第12話 シャチの王とサメの王
ガゴーンはアケボノ海のシャチの王ヴァレンタイン15世にテレパシーを送りました。
…ピピピ… この前、シャチ王のハッセーがチッゴリバーに追い込んだサメ達が悪さをするので連れて帰るように …ピピピ
「お!ガゴーン様だ。… この前って数十万年も昔のことなんだけど、しょうがないなあ… サメってあの頭が悪そうな奴らだな。 …昔我々の大事な子供や年寄りを襲ったって話は聞いているが …やっかいだなあ。」
実はサメ族は太古の昔、アケボノ海に住んでいてシャチ族とともにあらゆる生き物たちから恐れられる存在でした。
でもシャチはサメよりもはるかに体が大きく、知能も高かったため、サメ族を馬鹿にしてあまり相手にしませんでした。大人の巨大なシャチがやって来るとサメは他の魚と同じようにこそこそと岩陰に隠れるのが通常でした。
しかし時々問題が発生していました。それは老いて一人海底で静かに死を迎えようとしている老シャチやまだ体の小さい子供のシャチがサメに見つかり襲われるのです。
本能のままに生きるサメ族をこのまま野放しにしてはおけないと考えたシャチの王ヴァレンタイン8世はサメ族の駆逐に乗り出しました。
巨大なシャチの群れがサメ族を狩る戦いが10年ほど続いた後、追い込まれたサメのボスキリングは数千匹に減ってしまったサメ族をアケボノ海の中央に集結させてシャチ族に最後の戦いを挑みました。
キリングは下方から密かに奇襲させるために500匹ほどのサメを深い海底に潜ませていました。
激しい戦いが始まりました。サメはヒットアンドウエイでバラバラに攻撃したらすぐに逃げる戦法を繰り返しました。
まともに戦ったらあっという間に負けるので、サメのボス キリングは一噛みだけでひたすら逃げまくりながら時間を稼ぐ方法をサメ族に徹底していました。
狡猾なサメ達は本気で巨大なシャチとは戦うつもりはありませんでした。
戦場が広範囲に広がり、敵味方が入り乱れて、時間が過ぎていきました。
そしてシャチの息切れが始まりました。シャチは魚族ではなくて水中動物なのです。そして呼吸は水面に鼻を突きだしてするのです。
次々に危険な腹を見せながらシャチたちは海面に向かって必死に泳ぎ始めました。
この時を待っていたキリングはニヤリと笑ってすべてのサメ族に攻撃命令を出しました。
息が切れかかったシャチに容赦なくサメが襲い掛かります。呼吸するために急浮上しているシャチはサメに食いつかれても戦っている余裕はありません。
そしてついにキリングの命令で深海に潜んでいた500匹のサメ族の急襲部隊が急上昇して下からシャチの腹めがけて鋭い牙で襲いかかりました。
シャチの王ヴァレンタイン8世は形勢が逆転してもあわてる気配もなく離れた場所からジッと見ていました。
そこへまっしぐらにキリングと数十匹のサメが近づいてきました。
「ギャハハハ!!ヴァレンタイン!!ザマねえなあ!皆殺しにしてやるぜ!」
「ふん、すでに血に酔っているな、キリング。」
「ギャオー!!」
猛然とキリングと数十匹のサメがヴァレンタインに襲い掛かりました。
しかし横から突進してきた護衛のシャチ群に跳ね飛ばされました。
「クソくらえー!!ギャーッス!!」
狂ったようにキリングとサメ達は護衛のシャチと戦い始めました。
「数え終わったか?」
ヴァレンタインが側近のシャチに聞きました。
「はい!各所の報告をまとめると戦闘中のサメの数は概ね6800匹、すべてのオスのサメが戦闘に参加したもよう。もう奇襲部隊も予備もいないと思われます。」
「ようやく阿呆どもが出つくしたか。いったん軍を引かせよ。そろそろサメが勝手に殺し合いを始めている頃じゃ。」
ヴァレンタインの言った通り、血の匂いに酔ったサメが敵味方お構いなしに噛みつき始めました。
その間に海中音波が流れてシャチがあっという間に戦いの場から周囲に下がりました。
しかし血に酔ったサメは味方同士にもかかわらず殺し合いを続けました。海中が真っ赤に染まり、サメの肉が飛び散りました。
多くのシャチもかなりの傷を負いましたが、シャチはサメよりはるかに巨体なので、致命傷になるほどの傷はほとんどありませんでした。
シャチが息切れしたのはサメを騙すポーズで、隠れているサメの奇襲部隊や後方部隊をおびきだすための作戦でした。
海中に漂う大量の血煙で視界が遮られて、無数のサメが深海に沈んでいきました。そしてサメが半減した頃に、ヴァレンタインが再び攻撃指令を指示しました。「腹いっぱい食え!」
指令音波が海中を流れてシャチがサメに襲い掛かりました。
冷酷な海の王者が容赦のない食事を始めたのです。もうサメといえどもシャチにとっては単なる餌になってしまったのです。
背びれをかみ切られて、サメのボス キリングは少し冷静さを取り戻しました。
「ば!ばかな!俺様が食われるだと!」
戦うことを止めたキリングは一番血の濃い場所に突っ込んでいきました。
大量の血で視界が悪くなったところを縫うように暗い深みに向かって真っすぐ泳いで行きました。
うす暗い場所でキリングは静かに泳ぐのを止めました。大量のサメが次々に上から沈んできて暗黒の深海へ消えていきます。その時暗闇から声が聞こえました。
「キリング様、ご無事ですか?」
数匹の腹心の部下たちが深みに潜んでいました。
いずれも大きな傷を負っています。
「うむ、逃げるぞ。」
「はい、皆で話し合っておりました。外洋に逃げれば手負いの我々の血の匂いにつられて魚竜が集まってきます。シャチよりさらに手ごわいでしょう。
チッゴリバーに逃げましょう。」
「む!川か!?淡水だぞ!我々は生きていけるのか?」
「はい!川を旅をしたものがおります。餌は少ないですが呼吸は大丈夫です。」
「そうか!ではチッゴリバーに逃げるぞ!動ける者を探して後を追わせろ!
それからコロニーのメスと子供も可能な限り連れ出せ!」
それだけ言うとキリングは自分一人でチッゴ・リバーの河口に向かって深みを泳ぎだしました。数匹が付いて行き、数匹はサメのコロニーに向かいました。
・・・・・
その後、数万年が経ちアケボノ海の支配者となった凶暴なシャチ族もガゴーンの偉大な力に制圧されて徐々に温和な種族となっていました。
「どうするかの? …こまったのお。」
ガゴーンの指示は絶対なのです。でもサメをアケボノ海に入れてはいけないという先祖から伝えられた決まりもあるのです。
ヴァレンタインは困ってしまいました。
…ピピピ…魚竜も首長竜も遠くに去ったよ。…
「ガゴーン様!」
…ピピピ ガゴーンが珍しく長い話をはじめました。
ちっごランドは広大で、生物の生存地域は拡大してるんだよ。だから古代に生まれた生物ほど外側に広がっているのさ。遠ざかっているって事だよ。
僕が小さい頃は、ティラノサウルスやプロントサウルスとかが近くのオギョーカン平原やナンカン山脈に居て、仲良く遊んだよ。アケボノ海にも魚竜や首長竜がたくさんいて、波乗りや泳ぎの競争したりしたのさ。
でもどんどん遠ざかって行ったんだよ。
もう彼らは外洋の遠くに行ったから、サメ族を外洋に出しても大丈夫だよ。
魚竜なんかにパクパク食べられないってことさ。
ということでシャチ族もそろそろより広い外洋にでても大丈夫だよ。
「え!我々も広い外洋へ出ることができるのですか!!」
… そうだよ。今だったら外洋の半径10000km以内だったらシャチ族より強いのはマッコリオン(クジラの一種)くらいだけど、彼らは大人しいからね。伸び伸び暮したらいいよ!」
「そっかー …外洋かぁ …行ってみるかなあ…」
…サメ族を連れていくんだよ。
「はは!わかりました!ありがとうございます。!♪」
…ピピピピ!
ガゴーンのテレパシーを聞いてヴァレンタインはサメの事なんかより自分達がアケボノ海から広い外洋に出ていく方に関心が集中して心が躍りました。
アケボノ海は径が2000kmほどのかなり広い湾なのですが、長年住んでいるシャチにとっては周囲が陸地に囲まれているので閉塞感を感じていました。
シャチもまたその昔、自分達よりも巨大な首長竜や魚竜との戦いに敗れて、広い外洋を追われ、このアケボノ海の中で生きていくことを強いられたのです。
遂に再び広大な外洋へ出ていけるのか …
ヴァレンタインは部下たちにチッゴリバーでの任務と外洋進出の準備を命じました。
シャチの王ヴァレンタイン15世は500匹の部下を引き連れて、チッゴリバーを昇り始めました。
シャチはチッゴ・リバーに住むどの種族よりも平均的に体が大きく50m~100mほどもあります。数十mもある真っ黒い不気味な背びれを数百本も水面上に立てて、すごいスピードで波しぶきを立てて進んで行くのは壮観でした。
海の覇者シャチの群れが川を上っているという噂はあっという間に広がって、多くの見物人が両岸に集まり、シャチの息継ぎによる水煙が上がるたびにドッドーっと歓声が沸きました。
観客の中には身長50mもある怪獣ゴメスとゴルガンの兄弟もいました。
「ゴメスの兄貴、シャチの奴らがえらそうにやってきたぜ。ちょっと痛い目に合わせてやろうぜ。」
「ゴルガン、泳げるんだったらお前が行ってこいよ。」
「おれは泳ぎなんかやったことがないぜ。」
「おれも… おれたち水は苦手さ。…」
「それにシャチの野郎どもはガゴーンさんの命令でやってきたらしいぜ。」
「え!そうなの… 良く考えると俺たち今日は見物に来たんだよな。…
シャチってすごいなぁ。ワォ!!」
ゴオー!!2匹の巨大怪獣が歓迎のあいさつのように空に向かって火を噴きました。
すると火炎を吐ける怪物が群衆の中から次々に火を噴きました。
ヴァレンタインが最初に立ち寄ったのはサメ族のコロニーでした。
そこはシャチが予想していたよりはるかに小さく貧しいものでした。
「ガアー!!海のシャチが何の用だ!お前たちにアケボノ海を追われて俺たちの祖先は川に住むようになったんだぞ!」
数万年ぶりに会ったシャチとサメですが、川に追われたサメは一回り体が小さくなり、とても巨大なシャチと戦う相手ではなくなっていました。
「お前はそれで大人か??」
「俺はサメ族のボス ギルだ!ギャオー!!」
いきなりギルと数匹のサメがヴァレンタインに襲い掛かりましたが、警護のシャチに横から体当たりでぶっ飛ばされた上に、どのサメもなんとシャチの大きな口にくわえられてしまいました。
「グワー!!殺せー!!」「食い殺せー!!」
「フン… サメ族のボス ギルとか言ったな。わしはシャチの王ヴァレンタインだ。お前たちのような小物は一噛みで飲み込んでしまえるぞ。
その昔アケボノ海の覇権を争って我々の先祖と戦ったサメ族とは大違いじゃ。」
「お前たちのせいでこうなったのだー!!川は海よりははるかに小さく餌も少ないのだ!生き延びるために何代もかけて小さくなったのだ!!くそー!!!」
「今日はお前たちのような小魚(こざかな)を食べに来たのではない。ガゴーン様の命令できたのだ。小魚!よく聞け!」
「ガ!ガゴーン!!だと…」
「そうじゃ、我々はまもなく夢であった広大な外洋に出て行くのだ。アケボノ海よりはるかに広く餌も豊富な外海じゃ。ガゴーン様が我々の先祖からの夢であった外洋へ行って来いと言って下さったのだ。わかったか!」
「な!なんの関係がサメにあるというのか!ギャオー!!お前たちが出て行って、アケボノ海を我々によこせー!!ギャギャギャース!!」
シャチにくわえられたままサメがまた激しく暴れはじめました。シャチの牙によって自らの体から流れる出る血の匂いに酔ってきたようです。
「ふん、もう血に酔ってきたか。噂に聞いた通りの馬鹿どもじゃ。
そうしてお前の先祖も共食いで滅びたのだ。」
「やかましー!!ギャー!!!!」
「ギル、死にたくなかったら頭を冷やしてよく聞け。
今、大ナマズのガロンという者がチッゴリバーに平和をもたらす努力をしているのだ。
もちろんガゴーン様も川の民の平和な暮らしを望んでおられる。しかし平和を守るにはお前達の様な血酔いの凶族は邪魔なのじゃ。その有様だからな。
ふん、このままお前達を今食いつくしてもいいんだけどな。
今のお前達はシャチにとっては単なる餌じゃ。
しかしガゴーン様は心が広くやさしいぞ。お前たちもいっしょに外洋に連れて行けと言われたのじゃ。」
「ギギギャ!!外洋は太古の怪物がいるとこじゃ!!お前達だけで行って食われればよかろう!!グワー!!アケボノ海をよこせー!!」
「ガゴーン様が太古の怪物、魚竜や首長竜ははるか遠くに去ったと教えてくれたのじゃ。だから我々シャチ族は長年の夢であった広い外洋に出ていくのだ!
お前らも一緒に来い!サメ族も昔の栄光を取り戻すのだ!
腹いっぱい食いたいか!それともお前達の家族も子供もシャチの餌になりたいか!」
「お!俺は海に行きたい!!」
突然、シャチにくわえられている手下のサメがさけびました。
「俺もじゃ!!!女房や子供に腹いっぱい魚を食わせてやりたい!ギャギャ!」
手下のサメ達が次々に叫びました。
「川魚じゃ腹いっぱいにならないんだ!俺は海に行きたい!!」
「おれの恋人カレンちゃんが餌になるなんて!!絶対いやだー!!」
シャチを恐れて隠れていたサメ族の仲間や家族が恐る恐る岩陰から出てきて言いました。
「私たちは餌の少ない川で暮らすのはつらいです。子供に十分な餌がない時もあるのです。」
「チッゴリバーは川なのにサメより大きくて強いモンスターや生き物がたくさんいるのよ。だからサメ族はこんな浅瀬の餌が少ないところで暮らしているんだわ!!」
「シャチの王よ!みんな先祖が住んでいた広く深い海に帰りたいのです。」
突然、ボスのギルが叫びました。
「お前ら!何を言っているんだ!!シャチの言うことを聞くなんて俺が許さんぞ!ギャギャギャー!!!」
周囲から思わぬ言葉が飛びました。
「ギルのアホウ!乱暴者のお前なんかボスの器じゃないぞー!!食われてしまえー!!!」
その様子を見ていたバレンタインが言いました。
「これは意外なこと。…サメ族のみんなはボスに不満らしい。
サメ族の者どもよ!我々といっしょに広い外洋に行ってみたいか!!」
ドドー!!とどよめきが起こりました。連れて行って下さい! 俺も行きたい! 私の家族もみんなで行くわ!新しい暮らしがしたーい!!
それを聞いてヴァレンタインが部下のシャチに言いました。
「よかろう。ギルだけ食ってしまえ。後の者は離してやれ。」
ギャー!!ボキボキ!!バキバキ!!ムシャムシャ…
一瞬の叫び声の後、あっという間にあたり一面に血が舞って、ギルはシャチに飲み込まれてしまいました。
サメの民衆は威張り散らしていたボスのあっけない最後とシャチの強さを目(ま)の当たりにしました。
そして群衆はギルの血に酔ってさらに興奮しました。
「サメ族の者どもよ!次のボスを選び、すぐに長旅の準備をするのだ!
明日の夕刻、我々がここに戻ってきたなら、すぐに出発だ!日陰で生きたいものはこの地に残れ!!」
バレンタインがサメ族の民衆に向かってそう言うと、サメ族の民衆はドドドーっと地鳴りのようにどよめいて大騒ぎをしながら自分達の住処に戻っていきました。
海に帰るぞー!!新天地に行くぞー!!あたらしい生活だー!!
サメの伝令が何匹も川下や川上に向かい、チッゴリバーのあちらこちらに住んでいるサメ族に情報を伝えて行きました。
シャチの王は大ナマズのコロニーに向かいました。
ガロンは地下王国からアーリーンと腹心の部下たちを引き連れてコロニーに戻っていました。
やってきたシャチのあまりの大きさに大ナマズ達は声を失いました。
そして500頭のシャチがコロニーの中央に到着すると水面は光が遮られて王宮の前で出迎えたガロンたちは薄暗くなりました。
「やあ、あなたが若きナマズ王ガロン殿、シャチの王バレンタインです。」
「良くいらっしゃいました。バレンタイン様」
「聞かれているとは思うが、ガゴーン様からサメ族をみんな連れていくように言われたのでやってきました。」
「ありがとうございます。このコロニーを各種族が仲良く共存できる場所にしたいのですが、サメ族は凶暴で全く言うことを聞いてくれず困っていました。
特にサメ族のボスのギルは全く話が通じないばかりかいきなり襲ってくるので話のしようもない有様でした。」
「はははは、ギルか、もう部下が食ってしまった。
「え!食った???」
「サメ族にはもう出発の準備を命じてある。ところで皆さんはそんなに小さいのにガゴーン様は随分皆さんを信じておられる。なにか強さの秘密でもあるんですか。知りたいもんだ。ハハハ」
傲岸なシャチ王の質問にガロンは正直に答えました。
「はい、そうですね。まず火を噴くことができます。」
ゴオー!!ガロンがいきなり50m火炎を噴きました。
大ナマズの部下も次々に火炎を噴きました。
「おおお!」ヴァレンタインが驚いて下がりました。
熱せられた水が多数の泡といっしょに上に昇ると、水面近くで控えていたシャチたちが気持ち悪くなってガバガバ!と水しぶきを上げて逃げ回りました。
「それから衝撃波を出すこともできます。」
ゴゴゴゴ!今度はガロンが衝撃波を出しました。
大ナマズの部下たちも今度は衝撃波を次々に発しました。
シャチは音波を出し合って話をするほど耳の受感部が発達しているので、大ナマズの衝撃波はとても気持ちの悪い振動波でした。
ウワーっと叫んでシャチ王から部下のシャチたちまで大騒ぎになりました。
「ウゲー!!!気持ちワルー!!!」 コロニーの広い水面は大暴れするシャチたちで水しぶきがあがり大きな波が次々に両岸に打ち寄せました。
「電気を出す者もいます。」
「げ!電気!!いやガ、ガロン殿!もう十分じゃ!わかった。わかった。
何故あなたがたが川の覇者になったのか理解できましたな。ハハハア・・」
シャチの不得手なものばかりでヴァレンタインはゲンナリし、傲岸な疑問を少し反省しました。
…ガゴーン様が見込んだだけのことはあるな …
「でも私たちの最後の武器はこの丸い頭でする頭突きです。」
いきなりガロンがヴァレンタインの大きなお腹に突っ込んでいきました。
しかしボヨーン!!と跳ね返されてしまいました。
「ワワ!とても最後の必殺技が通じません。さすが海の王者!ハハハ」あまりに見事にひっくり返ったガロンが思わず笑いました。
「お!これは愉快じゃガハハハ!!」ヴァレンタインも楽しそうに笑いました。
…ピピピピ… ガハハハハ 「お!ガゴーン様!」
ガゴーンがテレパシーの中で笑っていました。
10年ほど経った頃、大ナマズのコロニーがあったチッゴ・リバーで一番広く深い場所は開放されて多くの種族が豊富な餌や静かな環境を求めて移住してきました。もちろん残った大ナマズもかなりいました。また少しだけサメ族も残りましたが、以前のような凶暴さはなくなりました。
大ナマズの大きな集落のあった場所は、迷路のようなトンネル住居の他に、たくさんの水中植物が植えられていろいろな種族が住み、ちょっとした水中商店街ができました。
地下王国では多くの大ナマズが水中ではなく地上に建った建築物の中に住むことに慣れていきました。
もちろん建築物の中は水で満たされていますが、地上の生活と同じように部屋があり、ベッドで寝るのが当たり前になり、また家族がテーブルを囲んで楽しく食事をする生活サイクルとなりました。
なにより水中と違って窓から遠くの景色を楽しむことができます。
それから屋上プールの横ではプールサイドチェアに寝て日向ぼっこをするのが流行りました。
学校では子供たちの声が聞こえてきました。高校までは義務教育です。
そして大学や専門学校を準備中です。たくさんの若い大ナマズがクルメシティやハカタシティでいろいろな専門分野を学んでいます。
ガロンは将来、地上と同じような街をこの地下王国にナマズ族の力で作りたいと思っていました。
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