EPISODE29:「野営」

 森の中の探索は下級魔物に遭遇した事以外は特にこれといった事もなく、休憩を挟みながら順調にチェックポイントを通過する。


「特にこれといった事もないな」

「だね」

「無い方がありがたい」


 そういう三人。カイは――


(俺が警戒し過ぎただけかね)


 そう思い始めていた。とは言え油断は全然していないが。そうして空を見てリョウに声を掛ける。


「リョウ」

「ん?」

「そろそろ野営しないか?」

「……早くないか?」

「そろそろやって置いた方がいい」


 これもカイの経験則である。


「体力的にはまだ余裕あるが?」

「それでもだ。とりあえずノルマは達したし」

「でもなあ……」


 そう言いながらリョウはタナカとサトウを見る。すると二人は――


「オレはシンゲツの意見に賛成や。休みたいで」

「僕も」


 との事。二人とも結構疲れているようだ。なので適当な場所を見繕い野営の準備を開始。


「ここと、ここだな」


 リョウは札を周りに貼っていく。〈感知〉、〈魔物避け〉等の札である。


「便利だな」


 その様子を見てカイは呟く。因みに彼も糸を張り巡らせている。タナカとサトウはテントを張っている。


「そうでもない。事前に準備がいるからな」

「なるほど」

「そう言うお前も。その糸便利だな」


 リョウの返しにカイは軽く笑う。


「そうかねえ?……まあ極めるまでが大変だろうけど」

「……確かに」

「ま、俺はちょっと違うけど」

「?」


 義姉からチカラを受け継いで使えるようになった。だからこそ彼女のように才能と修練で身に着けた訳ではない。なので威張れない。


「――そっちはどうだ?」

「もう少し!」

「待ってくれ!」


 リョウの声掛けにタナカとサトウの声が聞こえる。なのでカイは――


「もう少し補強しておくか」


 糸の結界を更に編み上げた。






 その後、四人で他愛ない雑談をしながら夕食を取る。メニューは簡単にブロック状の携帯食料。そして水だけのはずだったが……


「流石に味気ないし……」


 カイが腕を振るう。道中で倒した狼系の魔物の肉(食料になる)と持参した材料と道具を使い簡単なスープと串焼きを作る。


「お前料理も出来るのか?」

「美味い……」

「凄いわ~、シンゲツ」


 そういう三人にカイは軽く笑う。夏休み異世界落下前は野営が多かったので自然と得意になった。更に料理得意の先輩直伝の技術がそれを補強した。


「いやいや、まだまだだよ」


 そう言いながらカイは串焼きを齧る。

 そうして食事を終えれば後は寝るだけ。


「それで?見張りはどうする?普通に四交代?」

「だな。でも問題は……」

「順番だな」


 四人なので二人が途中で起こされる事になる。そこで揉めるかと思いきや……


「オレとサトウが真ん中やるよ」

「……いいの?」


 すんなり決まった。


「二人に結構危険な役割させちゃったから」

「ああ。……二人の方が魔物の撃破数多いからな」


 因みに道中で一番魔物を仕留めたのはカイである。次にリョウが来る。


「じゃあお言葉に甘えさせて貰う。カイ。どうする?」

「俺が最後でいい」

「そんじゃ俺は最初だな」


 そうして休みと見張りに入る四人。だったが――


「よ!」

「お前休んだんじゃないの?」


 少し経ってカイがリョウの所にやって来た。手にはコーヒーのカップがある。


「少し休んだよ。それに目が冴えてね」

「……休まなくて平気か?」

「大丈夫。その気になれば七日七晩飲まず食わず休まずで戦える」

「それは大丈夫なのか?」

「……ちょっと反動ある」


 ケラケラ笑ってカップを渡す。そしてリョウの傍らに座り自分のカップを口に含む。


「だから付き合う。一日二日位なら余裕余裕」

「そ、そうか」


 そのまま二人で見張りを続ける。


「……」

「……」

「「……」」


 両者無言。だったが――


「なあ」

「ん?」

「お前さ……」


 リョウは夏休みに何があったのかと続けようとした。だが――


(軽々しく聞ける事じゃないよな)


 カイと接して分かった事だが彼にはどこか影がある。なので聞きづらい。


「いや、何でもない」


 そう言って話を打ち切ろうとしたリョウだった。

 

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