なあ。栗葉。俺って.....何でお前の絵が描きたいんだと思う?」


「.....ふえ!?」


真っ赤に赤面しながら俯く栗葉。

俺は顎を撫でながら考えるが.....全く答えが浮かばない。

すると栗葉が.....その言葉に答えた。

この様に、だ。


「そ、それはお兄ちゃんが私を.....大切な人と思っているか.....ら.....じゃないかな」


「え?でも俺は.....有希の.....」


「.....良く分からないよ。でも.....私はそう答えるしか無いよ」


「.....」


有希が好きなんだぞ俺は。

そんな馬鹿な、と思いながら栗葉を見る。

栗葉を見ていると.....身体に火が点いた様な感覚になった。

俺は真っ赤に赤面する。

そして.....前を見る。


「.....ど、どうなっている?」


「.....わ、分からないけど.....」


「.....」


「.....」


く、栗葉の事を考えて何でこんなに身体が熱くなる?

意味が分からないんだが.....。

思いながら俺は口を抑える。

俺は.....栗葉が好きなのか.....?

そうなのか?


「.....俺は.....」


「.....?」


「.....待った。ちょっと待ってくれ。マジか.....」


「.....どうしたの?」


「.....俺、いつの間にか栗葉が好きになっていたみたいだ」


その事に少しだけ目をパチクリしてから。

頬を目をグルグル回して朱に染め始めた栗葉。

俺はその事に相当に額に手を添える。

いや.....こんな馬鹿な事が?


「.....わ、私が好きなの?」


「.....ああ。.....うん.....」


「.....」


「.....」


これは参ったな.....。

分かってしまうと.....赤くなるしかない。

有希じゃ無いのか。


俺は.....思いながら、と。取り合えず画材を、と思いつつ足を曲げて下に有る画材を取ろうとした時。

よろめいてしまった。


「あ、危ないよ!」


「うお!?」


そして店の中にも拘わらず.....栗葉を押し倒した。

それから.....俺達は見つめ合う。

俺は慌てて立ち上がった。

いかん!


「.....お兄ちゃん.....」


「す、すまん」


俺は画材を持って駆け出す。

いかん、心臓が痛い。

こんなに愛しいとは思わなかった。

恋とか出来ないと思っていたのに、だ。

思いながら.....俺は画材を持ってからレジに向かった。



「.....」


「.....」


俺達は画材を買ってから逃げる様に店を後にした。

困ったな.....本当に身体が熱い。

栗葉の事をこんなに思っているとは思わなかった。

俺は頬を朱に染めながら。

横に居る好きと自覚した女性を見る。


「.....お、お兄ちゃん。何か話して」


「何を言えと。無理がある」


「.....その、恥ずかしいんだけど」


「それは俺もだよ.....」


何だって今なのだ。

今好きと分かってしまったのだろう。

こんな事になったら.....その。


考えが纏まらないじゃないか。

どうしたら良いかも分からない。

このままではデートが成り立たない。


「.....お兄ちゃん。いや。道春」


「.....何だ」


「.....い、今じゃなくて良いから.....その.....待ってるから」


「.....いや、待っていると言われても.....」


「.....そ、それとも私から告白した方が良い?」


それも.....困る。

今の俺はどうしたいのだ?

思いながら.....俺は胸に手を添えるが.....何も浮かばない。


考えが纏まらない。

困ったもんだな.....恋ってのはこんな感じだったか。

分からない。


「.....俺としては好きとしてもこの関係を破壊したくない。だから.....今のままでいこう」


「.....分かった。.....お兄ちゃんが言うなら我慢する」


「.....有難う」


俺は栗葉を見ながら少しだけ笑みを浮かべる。

さて.....ここからだな、と思う。

そして栗葉を深呼吸しながら改めて見る。

いかんかなりキツイ。


「.....お兄ちゃん。見つめられるとキツイかも.....恥ずかしい」


「そ、そうだな。うん」


新婚のカップルの様なザマだ。

さてどうしたもんかな、と思いながら頭をボリッと掻く。

そして.....栗葉から目を逸らした。

クソッ、こんなに苦しいものだったか?

全然記憶にない。

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