第18話 動き出す時

俺達の所属している紅組が勝った。

その為に優勝の打ち上げの準備をし始める。

近所のファミレスで、だ。


それからファミレスに来てから.....絵の事に関して俺達は話し始めた。

俺がどうやったら絵に慣れる事が出来るか、という話だ。

みんな真剣に意見を出し合っている。

打ち上げじゃ無く、俺の為に動いている様に見えるがまあその点は置いておこう。


「絵に関して慣れるって言ったらやっぱりあれだよね。徐々に絵を見て慣れていくしかないよね」


「そうだな。俺っちも.....やっぱり徐々に絵を描いていくしかないと思う」


「慣れだね。うん」


「そうそう」


こんな俺の為に.....コイツらは必死にやってくれている。

俺は.....どうやって絵を描いていこう。

思いながら.....俺はコーヒーを飲む。

そして柔和になる。


「頑張っていますよ。お兄ちゃんは」


「.....それは分かってるよ。私達が特に理解している。だけどそこからまた一歩を踏み出せたらまた話が変わるんじゃないかなって思う」


「そうっすね」


「殻をぶち破るみたいな感じだね」


「そうだね」


顎に手を添える。

すると、じゃあそうとなったら動こう道春、という結論になった。

え?何処にどう動くんだ。

考えていると笑顔を見せた有希。


「家だよ。私の家」


「.....!」


「!」


有希は笑顔で無自覚で言う。

ピクッと栗葉と愛花が反応した。

それから.....俺をジト目で見てくる。

な、何だよ一体。

思いながら居ると栗葉が話した。


「お兄ちゃん.....女の子の家に行くんだね」


「.....そ、そうだろうな。でも何でそんなジト目をするんだ」


「あくまで私と愛花さんが貴方を好いている事を忘れちゃ困るよ」


「この場で言うなよ!?」


いやいや!?

嫉妬している様な顔をする栗葉。

その言葉で衝撃を受けていた。

何というか有希が特に、だ。

そして、ふえ?、と顔が真っ赤になっていく。


「.....わ、私はそんなつもりじゃ無いんだけど.....」


「そ、そうだよな!有希!」


「.....」


「.....」


何だか怪しいな.....的な感じで栗葉と有希がジト目で俺達を見てくる。

いや、そんな目をすんな。

俺達はやましい事をする訳じゃ無いんだから。

何だってそんなに疑うんだ。

勘弁してくれ。


「モテモテだな。山本。ハッハッハ」


「いや、助けてくれよ。長石」


「.....俺は助けないぜ?だって嫉妬しているしな。俺も。ハッハッハ」


「いやいや.....」


全くな。

考えながら.....俺は有希の家に行く計画を頭で練る。

確かに有希の言えなら画材も沢山有るだろうし.....それなりには集中出来るだろう。

そうなると後は俺の絵に対する恐怖だけだが.....。

困ったもんだな。


「お兄ちゃん。.....そんなに不安に思わなくても良いと思うよ」


「.....え?」


「.....絵に対する恐怖はもう無いよ。きっと。後はお兄ちゃんが一歩を踏み出せば.....大丈夫だよ。きっと」


「.....そうなのかな」


「うん。きっとそう」


栗葉はニコッとする。

愛花も長石も有希も姫野も。

俺を見ていた。

胸に手を当てて俺は思いつつ。

ゆっくりと顔を上げた。


「.....頑張ってみる。もう大丈夫だと思えたから」


「.....だな。うん」


「.....そうだね」


そうなると後は俺の問題とかか。

と長石は言う。

長石は.....足の靭帯を断裂して選手生命が削がれた。

俺は.....その長石を見つめる。

そんな長石は外を見た。


「.....でも今が楽しいしどうでも良いけどな」


「.....長石.....」


「俺、山本に出会って良かったわ。本当に」


「.....俺もお前に会って良かったと思ってる。サンキューな」


「ああ.....ってか俺は何もしてないんだが」


色々しているじゃねーか。

これで何もしてないってのはおかしいぞ。

俺は目をパチクリしながら.....長石にその様に発する。

長石は、そうかな、と苦笑い。


「.....俺はお前に励まされた。絵を描く事を」


「.....俺も励まされた。お前に動く事を」


「.....だな」


「ああ」


俺達はクスクスと笑い合う。

それから栗葉達を見た。

じゃあどうしようか、的な感じになっている。

これから、と、だ。


「.....明日休みだよね。体育祭の休日で」


「.....明日、有希さんの所に言ったら?お兄ちゃん」


「.....だな。うん」


「.....その次は私とデート.....」


「.....え?何か言ったか?」


栗葉が話してその次に小さく話した。

俺は?を浮かべて栗葉を見るが。

栗葉は、な。何でもない!、と赤くなりながら否定した。

俺は首を傾げながらも.....まあ良いかと思いみんなを見る。


「.....取り敢えずは打ち上げ乾杯しようか」


「.....あ、だね」


「うん」


そして俺達は.....乾杯をしてから。

そのまま.....暫く話し合ってから.....帰宅した。

その時には既に17時を回っており。

俺は急いでアパートに帰って来る。

母さんは仕事に行っていた。


俺は横の場所に保管してある.....絵のキャンバスを取り出してみる。

そして.....俺はジッと見てみた。

吐き気がしてくるかと思ったが.....そんなに吐き気はしない。

どうも.....有希と再会していい方向には動いている様だ。


「.....」


そのまま俺は絵の具をパレットに溶き。

そして.....木炭を取り出してパン(消しゴムの代わり)を取り出す。

それから眉を顰めて.....吐き気を抑えつつ。

そのまま下書きをしてから描いてみた。


目の前にある花瓶を、だ。

しかし絵の技術はかなりやはり劣化していた。

当たり前だとは思うけど、だ。

俺は溜息を吐く。

まだまだこれから.....だな。


「全くな。俺の技術もやっぱり劣化するか。でも.....有希達のお陰だな」


此処まで来れたのは、だ。

取り敢えずは慣れていこう。

思いつつ俺は.....天井を見上げてから。


胃液を飲み込んだ。

上がってきたから、である。

それから目の前の花瓶をジッと見てから。

溜息を吐いた。

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