第2章 2010年 その7

  「シュールな夢」


満天の夜も仇ならむ 人集ふ虚飾の街のきらめき無くば


土間口にぬっと突っ込む核心の言葉 からりと自在に転べ


放り込むスモークサーモンがつと噛む 熊の歓び野生の目覚め


クリスマス常と変わらぬ朝まだき イエスは誰かわが確信を得る

   



   「予感」


正月の箱根マラソン走るかの 勝負の年を震え迎ふる


戦ひの始まるは今 裸木に拠れるもののふ友軍もなし


幻にあらず き白き刃はどうするのだと闇を横切る


雪雲のあるに窓辺の明るきは 冬至の庭の透き徹るゆゑ


「お母さん」と子が書きているツイッターのそれは吾がこと コピペしておく


陽の差すを待ちかねをりし時終はり 花崩るがに笑まふ夢見き




   「急転直下」


星の死のかけら無数に迸り 雷光として吾をつらぬくと


風邪引きのさなかひらめく 引っ越しにまず捨つるもの一番決まる


see youの辞書の文字さえ優しげに 子に疎まるる日の下降線


さにあらず子は信ずべし 溺るるを凌がむとただ世を渡りゆく


責むる子は多分正しき 此の世からはずれてしまひしわが芯の無さ




   「庭の冬花、これを最期と」


顔を出す赤き山茶花五個ばかり 緑の綿に包まれて冬


冬灯りいつもの白き山茶花に隣れる柊 師走を香る


入魂の一陣吹きて染め上げし道の華やぎ 落ち葉一期と


花弁の白きに紫紺の斑の美しき昼顔の種子 集めて別る


昨日の脚の欠けたる蜘蛛は今 燃え立つもみじ知るなくて消ゆ


若きよりひとつの疑問 紅葉も青き若葉もかくも美なるは


耕して美しきものなべて植え生れては散るを 神は眺むや


名も知らぬ紫なりしが 花茎のひれ伏すさまに白くほろびぬ




  「愉快な自然」


おおいそこの松よいづくへ向かはむと竹をも凌ぐ ここに見とるぞ


円かなるゼラニウムの葉 少しずつずれて透けつつ微風に遊ぶ


オキザリス置き去られしかひと叢の何色咲くや 枯野に緑


四十雀しゃれた縞柄 目の高さ幹を登りて恐がりもせず


雀とはかくも小さき 枯れ芝に仲間寄り添ひ啄む何か


鈴蘭の緑の帽子 藤の根をかき分け参戦萌えてみまする


鉄線花一から十まで並らみゐて 雨も嵐も受けて立つがに


青空に雲ひとつ無し 一夜あけオス蜘蛛すでに世代交代


窓近く勢ふ若葉 たちまちに緑の魔窟の住人我は

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